クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

タウン記者のウラ話(18) ―三田ヶ谷―

2009年10月28日 | ブンガク部屋
三田ヶ谷小学校を訪ねたのは火曜日の午前中だった。
その日は小学生が稲刈り体験をするということで、
長靴を持って車で出掛けた。

三田ヶ谷小学校は田園に囲まれたのどかな学校である。
しかし、ほとんどの小学生は米作りをしたことがないという。
機械を使っての作業だから、
わざわざ手を使って苗を植えたり、
カマで稲を刈ったりはしない。

埼玉県が推進する“みどりの学校ファーム”を使っての米作りは、
多くの小学生たちにとって初めての体験だったようだ。
人海戦術で一斉に稲刈りを開始する。

四方八方からやってくる人間に驚いたのは生き物たちだった。
バッタやカエルはピョンピョン跳ね、
慌てて走り去るネズミの姿もあった。

長い時間がかかることを予想したが、
思ったより早くに作業は終わる。
稲刈りのあとは落ち穂拾いで、
黙々と作業をする子から友だちとしゃべりながらやる子、
すでに飽きている子など十人十色だ。

ぼくは長靴を履いて、そんな作業風景を何枚も激写する。
なるべく絵になる写真がいい。
角度、明度、情報量を気にしながらシャッターを切るが、
考えすぎるとチャンスを逃す。
何枚も撮っても、最初の一枚が一番よかったりする。

ところで、三田ヶ谷と言えば『田舎教師』とゆかりのある土地である。
村には小林秀三(作中・林清三)が勤めた“弥勒高等尋常小学校”があったし、
“お種”が学校に届けていた弁当も、村にあった「小川屋」のものだ。

「小川屋」はすでに閉店しているが、
尋常小学校跡の文学碑や田舎教師のブンロズ像が建っている。
いずれも三田ヶ谷小学校から歩いていける距離である。
お種さんの眠る弥勒の円照寺には、
「小川屋」で使用されていた道具などが展示されている資料館が建っている。
いまでも文学散歩に三田ヶ谷を訪れる人は多い。

そんな『田舎教師』ゆかりの土地に住む生徒たちは、
この小説をどんな目で見ているのだろう。
無関心な子、ひと通り読んだことのある子などそれぞれだが、
少なくとも『田舎教師』を知らない子はいないと思う。

やはり『田舎教師』はブランドなのだ。
羽生郷土資料館で開催されている「田舎教師展」に足を運んでくる来館者を見ていると、
改めてそう実感せざるを得ない。

古くは“片岡鉄兵”や“川端康成”、“横光利一”が『田舎教師』の町を訪ね、
その後“秋谷豊”や“宮澤章二”の詩人たちが、
題材として詩に詠んでいる。

中でも秋谷豊氏は、いささかネガティブな雰囲気漂う『田舎教師』に反し、
明るく揚々とした詩を書いている。
その詩を載せて、この記事の結語としよう。

「羽生」
少年の生まれた家の横町は
羽生の町並みへつづく街道だ
馬に鞍を置いた馬車が走り
遠くの盛りや田んぼみちの向こうから
鳥の大群が空を暗くして飛んで来る
「田舎教師」の静が生きたあの時代は
みんなみんな 遠く なつかしい

探検家を夢みる少年は ただひとり
利根川の土手に寝ころんで 夕映えの残光と
平野の北のはずれの山の頂きを見ている
一枚の地図を手に村々を歩いた田山花袋よ
明治の時の夜明けに目をさました太田玉茗よ
ひとつの時代は過ぎ ひとつの世紀はめぐる
きみらが越えてきたはるかな道を
現代のぼくらはいま踏みしめて歩く
(『日本海』秋谷豊著、地球社より)


三田ヶ谷小学校の稲刈り。
10月24日付の「埼玉新聞」に掲載された。


同上


同上


みどりの学校ファーム


稲刈り終了

参照URL
http://www.city.hanyu.lg.jp/kurashi/madoguchi/hisyo/03_city/03_mayor/album/album.html
秋谷豊氏は「ふるさとの詩」(羽生市主宰)の選考委員だった。
さいたま文学館や埼玉文学賞の授賞式のときに声を掛けて下さった。
「前からあなたのことを知ってましたよ」の言葉が忘れられない。
なお、09年7月25日にさいたま市「市民会館うらわ」で、
「秋谷豊先生を偲ぶ会」が開かれた。
河田晃明羽生市長も出席されている。


田舎教師のブロンズ像(埼玉県羽生市弥勒)


弥勒高等小学校の跡地に建つ文学碑(同上)


お種さんの資料館(同上)


小川屋跡

web埼玉(埼玉新聞情報サイト)
http://www.saitama-np.co.jp/

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