小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

元朝日新聞記者・植村氏の処遇について

2014年12月18日 18時07分48秒 | 社会評論
元朝日新聞記者・植村隆氏の処遇について




 2014年12月18日付の朝日新聞によりますと、北星学園大学は、いわゆる従軍慰安婦問題に大きな「功績」があった同大学非常勤講師の植村隆氏との雇用契約を来年度も更新することを発表しました。その記事の重要部分を以下に抜粋します。

 北星学園大には3月以降、植村氏が朝日新聞記者時代に書いた慰安婦問題をめぐる記事は捏造(ねつぞう)などとする電話やメールが相次いだ。5月と7月には植村氏の退職を要求し、応じなければ学生を傷つけるとする脅迫文も届いた。10月には、大学に脅迫電話をかけたとして60代の男が威力業務妨害容疑で逮捕された。

 田村学長は10月末、学生の安全確保のための警備強化で財政負担が増えることや、抗議電話などの対応で教職員が疲弊していることなどを理由に、個人的な考えとして、植村氏との契約を更新しない意向を示していた。しかし、その後の学内での議論では学長の方針に反対する意見が相次いだ。中島岳志・北海道大准教授や、作家の池澤夏樹さんら千人以上が呼びかけ人や賛同者に名を連ねた「負けるな北星!の会」が発足するなど、学外でも大学や植村氏を支援する輪が広がりをみせた。

 大山理事長は「脅しに屈すれば良心に反するし、社会の信託を裏切ることになると思った」と述べ、植村氏との契約更新に賛成の立場だったことを明かした。

 契約が継続されることになった植村氏は「これからも学生たちと授業ができることを何よりもうれしく感じています。大学も被害者で学長はじめ関係の方々は心身ともに疲弊しました。つらい状況を乗り越えて脅迫に屈せず、今回の決断をされたことに心から敬意と感謝を表します」とのコメントを出した。(関根和弘)


 ■支援者スクラム、よい先例に

 「負けるな北星!の会」の呼びかけ人で精神科医の香山リカさんの話 「学問の自由」は憲法にもうたわれ、長い歴史を持つ重要な問題です。この間、事件そのものより元記者や朝日新聞社の責任を問い、間接的に脅迫を肯定するかのような議論が、ネットを中心に一部で見られたのは大変残念だった。万一、また学問の自由や大学の自治を侵害する卑劣な行為が起きた場合、大学内部で対処せず、今回のように情報公開し、外部の支援者がスクラムを組んで大学を守る方法が有効ではないか。その意味でよい先例になったと思う。


 一読してなんてひでえ話だと思いました。あきれてものが言えないとはこのことです。でもあえてものを言います。
 ひでえ話というのは、北星学園大学が植村氏との雇用契約を継続することに決めた事実そのものにあるのではありません。そんなことは勝手にやればよい。ここには、それとは別に何重にもからまった「ひどさ」が見られます。それを解きほぐしてみましょう。

 まず第一に、この記事が当の捏造を行った朝日新聞によって書かれているという事実。
 この記事では、形ばかりの謝罪と社長辞任でお茶を濁した朝日が、捏造の張本人である植村氏に対してどういう見解を持っているのかが一行も書かれていません。その代わりに「負けるな北星!の会」とやらから有名知識人三人を担ぎ出して、自分たちおよび植村氏があたかも世の不正に対して雄々しく闘っているかのごとき論調を、恥ずかしげもなく示しています。不正を犯し、国益を著しく毀損したのはいったい誰なのか。そういう反省の意識が、朝日にはまったく見られないことがこれでよくわかります。
 もちろん、植村氏を辞めさせないと学生を傷つけるとの脅迫文を大学に送りつけるなどの行為は、卑劣そのものです。植村氏の慰安婦問題にかかわる言動自体は、大学当局には直接関係がありませんから、社会的制裁は植村氏自身に向けられるべきです。そしてその方法も、本人の記者会見による釈明を求めるとか、捏造記事を書いた人間が大学で教える資格があるかどうかを言論機関を用いて問題化するといった形を取るべきでしょう。
 しかし朝日のこのたびの不祥事に対する世の大方の心情が、きわめてネガティヴなものに傾いていることも事実であって(じっさい朝日はそれに値することをし続けてきたのですから)、脅迫などの感情的行動もその過激な一面としてとらえることができます。朝日はそういう非難攻撃の刃を、まず自分自身の問題として真摯に受け止めるべきなのに、その形跡が微塵も見られません。こんな新聞に何を期待しても無駄でしょう。

