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女装子愛好クラブ

女装小説、女装ビデオ、女装動画、女装記事などを紹介していきます。

『水蜜の時』③

2025年08月06日 | 女装小説
 
 数週間後に連絡があり、大阪の別の女装クラブと日時を指示されました。女装クラブのことですから、化粧品も衣装もあります。そこで私は複雑な気持ちで化粧をし、口紅を塗ったのです。悲しく哀れなことですが、下着(パンティ)は店の物ではなく自分のものを密かに買っていきました。
 普通、女装するとき化粧をする段階が楽しい一時なのですが、その時けなんとも言えない気持ちでした。もう何ヶ月も化粧品の匂いに触れていませんでした。自分の顔が変わっていくのも他の様な気がしました。でも、私の心の奥にある女装への快感が再びふつふと沸いてきたことはいなめませんでした。

 彼は和服が好きで和服を着せられました。着せられる時も私はただ茫然とした単なる人形のように身体に着物が着せられるだけでした。どうしてこんな人と付き合ってしまったのだ!と悩みました。でも、こうなったのも私が招いた結果なのです。しかし、心の片隅には私は彼に好意を持っていました。彼は金銭的な余裕はなかったと思います。
 
 後で知ったことですが、年齢的にも定職もなく安定した生活をしていなかったはずです。でも松浦さんはロマンを持っていました。女装者に対するいわゆる自分の描く夢のようなものを持っていたと思います。特に、女を緊縛し、その美しさを求め、女の哀れと刹那さをこよなく愛したのではないかと……。
 あるときのことです。
「自分は小説家になりたかった。どんな……?」
「谷崎潤一郎のような性本能の究極を、時代を変え、美しい生娘を主人公に緊縛の苦痛や恥じらいが悦びに変わる、その哀れさを書きたいんじゃ。」
「では、舞台劇の演出もいいんじゃない……。」
「そうだな、舞台の演出もしたいなぁ」と、こんな会話もありました。

 私も、彼の頭にあるものは綺麗で純粋で太陽の光がさんさんと降り注ぐ地表と地を這い、かつ地面の下の暗くて陰微な、どろどろした世界を入り混ぜ独特の「セックス」の究極を求めているようなものではないかと思います。
 確かに彼が私やその周りに対して取った手法はマナーに反しますし、許されません。しかし、その行為の結果、彼が得たものはこの世界のルール違反による自己嫌悪と、人を失った挫折感ではなかったのかと思います。

 私は金輪際女装を止めようとしていましたのに、またある種の強制で女装を始めたのです。だから、女装しても彼が嫌うように今までとは振舞いを替えました。要するに開き直ったのです。でも、化粧をするたびに私の身体の芯にある女装の炎が燃え上がり、自分を制御できなくなり、再び隠れて続けてしまったのです。

 彼に「他に貴方の好きな女性がいるのなら遊んでもいいのよ。私は貴方が好きな時に会ってくれればいいんですから」と言って出来るだけ距離を置くようにしました。そう言いながらも彼が浮気をした時には、私という女がいるのに何故他の女に手を出すの!と、すねて責めました。
 でも、これは形式のことで、あくまで彼には自由な遊びをしてほしかったのです。きっと、彼はどの女性にも誠心誠意努めたと思います。このアブノーマルな世界を自由に生き、好きなことを言い、好きなことをした幸せな人だったのです。私は長襦袢姿で、キリキリと腰紐や手製の帯で縛られ、口には猿轡をされた鏡の前の自分の姿を忘れません。

 最近どうしているのだろう?長く会っていないなぁと思い、ある所へ問い合わせると「もうずいぶん前に亡くなった」というではありませんか。一瞬言葉が出ませんでした。ああ、一つの時代が終わってしまった。彼の夢も終わってしまった。でも、彼は思う存分好きなことを生きたのですから悔いはないと思います。
 松浦さんのご冥福をお祈りいたします。
 出所『ひまわり』 1995年4月号


  小説のご紹介は今回で終わりとなります。ご感想はいかかでしたでしょうか。
  美希さんがこの小説(体験記)を書かれたのが30年前です。現在はどのような生活をされていらっしゃるのでしょうか。
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実小説『水蜜の時』②

