女装子愛好クラブ

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鎌田実安は愛撫の前に必らず櫟弘一郎と一緒に入浴して彼の躰を隈なく洗い浄めながら......

2021年06月08日 | 私的読書日記
美貌の高校生・櫟弘一郎は、実業家で社会的地位もある鎌田実安氏から「君を援助したい」という申し出を受けました。そして、鎌田が借りてくれたアパートで「愛人」として暮らし始めたのです。

 男と男とが、愛し合う……。
 それは常識では考えられない世界であるが、現実には、存在するのだった。女性でありながら、女性しか愛せない人がいるように--。
 高校生の櫟弘一郎は、鎌田から抱かれ、接吻されたときには、正直に云って、ゾーッとした。
 だが、その愛撫を受けているうちに、次第に昂奮して行ったことを覚えている。
 相手は、女性ではなく、同性だと思いながらも、櫟弘一郎は、めくるめくような快感に、思わず躰をのけぞらせ、のたうち廻ったのだ・・・。

 鎌田と、櫟との愛人関係は、五年間つづいた。
 城南大学の演劇部員から、大東映画のニューフェイスに応募して合格し、卒業と同時に入社したとき、鎌田は彼のために背広を十着つくって呉れ、「そろそろ別れるときが来たようだね」
 と云って、自分から身を退いて行ったのだ。
 鎌田実安は、それから間もなく、胃潰瘍で死亡した。
 だから、櫟弘一郎が、鎌田の愛人として、幸福な大学生活を送ったことは、誰にも知られてはいない。
(中略)
 鎌田は、愛撫の前に必らず、彼と一緒に入浴して、彼の躰を隈なく洗い浄めながら、途中でたまらなくなったように、彼の躰の、そこかしこに接吻するのであった。
 そのあと二人は、バスタオルを腰に巻きつけたまま、少量の酒を飲んだ。
 これは昂奮をたかめ、理性を減じるのに役立ったようである。
 接吻・・・愛撫。そして愛咬。
 相互〇〇〇〇からフ〇〇〇〇ヘ。
 ……擦弘一郎は、そのときになると、もう我慢しきれなくなるのだった。
 〈パパ! ああ、たまんないよ!〉
 〈ああ、死にそうだよ、パパ!〉
 そんな彼の呻き声が、不図、耳朶の底で甦って来る。
   出所『男を飼う 鞭と奴隷の章』梶山季之著1969年 集英社刊
    諸般の事情から引用者が一部を伏字にしました。


梶山季之先生の著作を支えるものは取材力でした。
この鎌田氏と櫟弘一郎君の同棲も彼の取材網にひっかかってきたものでしょう。
実名ではもちろんかけないから、小説に書く。

男性同性愛者を対象とした雑誌『薔薇族』の創刊は1971年ですが、この『男を飼う』はそれよりも前の1968-1969年に『週刊明星』に連載されていました。
これまで誰も読んだことのない(特に女性読者は)と思われる男性同士の情事の描写。
これを女性週刊誌の連載に入れる梶山季之先生の「突破力」を改めて知ります。

モデルとなった鎌田氏はお亡くなりなっているでしょう。
美貌の高校生・櫟弘一郎君のモデルも生きていれば70歳を超えています。
彼はどのような人生を歩んできたのでしょうか。
そしてLGBTが認められるようになった時代をどう感じているでしょうか。



コメント
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