小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

領土を平気で侵略させる日本

2019年01月23日 00時01分39秒 | 政治


1月15日付、「新」経世済民新聞のSaya氏の記事は秀逸でした。
群馬県大泉町の現状がリアルに伝わってきます。
同時に日本政府の移民政策や、外国人(主に中国人)の領土侵略がいかに恐ろしいかも。
https://38news.jp/politics/13070

不肖私も外国人(主に中国人)の不動産取得による領土侵略(サイレント・インヴェ―ジョン)については、これまで何度か触れてきました。
https://38news.jp/economy/10151
https://38news.jp/politics/12044
https://38news.jp/asia/12312

要点をまとめると、
(1)北海道・沖縄を中心として、中国人の日本の土地爆買いは全国土の2%に達している。これは静岡県全県の面積に匹敵する。
(2)国防の要衝である対馬は、韓国観光客の激増だけではなく、ホテル、民宿なども韓国人に経営され、実質的に韓国化している。
(3)自治体は、これらの実態を知っていながら、正確に把握していないし、しようとしない
(4)日本には不動産購入の外資規制はなく、国交省は、外国人が買いやすいように紹介パンフレットを発行している。
(5)所有者不明の土地は全国で410万ha、これは九州全域を超える面積である。
(6)政府は、2018年6月、所有者不明の土地の利用を、最大10年、民間業者やNPOなどが、公共目的に限って使えるようにする特別措置法を成立させた(2019年6月より施行予定)。

(4)はいったいなぜだと思う人が多いでしょうが、これは、後述するように2つの克服困難な理由があります。
(4)と(6)とを合わせ考えると、これは日本の国土のサラミ・スライスを企んできた中国の思うつぼです。
政府は、「公共目的に限って」と歯止めを置いたつもりでしょうが、日本の土地取得は、許可制はもちろん届け出義務もなく、登録は任意ですから、自治体の規制や周辺住民の手の届かないところで自由にできます。
たとえば、中国企業(国営も含む)の子会社の日本法人が買って、それを中国企業に転売すれば、その企業の所有になりますし、さらにそれを転売すれば、所有者を見つけることは至難の業になります。
また、公共目的かどうかを審査するなどといっても、取得の際の名目などは何とでもつけられるでしょう。
審査後に変えてしまってもいいわけです。
まして転売されれば、追跡することはほぼ不可能になります。
ここには、長年にわたる政府の国土行政の無策ぶり、それをきちんと追及してこなかった国会議員たちの怠慢ぶりが躍如としています。
主権、領土、国民は国家の三要素と言われますが、この三要素のいずれも、日本は喪失しようとしているのです。
某宇宙人が唱えた「日本は日本人だけのものではない」という名言が、まさに現実化しつつあるわけです。

2018年12月10日に、この問題を粘り強く追及し続けてきた産経新聞の宮本雅史氏と青森大学教授の平野秀樹氏による『領土消失』(角川新書)が出版されました。
未読の方は、ぜひ読んでください。
奇しくもこの日は、あのひどい二つの法案、移民法案水道民営化法案が強行採決された後、第197臨時国会が閉じられた日でした。
グローバリズム・ニッポン完成記念日として、忘れないようにしましょう。

ところで同書には、北海道や対馬の惨状のほかに、東北や山陰の山が中国人に買われている事実、奄美大島の西古見地区(人口35人)に7000人を乗せた22万トン級の大型クルーズ船が押しかける計画が、国交省お墨付きで進められている事実などが書かれています。
クルーズ船の乗客は、もちろん中国人観光客です。
そのなかには当然、不動産の買い占めを狙ってくる人も含まれているでしょう。
宮本氏は、この奄美大島問題について詳しく記述しています。
その中で、次の二つの事実が目を引きました。

(1)中国の本来の「占領」目的は、対岸の観光名所、加計呂麻島ではないかと想定されること。

加計呂麻島は、水深が深く、東西両端で外界に接続しているので、天然の要塞と言っても過言ではありません。
日露戦争時、連合艦隊がここに停泊して演習を重ね、出撃してバルチック艦隊と決戦したそうです。
島には、軍事施設の戦跡が数多く残っており、奄美大島との間の大島海峡沿岸そのものが、国防の重要な拠点でした。