 第二に、当事者である植村氏が、救ってもらってうれしいというだけの、何とも情けないコメントを出していること。
 一応、一流紙を気取ってきた新聞のジャーナリストなら、それなりの誇りというものがあるでしょう。記者会見にも応じずこそこそ陰に隠れて、脅迫に対して自ら立ち向かう姿勢も見せず、ひたすら大学当局や行政府やバカ知識人の援助とガードに依存して、「心から敬意と感謝を表します」とは何事か。言論人として闇の権力を握ってきたのだから、自分の不始末は自分でつけたらどうでしょう。あるいは、自分のしたことを悪いと思っていないなら、その信念を堂々と開陳したらよろしい。まったく言論人の風上にも置けない人とはこれを言います。
 たかだか非常勤講師職程度のものをさっさと捨てることもできずに汲々としているこんな臆病者に教わりたいと思う人がいますかね。学生諸君、北星学園大学に入学しても、植村氏の講義だけはボイコットしましょうね。ちょっと万引きしても盗撮しても、見つかれば犯罪者扱いです。植村氏は「情報犯罪人」なのだから、最低限それくらいの社会的制裁は受けるべきでしょう。

 第三に、大学の態度ですが、これまた事なかれ主義でうろうろ彷徨うへっぴり腰も甚だしい。仮に植村氏の所業が当大学の教員としてふさわしくないと考えたのなら、さっさと辞めさせればよい。というのも、彼は別にお料理を教えているのではなく、まさに新聞を使って世界情勢を解説する講義を行っているのだから、前歴からしてその講義内容に疑問符が付くのは当然です。泥棒の前科がある人が講師として迎えられて、学生に盗みの手口を教えるようなものでしょう。
 またもし植村氏のこれまでの言動を正しいか、または、これくらいなら大学で教鞭をとるのに差し支えない許容範囲だと思うなら、大学当局の名でその根拠をきちんと説明した上で、よって雇用を継続すると言明すればよい。とにかく、「学問の自由」を標榜するなら、植村氏の雇用継続の是非にかかわって、大学として朝日新聞のこのたびの不祥事についてどう考えるのか、具体的な内容に踏み込んだ声明くらいは出すべきではないでしょうか。それくらいの主体的な判断ができないとは、学問の府としての名が泣きます

 第四に、中島岳志氏、池澤夏樹氏、香山リカ氏の三人の知識人ですが(ほかにもたくさんいるのでしょう)、この人たちは、知識人としての役割をなんら果たさないままに、「負けるな北星!の会」とやらに参画して、自分の名前の力と群れの力を利用して、ひたすら知識人村の防衛に走っているようです。一人で闘わずに、こういう「集団的自衛権」を平然と行使するインテリたちは、大江健三郎氏、柄谷行人氏、坂本龍一氏、内田樹氏など、これまで腐るほど見てきましたが、不思議なことに、この人たちの口から、なぜそういう運動集団を作るのか、個々の問題に即した説得力ある言論を聞いたためしがありません。つまり彼らは、知識人としての役割をなんら果たしていないのです。
 今度の場合も同じで、いやしくも言論を物する人士なら、少なくとも朝日新聞が自ら「誤報」(じっさいは意図的な捏造)と認めている従軍慰安婦問題について、自分はどう考えるのかをはっきり言明してから、集団参加を決めるべきではないでしょうか。精神科医を自称する香山氏の口から「学問の自由は憲法にもうたわれ」などと陳腐なセリフを聞きたくありません。朝日新聞が歴史の捏造に一役も二役も買っていたことが明るみに出たのは、秦郁彦氏をはじめとした学者に「学問の自由」が保障されていたからこそではありませんか。
「この間、事件そのものより元記者や朝日新聞社の責任を問い、間接的に脅迫を肯定するかのような議論が、ネットを中心に一部で見られたのは大変残念だった」とは恐れ入り谷の鬼子母神。元記者や朝日新聞社の責任を問う議論がどうして「大変残念だった」のか。自ら言論の自由を否定している、そのあっと驚く言い分を前にしては、香山氏自身の精神状態を疑わざるを得ません。医者の不養生とやら。お気を付けあそばせ。
「外部の支援者がスクラムを組んで大学を守る方法が有効ではないか」というのも、神経を疑います。守られたのは大学ではなく、植村氏自身ですよ。大学はむしろこのたびの決定によって、さらなる脅迫にさらされないとも限らない。しかしその場合でも、知識人村防衛軍のスクラムなどは必要なく、大学が独自の判断で警察に届けたり、植村氏の処遇について改めて考えれば済む話です。それくらいの自立性と責任を担わずに、何が大学の自治でしょうか。
 香山氏はじめここに登場した知識人の方々は、世に理不尽な目に遭っている人がごまんといるのに、その人たちを個別に「守る」スクラム行動に出たことがあるのですか。私もないので、口幅ったいことは言えませんが、少なくとも、学問、言論の自由を悪用した「情報犯罪人」を守るような振る舞いだけはやめた方が身のためですよ。

 朝日新聞という捏造メディアから甘い蜜をもらって群がる知識人村の人々よ。自分たちがどれほどこういうインチキなマスコミの薄汚いプロパガンダに利用されているのか、まずはその自覚を骨身に叩き込み、そこから自分の言説を立て直すことをお勧めいたします。