1960年代末、横浜はまだ異国情緒たっぷりな街です。
中華街も今と違って妖しげな雰囲気を持っていました。
そこで外国人女性として女装した宏子と夏子は食事をします。
男の自分を女だと思ってみんなが見てくれる。
その魅力に木島宏氏はスカートをむくむくと揺らすのでした。
横浜の中華街で、食事をしている時、木島の男性自身は、怒張し切っていた。
なまじっか、高級な中華レストランを撰んだばっかりに、ボーイは、金髪のカツラとも知らず、外人だと思い込んで、
「マダム、マダム…..」
と連発する。
マネージャーすら出て来て、
「メイ・アイ・イントルデュース・マイセルフ?」
などと、下手な英語で、自己紹介をしたがる。
木島宏は、そのたびに、痛いほど、怒張を覚えた。
今日は、コルセットを締めず、ナイロン・パンティー枚である。
だから、昂奮するたびに、スカートが、むくむくッと揺れる。
それを隠そうとして、ストッキングの脚を組む。
すると、股の間で、熱い火柱が揺れ動くのであった。
みんな、女として見ている。しかも、外国の女に――だ。
それだから、余計に昂奮する。
ゾクリ、ゾクリとする。
股のあいだに喰い込んでいる、ナイロン・パンティの感触。
ストッキングの、ゆるやかな緊縛感。
化粧のすべての羞らい。
ぎゅッ、と締めつけるような、ハイヒールの痛さ。
ない乳房を、糊塗しているブラジャーの中のスポンジーケーキ。
金髪のカツラの重さ。
マニキュアされた爪の朱さ。
……すべてが、彼にとっては、恍惚の対象である。
それを身に、しっかと纏い、変身して、食事している妖しい楽しさ。
彼は、たまらなくなった。
食事の途中で、オナニーに立とうかと思った位である。
二人は、食事のあと、山下公園を散歩して、モーテルに戻った。
その散策の時の、なんと云ったらよいか、快い思い出と云ったら!
彼は、それを考えただけで、ゾクゾクして来る。
ハイヒールで闊歩する。
スカートの内側では、ピサの斜塔みたいなものが、揺れ動いている。
「おッ、いい女だなア」
なんて、通行人がすれ違いざまに呟く。
これが、こたえられない。
みんな白人の女だと、思い込んでいる。
『血と油と運河』(梶山季之著)
中華街も今と違って妖しげな雰囲気を持っていました。
そこで外国人女性として女装した宏子と夏子は食事をします。
男の自分を女だと思ってみんなが見てくれる。
その魅力に木島宏氏はスカートをむくむくと揺らすのでした。
横浜の中華街で、食事をしている時、木島の男性自身は、怒張し切っていた。
なまじっか、高級な中華レストランを撰んだばっかりに、ボーイは、金髪のカツラとも知らず、外人だと思い込んで、
「マダム、マダム…..」
と連発する。
マネージャーすら出て来て、
「メイ・アイ・イントルデュース・マイセルフ?」
などと、下手な英語で、自己紹介をしたがる。
木島宏は、そのたびに、痛いほど、怒張を覚えた。
今日は、コルセットを締めず、ナイロン・パンティー枚である。
だから、昂奮するたびに、スカートが、むくむくッと揺れる。
それを隠そうとして、ストッキングの脚を組む。
すると、股の間で、熱い火柱が揺れ動くのであった。
みんな、女として見ている。しかも、外国の女に――だ。
それだから、余計に昂奮する。
ゾクリ、ゾクリとする。
股のあいだに喰い込んでいる、ナイロン・パンティの感触。
ストッキングの、ゆるやかな緊縛感。
化粧のすべての羞らい。
ぎゅッ、と締めつけるような、ハイヒールの痛さ。
ない乳房を、糊塗しているブラジャーの中のスポンジーケーキ。
金髪のカツラの重さ。
マニキュアされた爪の朱さ。
……すべてが、彼にとっては、恍惚の対象である。
それを身に、しっかと纏い、変身して、食事している妖しい楽しさ。
彼は、たまらなくなった。
食事の途中で、オナニーに立とうかと思った位である。
二人は、食事のあと、山下公園を散歩して、モーテルに戻った。
その散策の時の、なんと云ったらよいか、快い思い出と云ったら!
彼は、それを考えただけで、ゾクゾクして来る。
ハイヒールで闊歩する。
スカートの内側では、ピサの斜塔みたいなものが、揺れ動いている。
「おッ、いい女だなア」
なんて、通行人がすれ違いざまに呟く。
これが、こたえられない。
みんな白人の女だと、思い込んでいる。
『血と油と運河』(梶山季之著)
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