(2)中国人の観光誘致ばかり考える国交省と、中国に対する国防戦略を考える防衛省とは、真逆のほうを向いていること。

防衛省は、奄美北東部に陸自「奄美駐屯地」を、南西部に海自「瀬戸内分屯地」を建設しています。
2018年度中に、「奄美駐屯地」には中距離地対空誘導ミサイル運用部隊など350人を、「瀬戸内分屯地」には地対艦誘導ミサイル運用部隊など210人を配する予定です。
この、国交省と防衛省との分裂した施策の方向性は、いまの日本政府の融解状態を象徴しているでしょう。

さて、なぜ日本は他国と違って、不動産の外資規制ができないのでしょうか。


出典:『領土消失』平野秀樹氏

これについては、同書で、平野氏が苦渋とともに二つの理由を挙げています。
ふつう、日本が外国人の不動産取引に規制を敷いていないのは、WTOのGATS(サービス貿易にかかる一般協定)で、160を超える国々と交わした「外国人等による土地取引に関し、国籍を理由とした差別的規制を貸すことは認められない」という約束を遵守しているからだと言われています。
これは、1994年のウルグアイラウンド交渉の際に、日本自らの意思として、「外国人土地法に基づいて留保を行なうことは、サービスの自由化を率先して推進している日本の立場として適切でない」と謳ってしまったからです。
例によって、国益を考えない、お人好し丸出しの宣言でした。
しかし、GATSをバカ正直に守っているのは日本だけで、上の表のように、世界の四割の国が、国益を優先させるために、何らかの規制をかけているのです。
他の国にできて日本にできないはずはないと思うのですが、平野氏によれば、もし今から土地売買に対する外資規制を始めようとすると、30近い条約を改正しなくてはならず、おまけに各国との間で交渉を重ねて、規制の見返りに別の自由化を認めなければならなくなるというのです。
平野氏は、こう語ります。

振り返って考えてみると、それは1994年までの交渉時だけの問題ではなく、戦後の日本が長い期間、領土保全などの国家の安全保障にかかる諸問題について、無思考なまま、何ら身構えることなく、やり過ごしてしまったツケが回ってきたということでもあるのだろう。

もう一つの理由は、憲法29条です。

29条 財産権は、これを侵してはならない

この条文には主語がありません。
「この憲法は日本国民にのみ適用される」という条文でも別にあればいいのですが、それもありません。
結果的に、外国人が合法的に日本の土地を買っても、それはいくらでも許されることになります。
戦前の帝国憲法には、次のように書かれていました。

27条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ

はっきり日本国民に限定されていますね。
これなら、外国人の土地購入に対して規制をかけることは容易です。
しかし戦後の日本は、9条2項のみならず、憲法で、経済侵略や国土侵略に対する自衛権放棄を約束してしまっているわけです。
戦後憲法はGHQが占領統治のために作ったとよく言われますが、占領が終わってから六十数年経つのに、その間、日本人は、国土の安全保障に対する自覚がないままに、眠りこけてきました。
その結果、現在、中韓の「静かな侵略」を許してしまったのです。

1月7日、中国人が多いことで有名な西川口の芝園団地に行ってみました。
2400世帯、住民5000人を擁するこのマンモス団地は、最高15階建てまである棟が15棟、殺風景な風情で、傲然と構えています。
月曜日だったせいか、団地内はひっそりしていましたが、それだけに、不気味な感じも漂います。
URの物件情報を見ると、1k(33㎡)~3DK(75㎡)で54,000円から122,100円、出物では、築40年経っているのに、45㎡で75,000円以上、52㎡で85,000円以上となっていますから、そんなに安いとは言えません。
入ったところと反対側のほうに回ってみると、別の入り口から何人かの母子が連れ立って歩いてきました。
親も子どもも、言葉は中国語です。
各棟のエントランスにずらりと並んだ郵便ポストには、室番号だけ打たれていて、ほとんど表札がありません。
ときおり表札を見つけると、それはだいたい日本人だったのが印象的でした。