2025年08月05日 | 女装小説
 
 ところが、四〜五ヶ月ほど経ったある日、職場に電話がありました。出てきてくれ、近くに来ているというのです。今度は何を言われるのか不安でした。私も、もし断ると無茶をされるのではと思い、やむを得ず会う返事をしました。
 近くの喫茶店で彼は待っていました。目の前で何を言われるのかと不安でした。お金の無心か、何か、難題を言い出すのだろうかと……。
 話し始めると彼は「悪いことをしてしまった。反省している」とまず謝ってきました。そして「もう一度だけでいいから女装して欲しい」と言うのです。
 何ということでしょう。私はその時、すでに女装のことは一切頭にありませんでしたし、普通の生活を送っていたのです。彼は「無理」なのは分かっている。私が悪い。でも、どうしてももう一度、女になってほしい」と繰り返し、私に頭を下げて言うのです。
 でも「貴方がそんな事をしたので私は女装が出来なくなったのです。妻にも知られ、私は家の中でも妻とは険悪でうまくいっていません。これも貴方のしたことがきっかけなのです。そんな事が言えるのですか?私の家庭を破滅させるのですか……」と腹が立ち断りました。

 一旦はそれで別れました。でも私は気持ちが悪く、何となく不安と恐ろしさで過ごす毎日でした。案の定、十日ほどしたある日、職場に手紙がきました。内容は前回と一緒で、謝りとともに私の女装姿で会いたいという懇願を綴ったものでした。手紙ですので返事を出すことも必要ないので捨てておきました。いつまでこんな事を繰り返すのだろうか、また何か言ってくるのではないかと、私は落ち着かない不安の日々でした。
 その不安が的中し、また電話がありました。今度は、大阪の喫茶店で会ってほしいというのです。前回と同様、私は断るのが恐ろしく承諾せざるを得ませんでした。
 寒い日でした。夜は年末の大阪のことで、多くの人が街に溢れていました。決められた喫茶店の片隅に彼はいました。彼を一目見たとき、彼の目はお酒を飲んだときのように目が座り、気持ちが悪いのです。
 「昔のお前を思い出すと、あれから毎日が苦しく、仕事もできない。友達に相談したし、教会にも救いを求めて行った。でも、どうにも自分の心の中で苦しみが消えない。お前は私を憎んでいるだろうし、もし、だめならいっそこれで俺を殺してくれ!」と言って懐から白い布でくるまれた物を出しテーブルの上に置くのです。何かと思いましたが、彼が広げるのを見ると鋭い刃物です。
 私、人から刃物を突き付けられたことなんて、かってありませんし、びっくりしました。殺されるのかと思いました。もし私が、彼に気まずい事を言ったり、刺激的なことを言うと彼は気が狂い、持っている刃物を振り回し刺し殺されるような気がしました。その刃物は普通の刃物ではなく、自分で研いだようなもので細くて先が鋭くとがり、およそ二十センチから二十五センチはあるものでした。
 片隅とはいえ隣にも人がいます。他のお客の目に入らぬはずがありません。彼にはそんなことはどうでもよかったのでしょうか。私はびっくりしましたし、何が変な雰囲気で、しかも前に刃物があるなんて、それは尋常なことではないのは明らかです。
 私は言葉につまりました。一瞬沈黙となり、しばらくして「……仕方ありません」と答えてしまったのです。だって、今言ったように、それは緊張した雰囲気でしたし、本当に腹を決めた様子で俗にいう殺気立っていたんですから。その言葉を聞くと彼は大きく一息つき、安堵した様子を示しました。
 私が早くこの刃物をしまってほしいと言うと、「お前が持っておいてくれ、いつでも俺を刺してくれてもよい」と言うのです。分かりました、分かりましたからもうこの刃物を、ともかく隠してほしいと言い、なんとかしまってもらいテーブルの上の一物はやっと目からなくなったのです。
 ほっとしたものの、さて、これからどうしよう、家に帰ればどうなるのかと分からなくなってしまいました。 
 でも、どこで女装せよと言うのですか?「自分が探す」、そして決まれば連絡するからそれまで待っていてくれと言うのです。それでその時に、ということで別れました。帰りの胸の中は複雑でした。「あんなこと言ってしまった。これからは彼の言いなりになるのでは」と悩みがまた出てきたのです。

 出所『ひまわり』 1995年4月号
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実小説『水蜜の時』①

2025年08月04日 | 女装小説
今回から数回にわたってご自分の体験をもとに小説を書かれた杉浦美希さんの実小説『水蜜の時』をご紹介します。『ひまわり』1995年4月号に掲載されたものです。


 女装のことを考え空想にふけり、女装しか趣味のない美希です。今度はあんな服を着たい、下着はどんなのがいいかしら、靴は……などと考えると際限がありません。しかし、私には苦い経験があります。でも、今となれば、それは私にとって心に残る印象的な女装の思い出の一つです。

