九品人の落書帖

写真をまじえ、身の回りで見聞きしたことを、つれづれなるままに!

君子は怒りを移さず

2020年08月05日 | 書籍

 「君子は怒りを移さず」(論語)という。

 これに反し、怒りを他へ移すのが「室に怒りて市に色す」。

 自分の部屋で腹の立つことがあると、街中へ出て無関係の人に八っ当たりする。

                    ■

 春秋時代、楚は呉と戦うが敗色濃厚であった。

 気をよくした呉王は、弟の蕨由(けつゆう)を派遣して楚軍を慰問させた。

 これを嫌がらせとみた楚王は、蕨由を捕らえ殺そうと最後の訊問をした。

                    ■

 「お前は、ここへ来ることを占ったら吉と出たから来たのであろう」

 「勿論です。私が無事に帰ったら我が軍は安心して備えを怠るでしょうし、

 両国は平和を取り戻して吉です。

 反対に、私が殺されたら呉軍は勝利の余勢をかって、一気に貴国へ

 攻め入るでしょうから、これもまた吉、どちらへ転んでも吉なのです」

                    ■

 楚王は、この戦は利あらずとみて兵を引き上げることとし、蕨由を楚へ連行した。

 だが、考えれば考えるほど、呉に負けるのが口惜しい。

 そう思うと、軟禁している憎い呉の蕨由に腹が立つ。

 ついに殺そうと思い立ち、側近たちに相談した。

                    ■

 「それは筋違いです。この度の戦いは楚から仕掛けたもの。

 いわば非は我が方にあり負けるべくして負けたのです。呉の蕨由のせいでもありません。

 諺にも『室に怒りて市に色す』と申します。

 ここは、ひとつ彼を放して帰し、呉と和を講ずべきでしょう」

                    ■

 楚王は、これを聞き入れて蕨由を帰国させ、呉と仲直りしたのである。

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