元の入り口のほうに戻ってみると、掃除のおじさんがいたので、ちょっとインタビュー。
「お仕事中すみません。ここは中国の方はどれくらいいるんですか」
「7割以上だよ」
半分近くというネット情報よりもずっと多い。
「もっと増えそうですか」
「増えるね」
「日本人は引っ越しちゃうんですか」
「いや、40年経ってるからね。高齢者ばっかりで、亡くなる人が多いんだよ。空いたところに中国人が入るわけよ。だって羽田空港に案内の看板が立ってるんだもの」
「なるほど。団地の脇に中学校がありましたが、中国の方はそこに通ってるんですか」
「いや、通ってないね」
「じゃ、日本語を習っていないんですか」
「あっちのほうに、日本語学校があるけど、あれは大人用だな」
「小学校は?」
おじさんは反対側を指さしましたが、そこに中国人が通っているかどうかは、よくわかりませんでした。。
教育の問題をどう解決しているのかが、謎として残りました。
自治体が日本語を教えるようにきちんと対応しているとは思えません。
団地内に、中国語で学科を教える場所が作られているのではないでしょうか。
もしそうだとすると、彼らは日本語を習わずに、中国人村を形成しているのだと言えます。
どなたか詳しい方がいましたら、教えていただけるとありがたく思います。
「トラブルはありますか」
「そりゃ、いろいろあるけど、立場上、言えないね」
「そうですか。ありがとうございました」

ネットに、次のような内容の記事が書かれていました(この記事には、ほかにもいろいろ書いてあるのですが)。
https://globe.asahi.com/article/11578981

芝園団地では、「静かな分断」が起きていて、多くの中国人は自治会には加入しない。「ふるさと祭り」の準備はすべて日本人、中国人は楽しむだけ楽しんでおきながら、後片付けも手伝わない。日本人の側も、それを要求しようとしない。自分も祭りの手伝いをしたが、中国人の宴席が椅子を運ぶのに邪魔だからちょっとずれてくれと頼んだのに、椅子を持ってきたら、元のまま居座っていた。日本人は高齢化していて、亡くなる人も多く、やぐらを組む力仕事に耐える人々も年々減っている。ここには「共存」はあるが、「共生」はない。

これは実態を確かめようとわざわざ芝園団地に移り住んだ某新聞記者が書いていたものです。ちなみにこの新聞は「リベラル」とか「多文化共生主義」を気取ることで有名な朝日新聞です。

外国人の不動産取得にしろ賃貸契約にしろ、一定の規制が必要です。
また受け入れる場合でも、きちんと覚悟と体制を整えるべきです。
それをしてこなかった日本の権力者、関係者たちの無計画さ、安全保障に対する鈍感さは、計り知れない禍根を残してきたと思います。
もちろん、最終的な責任は、主権者たる国民にあります。
移民法が国会を通過し、これからますますこうした事態が増えるでしょう。
多文化共生主義などという美辞麗句ではごまかしがきかない事態が、日本全国で当たり前になるでしょう。
「日本が日本でなくなる日」も近いかもしれません。


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・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
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・急激な格差社会化が進んだ平成時代
https://38news.jp/economy/12983
・給料が上がらない理由
https://38news.jp/economy/13053
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「国民生活を脅かす水道民営化」


給料が上がらない根本理由

2019年01月09日 00時18分55秒 | 思想



明けましておめでとうございます。

昨年末、元国税庁調査官の大村大次郎氏の論考「なぜ日本のサラリーマンの年収はいつまで経っても低いままなのか」の要点を紹介しました。
https://38news.jp/economy/12983
日本は世界一の金持ち国家だが、その大半は、前から株などの資産をたくさん持っている人に集中しているというのがその要旨でした。
具体的な数字を挙げてのこの分析には、大いに納得させるものがありました。

大村氏のこの論考には、大きな反響があったらしく、その第2弾がMAG2NEWSに掲載されました。
なぜ他の先進国に比べて、日本だけが給料が伸びていないのかという問題を扱っています。
https://www.mag2.com/p/news/381708