 ある日、自宅に「興信所の者ですが」と言って偽名を使い、「貴方のご主人が夜に女装クラブで女装し、男とホテルへ行って遊んでいます」と電話してきました。しばらくして、今度は女の声で「私の彼を貴方の夫が盗った。どうしてくれるの!」という電話があり、次には男から「貴方のご主人は夜には女みたいに男のあそこをなめたりして男と寝ている。普通の男はそんなことはしないものだ。もし、世間にバレたら大変なことになる。信用できないなら写真もある」と妻に電話してきました。当然、妻は驚いたでしょうし、ショックだったと思います。でも、妻にはそれは半信半疑だったようで、すぐには私を責めませんでした。

 ところが、ある日「今日、ご主人は必ず遅く帰るはずです」といった電話がありました。そんなことがあったとはつゆ知らず、私はいつもの通り女装を楽しんで夜遅く帰ると、妻は私の顔を見ず下を向いたまま「今まで何をしていたの?」と詰問してきました。少し私はドキッとしましたが、しらん顔して「仕事やないか」と答えると、「私、知っているのよ。貴方が何をしているのか!」と言うではありませんか。言葉に詰まると「貴方が夜に何をしているのか電話があった。恥ずかしいことをするなんて私には我慢できません。電話してくる相手とはどういう関係だ、どうするつもりだ」と泣いて私を責めました。
 私はただどぎまぎし、黙ってしまい、後はただ謝るばかりでした。その相手に心当たりがあるのかと聞かれ「分からない」と答えましたが、自分では心当たりがありました。このことは必ず自分で解決する、もう一切しないと妻に言い、とにかくもう終わりだ、身の破滅だと思いました。このことを職場にもバラされるのではないかと不安でした。
 現にその後、職場にも電話をしてきたのです。職場にまで電話されると、もうだめです。電話の声ではっきりと、私の予想通り「松浦」さんと分かりました。松浦さんと差しで話をつけなくてはと決心しました。松浦さんがそのクラブに来るのを確かめて会いました。

 要するに彼は私が自分以外の他の男と遊ぶことに嫉妬し、私を陥れようとしたのです。妻に知られた以上、今後一切女装を止めます。二度と女装クラブに出入りはしません。だから、貴方とも一切これで終わります。妻にも知られた以上私には止めるしかないのです。貴方の思う通りにならなかったのですから、これで十分でしょう……と言い、これ以上電話をして妻を苦しめないで欲しいと言ったのです。
 彼も自分のしたことがあまりにも大きなショックと、離婚にも発展しかねない事態を引き起こしたことから一応納得したようで「これで一切の終止符を打つ」と言って別れました。結局、私はその事がきっかけで女装を全く止めました。大きな荷物はクラブに処分をお願いし、化粧品や下着はみんな自分で処分しました。彼は私を抹殺したことになり、一生私が女装する道を閉ざすと同時に、妻への大きな借りと精神的負担を作ってくれたのです。
 出所『ひまわり』 1995年4月号

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国会図書館で『ひまわり』を読んでまいりました

2025年08月04日 | 女装小説
暑い日が続きます。
平日はまだ会社にいるからいいんですが、休日は自宅ですので「暑い、暑い」といってハアハアしております。
そんな時、良い避暑地?を思い出しました。
そう国立国会図書館です。
地下鉄永田町駅からすぐですから、炎天下を歩く必要なし。館内は冷房がガンガン効いている。そして本は読み放題。
これは行くしかないということで、土曜日に行ってまいりました。
『風俗奇譚』『くいーん』はほぼ読みつくしましたので、今回の研究?対象は『ひまわり』です。
出版された時はあまり読み込んでいませんでしたが、改めて読んでみると、『くいーん』とは違った面白さがあります。そのなかで私の興味を引いた小説や体験談をこれからご紹介してまいりますね。

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女装子さんの海水浴

2025年08月03日 | ★youtube
暑いけど、酷暑だけど、今年も海にはいけないなぁ...。
そんな時は、女装子さんの水着とビーチの動画で我慢するのです。

女装男子が逗子海岸で海の家!


