クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

織田信長との出会いは“秀吉”と“がんまく”をどう変えた?

2007年11月09日 | 戦国時代の部屋
――指導者。
「その時歴史が動いた」に登場した“クラマー”監督にしろ、
「3年B組金八先生」の“金八先生”(武田鉄也)にしろ、
ジャンルは違えど両者とも“指導者”です。
人生において、よき指導者に巡り会えるかどうかは大きな意味を持つのでしょう。

人とのつながりは縁。
いつどんな人と出会い、その縁がどうつながっていくのかはわかりません。
吉とでるか凶とでるか……。
ただ、うっかり八兵衛こと“高橋元太郎”氏が言うには、
良し悪しにかかわらず出会いに感謝することで、人生は明るくなるのだそうです。

ところで、出会いよって人生が変わる話は古今東西よくありますが、
とりわけ昔から人々に親しまれている人物に“豊臣秀吉”がいます。
周知のように、農民の出身ながら天下を獲った男。
大出世を遂げた人物として人々に夢を与え、かつ親しまれてきました。

この天下人秀吉になくてはならないのは、“織田信長”との出会いです。
信長との出会いなくして彼の天下はなかったでしょう。
信長以前に秀吉が仕えたのは今川義元の部将でした。
しかしそこに馴染まず退転すると、信長に仕えます。

身分に関係なく、実力さえあればどんどん取り立てた信長。
農民出身の秀吉にとって、信長との出会いこそ人生の転機です。
実力さえあれば出世は可能ですが、
逆に無能とわかればすぐに切り捨てられます。
身分の高い者が実績を上げられず脱落する中、
秀吉はめきめきと頭角を現していくのでした。

あまつさえ、仕えた家の殿様は天下統一に向けて躍進する男。
古いものをことごとく壊し、新しい世の中を作ろうとします。
秀吉に限らず、信長と出会った者は十中八九影響を受けました。
信長に仕える秀吉はのちに天下人となりましたが、
反信長派には悲惨な末路を辿った者は少なくありません。

1996年の大河ドラマの原作『秀吉』(堺屋太一)には、
“表”である秀吉に対し、“裏”として「がんまく」という男が登場しました。
のちの“石川五右衛門”です。
彼は最初秀吉と共に信長に仕えましたが、やがて離れていきます。
そして信長の創る世界に次第に異を唱え、
秀吉とは全く別の道を歩むのでした。

属す者と離れる者。
信長との出会いが大きな転機であったことは共通しています。
そのがんまくはずっとのちに賊として捕らえられ、
天下人となった秀吉の前に現れました。
別の道を歩んできた両者は、石牢の格子越しにそれぞれの思いを語ります。

「俺は難しい夢を見過ぎた。信長様ができそうもないことを次々と実現なさるのを見て、平らな世の中を創ることもできるような気になってしもうた。だから、誰ともどこでも妥協せなんだ。その結果、いつでも少ない方になった。(略)あくまでも皆是平等を説く俺は、少数派になってしもうた」
五右衛門はそういってちょっとうなだれた。
「そうか。俺は逆だったなあ」
秀吉は、あとを継ぐようにいい出した。
「俺は目の前しか見なかった。信長様ができそうもないことを次々と実現なさるのを見て怖くなった。俺にはとてもかなわん。このお方は神じゃと思うた。だから信長様の申されるまま、申されたことだけを実行するようにした(略)だから俺は、いつも大勢の側にいた」
秀吉はそういって胸を張った。だが、五右衛門はそれを睨みつけるようにしていった。
「お陰で俺は、これまで夢を見ることができた」
「そうか……」
秀吉はそういって視線を床に落とし、ちょっと間を置いて呟いた。
「そのために俺は、夢を超えてしもうた」
(『秀吉』下より)

秀吉の辞世の句は、
「露と落ち露と消へにしわが身かな 難波のことも夢のまた夢」。
信長に仕え、ひたすら走り続けた秀吉が見た「夢」とは何だったのでしょう。
慶長3年(1598)8月18日に死去。
『秀吉』では対照的に描かれたがんまく(石川五右衛門)は、
文禄3年(1594)8月24日に京都三条河原で処刑されたと伝えられています。

引用文献
堺屋太一 1996年 『秀吉 夢を超えた男』下 NHK出版

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2 コメント

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天下壺(つくもがみ) (もののはじめのiina)
2018-12-19 17:12:46
秀吉が天下人になったのは、天下壺がそうさせたという説があります。

「九十九髪(つくもがみ)茄子」という茶器を持つ者が天下人になっていきます。それゆえ、天下壺は欲しがられました、
ただし、持ち続けると「付喪神(つくもがみ)」になって滑り落ちる厄介な壺です。

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Unknown (クニ)
2018-12-22 08:30:10
持てば天下を手にすることができ、
持ちすぎると付喪神になって天下がすり抜ける……。
トランプのジョーカーみたいな存在ですね。
星新一の小説に出てきそうです。
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