この論考では、まず2つの理由を挙げています。
一つは、政官財を挙げて「雇用の切り捨て」を容認し、推進すらしてきたという点です。以下、引用してみましょう。

1995年、経団連は「新時代の“日本的経営”」として、「不景気を乗り切るために雇用の流動化」を提唱しました。「雇用の流動化」というと聞こえはいいですが、要は「いつでも正社員の首を切れて、賃金も安い非正規社員を増やせるような雇用ルールにして、人件費を抑制させてくれ」ということです。
これに対し政府は、財界の動きを抑えるどころか逆に後押しをしました。賃金の抑制を容認した上に、1999年には、労働派遣法を改正しました。それまで26業種に限定されていた派遣労働可能業種を、一部の業種を除外して全面解禁したのです。2006年には、さらに派遣労働法を改正し、1999年改正では除外となっていた製造業も解禁されました。これで、ほとんどの産業で派遣労働が可能になったのです。


付け加えるなら、2015年に労働者派遣法はみたび「改正」され、「ほとんど」ではなく、すべての業種で派遣労働が可能になりました。
しかも同じ派遣先で働ける期限が三年と規定されました。
さらに、それまで専門26業務では、派遣先で新規求人する時、派遣労働者に雇用契約を申し込むことが義務付けられていましたが、それが取り払われたのです。
その結果、非正規雇用の割合は増え続け、2018年にはほぼ4割に達しました。
これは23年前の約2倍です。



正規社員と非正規社員との平均賃金(男性)の格差がどれくらいかは、次の図表をご覧ください。




もう一つ大村氏が指摘するのは、日本の労働環境が実は非常に未発達だということ。
大村氏は、欧米の労働運動の歴史の長さに触れたあと、それが労働者の権利をしっかり守るようになった事情について、ドイツやアメリカの例を引いて詳しく説明しています。

日本の場合は、高度成長からバブル期まで、賃金の上昇が実現したために、それまでの労使対立路線から労使協調路線に切り替わりました。
労使の信頼関係の下に、「日本型雇用」が成立したのです。
企業は雇用を大事にし賃上げに力を尽くす代わりに、従業員は無茶なストライキはしないという慣行が出来上がったわけです。
そのため労働運動は衰退してしまいました。
再び引用しましょう。

ところが、バブル崩壊以降、日本の企業の雇用方針は一変します。(中略)賃金は上げずに、派遣社員ばかりを増やし、極力、人件費を削るようになりました。企業が手のひらを返したのです。
そうなると、日本の労働者側には、それに対抗する術がありませんでした。日本の労働環境というのは、欧米のように成熟しておらず、景気が悪くなったり、企業が労働者を切り捨てるようになったとき、労働者側が対抗できるような環境が整っていなかったのです。


よく納得できる説明ですね。
経営者は、景気が悪くなれば、まず真っ先に人件費を削ろうとするでしょう。

しかしこれに、もう一つ、よりマクロな観点を付け加える必要があります。
それは、こうした賃金低下を引き起こし、かつ長引かせた主犯は、緊縮財政に固執する財務省であり、非正規社員の増加を促した主犯は、竹中平蔵(派遣会社パソナ会長!)を中心とした、内閣府の諮問会議に巣食う規制改革推進論者たちだということです。
さらに掘り下げて言えば、これらの政権関係者たちは、「倹約神経症」を患っているか、さもなくば「自由」という名の亡霊に取りつかれ、グローバリズムを「いいこと」と信じているのです。
この病気とオカルト信仰のおかげで、国民が窮乏しようが知ったことではないという境地に達しています。

ところで、大村氏は、こういう事態になってしまったことの解決策として、二つの提案をしています。

今の日本がやらなければならないのは、「高度成長期のような経済成長を目指すこと」ではなく、「景気が悪くてもそれなりにやっていける社会」をつくることなのです。
今、日本がしなくてはならないことは、日本の中に溜まりに溜まっている富を、もっときちんと社会に分配することです。