昨日上げたJiyoon さんの動画が見られなかったようです。
ごめんなさい。
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8月です。暑いです。

2025年08月03日 | 女装子愛好日記
おはようございます。
8月になりました。
暑いです。
あまりの暑さで地面が熱を持ち、蝉の幼虫が出てこれないという話を聞きました。
いつも行く公園で、蝉の声が聞こえないのは不思議です。
野菜の出来も良くないそうです。
酷暑の夏、人間だけではなくいろいろなところで影響が出てきています。
みなさま、ご自愛ください。
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『青い旋律』(梶山季之) ⑤

2025年07月31日 | ★女装の本・雑誌
『青い旋律』から引用は終わりとします。
この小説では他にも女装のシーンがいくつか出てきます。

1969年頃にはLGBTQやSOGIという考えは全くなかったといってもよいと思います。
そうしたなか、梶山先生はインターセックスに悩む男性がいるということを女性週刊誌の連載小説のなかで世間に知らしめました。
こうした性に対する先駆性が梶山先生のすごいところです。
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『青い旋律』(梶山季之)④

2025年07月30日 | ★女装の本・雑誌

............どちらから、唇を合わせたのか、よく覚えていない。
とにかく、気づいた時は、三代子はサクラの唇を吸っていたのである。
同性の唇を吸っているような、そんな妖しい錯覚があった。
男と女ならば、人前では恥しく、決してそんな行動はとれなかっただろう。
しかし、同性としての寺崎徹夫ならば、許せるような気がしたのだ。

.........それは苦しい自己弁護かも知れぬ。
でも、本当なのである。
男性でありながら、女装しているゲイ・ボーイたち。
異性であり、同性を感じさせる倒錯者たちの花園。
三代子は、恥しさを忘れていた。
それに、サクラの接吻は実に巧みで、三代子は思わず下着を濡らした位なのである。
<まあ・・・・・・破廉恥な!〉
彼女は、酔った頭でそう思った。
しかしサクラの柔かい肉体は、異性を感じさせないのだ。

<いけない! 止めなければ!>
三代子は思った。
だが、サクラの抱擁は、意外と場馴れしていて、三代子の躰を逃がさないのである。 耳許で、
「ふふ......」]
と笑い声がした。
それで、やっと三代子は、冷静さを取りもどして、サクラの抱擁からのがれる。
含み微笑ったのは、山田佐喜子であった。
トイレに入るところらしい。
「照れなくて、いいわよ......」
彼女はそう告げて、
「サクラちゃん。たっぷり、サービスして上げなきゃあ......」
などと云っている。

三代子は、恥しさのあまり俯向いた。
店に入ってから、二時間も過していないのだ・・・...。
四杯のジンフィズに、彼女は狂ったのだろうか?
......たしかに三代子は、酔っていた。
酒の酔い許りではない。
ゲイバーの妖しい雰囲気が、アルコールにプラスする形で、彼女を狂わせたのであろう。

「あたし、帰ります!」
三代子は云った。
「だめ、だめ。まだ帰さないわよ、草間さん........」
佐喜子は、なぜか悪魔的な笑顔になり、
「サクラちゃん。監視してて!」
と、トイレへ這入ってゆく。
三代子は、当惑した。
ボックスに坐っているのが、精神的に苦痛ですらある。
羞恥などというものではない。
すでに、限界を通り越えた、屈辱的な恥しさである。
「あたし、帰るわ......」
三代子は、サクラに云った。
しかし通路側にサクラは坐っている。
三代子は、壁際に押しつけられた恰好であった。
逃げようがない。

「ね、あたしの悩みを聞いて!」
真剣な顔で、寺崎徹夫が云った。
「悩みって?」
そう鸚鵡返しに答えつつ、三代子はハンケチを唇に押しあてている。
「ここでは、話せないわ......」
サクラは、媚びを含めて、上半身をしなやかにくねらせ、
「だめかしら?」
と呟くのだ。

三代子は、
「ごめんなさい」
低く詫びてから、
「少し、酔っぱらったみたい......」
なにか照れ臭くて、しかたがないのだ。
「あたしが、悪かったのよ」
サクラはそう云って、
「つい、懐しかったもんだから、ポーッとなっちゃったんだわ...............」
と含み微笑っている。

美しい顔だった。
<この人が.....寺崎君!>
三代子は、心の中で改めて反芻しながら、どうしようか、と思い迷った。
考えてみれば、生まれて初めての、異性とのキスだった。


 出所:『青い旋律』(梶山季之)
 見出し画像の出所はAmazon

『青い旋律』からの引用はこれで終わりにします。
表現のなかに不快感を得るような言葉があるかもしれません。
私もそれは認識しておりますが、1969年の執筆当時のものをそのまま引用させていただきました。
ご容赦ください。
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『青い旋律』(梶山季之)③

2025年07月29日 | ★女装の本・雑誌

草間三代子は、この世の中に、ゲイ・ボーイという種族が、存在することは知っていたが、 まさか自分の同級生に、そんな異端者がいるとは、思ってもみなかっただけに、愕きは大き かった。

サクラは、あでやかに微笑み、
「ぼく、男でも女でもない、中途半端な人間なんだよ......」
と、その時だけは、男の言葉使いで、自分の肉体の秘密を打ち明けたのである。
四杯目のジンフィズが来た。
「あら、注文しないわ......」
と云うと
「今夜は、サクラの奢りよ.....」
と彼女は云い、不図、瞳だけをキラキラと輝かせて、
「あたい・・・・・・草間さんが好きだったわ」
と、熱っぽく囁くのである。
三代子は、また耳朶を火照らせた。

文芸部員のころ、寺崎に密かに思いを寄せていたのは、むしろ三代子の方だったからである。
彼女は、寺崎の細くしなやかな指先や、項のあたりが好きだった。
男性的ではない。
しかし、なにか憂いを湛えた湖のような冷たさが、寺崎にはあったのである。
「あたしだって...............」
三代子は、つい口走った。
「うそうそ!」
サクラは呟く。
「本当よ......」
三代子は、酔いのせいか、大胆になっていた。

サクラの手をとり、
「この指が、好きだったわ。だって、あたしの爪、蛤爪でしょ・・・・・・」
と弁解するように告げる。
なにか、同性の手に触れている感じであった。
「じゃあ、今夜の再会の記念に、手の甲にキスして!」
サクラは囁く。
「いいわ......」
三代子は唇を押しあてた。

「あたしも、お返しするわね」
サクラは躰をすり寄せて来て、三代子の手をとると、指と指のあいだに、接吻した。
ったいような、なにか息苦しいような感触......。
「ああ・・・・・・止めて!」
三代子は云った。

しかし、サクラは、彼女の顔を上眼遣いに眺めながら、手を離そうとしない。
三代子は、恥しさのあまり、目を閉じてしまうのだ......。
そして、その機会を待っていたかの如く、サクラは、
「草間さん!」
と低く、しかし鋭く囁いて、三代子の躰を抱き緊めたのだった。

 出所:『青い旋律』(梶山季之)
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『青い旋律』(梶山季之)②

2025年07月28日 | ★女装の本・雑誌


「あっ! 寺崎君!」
彼女は、叫んだ。
女の同級生を思い泛べていたから、わからなかったのである。
なんとそれは、おなじ高校で文芸部員だった寺崎徹夫の女装姿であったのだ。

「やっと、わかったようね」
佐喜子は妖しく微笑して、
「お店では、サクラちゃんという名前なのよ・・・・・・」
と教える。
寺崎は、羞恥に頬を染めて、
「お久しぶり...」
と一揖した。
「本当に、しばらくね......」
と三代子も云ったが、まだ信じられない気持であった。

あの寺崎さんが、ゲイ・ボーイに!
三代子は、つくづくと打ち眺める。
「いや! そんな風な眼をして、見ないで! 自殺したくなるわ...............」
サクラは云った。
色白で、睫毛が長い、温順しい同級生であったが........変れば、変るものである。

............あとで知ったのだが、寺崎徹夫は俗に云うフタナリ、つまり半陰陽に生まれついたの であった。
ペニスはあるが、睾丸はなく、袋だけがある。
医師に調べて貰うと、医学的にも珍しい半陰陽であり、内臓には卵巣が存在している模様だと云う。
寺崎徹夫は、自殺を図った。
高校三年生の夏休みのことである。
幸い発見が早く助かったものの、寺崎徹夫は大学へ進む気もなくなった。

.....むりもない。
外見は男性、内臓は女性。
結婚はむろん、出来ないのだ。
寺崎は、あれこれと思い悩んだ末に、女として美しく装って死のうという心境に達し たのだと云う。
彼は、両親に、女として生きることを宣言した。
しかし姉弟の手前もあり、近所の目もあるから、アパートを借りて別居したい..........と申し 出たのである。
母親は泣きながら、
「あたし達の罪で、あんたが悪いんじゃない。好きなようにおし...............」
と云って、アパートを借りて呉れ、そしてせっせと通っては、女の下着のつけ方、化粧法 などを教えて呉れたのだそうだ。

かくて-----
男性から女性に百八十度転向をすると、不思議なことに、乳房もふくらみはじめ、月に一 回、鼻血が出るようになった。
これを医師は、代償生理と呼ぶらしいが、女への傾斜がはじまったのであった。
遊んでいても仕方がないので、ゲイ・バーへ勤めるようになる。
そして、その店で、はしなくも、国語教師から雑誌記者に転職した、恩師の山田佐喜子と 再会した......と云うわけなのである。


 出所:『青い旋律』(梶山季之)
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