大村氏の分析には敬意を表しますが、この解決策には、筆者は賛成できません
たしかに、先進国では、高度成長期のような経済成長を目指すことは難しいでしょう。
しかし、他の主要先進国は、この5年間、どこもそれなりの成長を示しているのに、日本の成長率はご覧のとおり最低で、0%付近を徘徊しています。



そもそも資本主義社会は、そのスピードに違いはあれ、常に成長を続けてこそ経済を維持できるのです。
「景気が悪くても」では困るのです。
人々は、貧しくなることを最も嫌います。

景気の悪化は、デフレ→消費・投資の減退→さらなるデフレという悪循環を意味します(現にいまの日本がそうです)。
こうして日本人は、この20年間で、どんどん貧しくなってきたのです。

言い換えると、日本政府が取ってきた経済政策は、資本主義に逆行することばかりやってきたのです。
かつて日本は、1995年には世界のGDPの17%を占めていたのに、わずか19年後の2014年には6%を切っています。

日本は急速に後進国化しています
それは単に、GDPのシェアの縮小という数字的な意味にとどまりません。
国内の需要に、国内での供給をもって応えることができず、資源、食料、インフラ、エネルギー、国防、技術、労働力など、あらゆる面にわたって他国に依存しなくてはならない状態を、後進国と呼びます。

いま日本は現にそうなりつつあるのです。
それを急速に進めたのが、安倍政権のグローバル経済政策であることは言うまでもないでしょう。

大村氏の2つ目の提案、「溜まりに溜まっているを、もっときちんと社会に分配する」というのは、部分的には意味がありますが、残念ながら、根本的な解決にはなりません。

この提案は、具体的には、逆進性をもつ消費税の増税凍結、グローバル大企業の法人税の増税、所得税や相続税の累進性の拡大、国内設備投資減税、正規雇用促進企業や賃金値上げ企業への減税、などを意味するでしょう。
つまり、徴税の基本的機能の一つである、所得の再分配をもっと徹底させるということです。
平たく言えば、お金持ちから貧乏人にお金を流すということですね。

これらには一定の効果は見込めるものの、お金の面だけで経済政策を考えているため、肝心のことを見落としているところがあります。
そこには、「富」とは「溜っているお金」のことだという勘違いが見られるのです。
金持ちから貧乏人にただお金を流しても、そのお金が消費や生産活動に有効に使われず、貯金としてため込まれてしまっては、何の意味もないのです(家計の内部留保)。

では「富」とは何か。
それは、国民すべてが欲しているものを、なるべく他国に依存せずに生産する力のことを言います。
この力のうち、最も大切なものは、技術であり、その技術を駆使できる人々の労働です。

哲学者のヘーゲルは、金持ちがぜいたく品を買う方が、貧乏人に慈善を施すよりもずっと道徳的だという逆説を述べました(『法哲学講義』)。
なぜなら、高価なぜいたく品には多数の人々の労働が込められており、金持ちはその労働者たちの労働に対して正当な対価を支払ったことになるからです。

一国の経済に関する最大の政治課題とは、国民が持つ潜在的な生産力をいかに引き出し、それを流通のシステムにうまく乗せ、さらにそのシステムをいかに維持し、発展させるかということです。
それが日々の労働によって生きている一般国民を豊かにする道なのです。
このことは古今東西変わりません。

グローバル金融経済がのさばって、株主資本主義が横行し、普通の国民生活を圧迫している現代経済。
これを少しでも抑えるには、それを放埓に許しているいくつもの条件に規制を加えなくてはなりません。
そして、政府が進んで、資源、食料、インフラ、エネルギー、国防、技術、労働力(人材育成)などに投資するのでなくてはなりません。



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 ・消費税制度そのものが金融資本主義の歪んだ姿
  https://38news.jp/economy/12512
 ・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
  https://38news.jp/economy/12559
 ・先生は「働き方改革」の視野の外
  https://38news.jp/economy/12617
 ・水道民営化に見る安倍政権の正体
  https://38news.jp/economy/12751
 ・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
  https://38news.jp/default/12904
 ・急激な格差社会化が進んだ平成時代
  https://38news.jp/economy/12983

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