小池東京都知事が23日、新型コロナウイルスの大規模な感染拡大が認められた場合は、首都の封鎖=ロックダウンもあり得るとして、都民に対し、大型イベントの自粛などを改めて求めました。
また25日には、感染が爆発的に拡大する「オーバーシュート」の重大局面との認識を表明しました。
さらに26日には47人が新たに新型コロナウイルスに感染したことが確認されたと発表しました。
小池氏は同日夜、安倍首相と会見、首相に「国の大きな力強い協力が必要だ」と要請しました。
首都圏3県もこれに応じて、ただちに協力体制の表明と自粛要請の指示を出しています。
これ、なんだか変だと思いませんか。
東京五輪の延期決定が24日、小池知事の「ロックダウン」発言はその前日で、もちろん彼女はすでに延期決定を知っていたはずです。
まさに間髪を入れず、というより延期決定をとうに見越して、決定の発表前に先手を打っているわけです。
23日は月曜日でしたが、それまで月曜日は検査実施件数が30件前後だったのに、5週連続で陽性反応はゼロでした。23日には、実施件数77件、陽性反応16件とどちらも急に増えています。
そして24日には、86件中17件、25日には108件中41件、26日に100件中47人、と続きます。
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/
こういう邪推はしたくありませんが、五輪が延期になるや否や、「今度の都政の最大テーマはこれ!」と彼女が選んだのではないかと疑いたくなるのは筆者だけでしょうか。
都知事選も近いことですしね。3年前の「希望の党」騒動、2年前の豊洲問題に続いて、ポピュリスト・小池劇場の再来?
それにしても、なぜこの大東京で、月曜日ばかり5週連続陽性ゼロが続いたのでしょうか。
何らかの隠蔽操作があったとかんぐりたくなりませんか?
ちなみに2月半ばから検査実施件数は毎日100件前後行なわれていますが、他の曜日も陽性反応はおおむね一けた台にとどまっています。
この国難の時期に、なぜこんなひねくれたことを言うかというと、「ロックダウン」「感染爆発」「重大局面」「首都封鎖」などのセンセーショナルな言葉が、単に国民の不安を掻き立てるだけの情緒的なものに過ぎず、事態を冷静に見極めたうえで発信されているとは思えないからです。
首都封鎖? 一大首都圏をなしている周辺の自治体との連続性をどのように確保するのか、想像もつきません。
しかも小池知事は、疫病蔓延の危機を訴えるだけで、過剰自粛がもたらすにちがいない経済の激しい落ち込みについては、何ら言及していません。
都の財政面からもあきらかに責任ある発言が伴うべきなのに、それは政府に丸投げの体です。
しかもその政府の「緊急対策」なるものは、すでにその大枠が報じられていますが、後述するように、情けなくなるほど貧しいものです。
未来は誰にも見えないので、予断は控えなくてはなりませんが、それでもあえて言わずにはおれません。
現状を見る限り、わが日本にとって、新型コロナ禍そのものは、そんなに大した危機でしょうか。
では、新型コロナが日本をどれくらい侵襲しているか、詳しく見ていきましょう。
それに先立って、次のような原則を立てておきます。
①感染件数は、国や地域によって検査を受信したかどうかが大きく異なるので、当てにならない。
②中国の統計は当てにならない。
これはGDPなどあらゆる面でさんざん言われてきたことですが、今回に限って言えば、27日のテレ朝「情報ミヤネヤ」で、武漢に遺骨を取りに来た人たちが大群衆をなしていて、とても全国で3000人クラスの死者にとどまっていたとは思えません。
また最盛期には武漢市内の全火葬場が文字通り火の車で、どのように処理したのかわからないという情報もあります。
③統計がしっかりしている国では、死者数に関してはある程度信用が置ける。
④死者数は絶対数でなく、人口当たりで見なくてはならない。
さて、下のグラフをご覧ください。
出典:札幌医大:https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html
このグラフは、1月下旬から3月24日まで、G20 諸国のの新型肺炎による人口100万人当たりの累積死者数を時系列で追いかけたものです。
ちょっと読み取りにくいですが、原本に当たると、ポイントごとにどの時点で何人累積死者が出たかがわかるようになっています。
なおイタリアと共に相当な被害に見舞われているスペインが載っていませんが、これは同じ資料でヨーロッパ篇に当たると、ちょうどイタリアとフランスの真ん中を貫くように急上昇しています。
それで、主要国の100万人当たり死者数を直近(3月24日)で並べてみると、次のようになります。
イタリア 124.13
スペイン 73.45
フランス 20.39
イギリス 6.22
アメリカ 3.17
韓国 2.56
ドイツ 2.36
中国 2.29
カナダ 0.93
トルコ 0.70
日本 0.36
オーストラリア 0.31
何と日本は下から2番目、イタリアの345分の1です。
統計が当てにならないと言った中国でさえ、日本の6倍以上の数字になっています。
しかも以下の記事によれば、イタリアの新型肺炎死者の99%が基礎疾患を抱えており、平均年齢は79.5歳と報告されています。
https://www.sankei.com/world/news/200320/wor2003200050-n1.html
日本では、毎年11万人が肺炎で死に、死因の第4位を占めています。毎日300人が死んでいる計算。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html
おそらくこの場合も、基礎疾患がある高齢者が多いのでしょう。
次のグラフは、インフルエンザによる死者数(日本)の年次推移です。
https://president.jp/articles/-/33053?page=2
これでわかるように、通常のインフルエンザだけでも、ここ7年間で、毎年平均2000人近くの死者が出ています。
しかしこれまで、インフルエンザが流行しているからというので、これほどの自粛が要請されたという話は聞いたことがありません。
結局、ワクチンができていないという未知の不安がことを大きくしているのでしょう。
それはそれでもっともな話と思います。
それにしても、連日コロナ、コロナで、まるで世界にはそれしか心配事がないかのような集団ヒステリー状態は何とかならないものでしょうか。
筆者は、こういう状況を情報全体主義と呼びたいと思います。
交通事故死者は2019年で3200人、1日10人近く死んでいる計算になります。これでも激減した方で、1970年には17000人、1日46人が死んでいました。
疫病の蔓延とは問題の筋が違うと批判される向きもあるでしょう。
しかし、なぜこういう例をあえて挙げるかというと、人々は、日々の生活のなかでじつに多様な困難や課題と闘っているので、何も新型コロナだけが闘う相手ではないということを示したかったのです。
もちろん、他の例を出すことはいくらでも可能です。
むろん、イタリアやアメリカの現状を見れば、コロナが問題ではないなどと言いたいわけではありません。
しかし、昔から清潔好きで律儀な生活習慣を身につけ、ウチとソトとを明確に分ける文化伝統をもつ日本人のことですから、よく言われているように、手洗いや消毒を励行し、密閉、密集、密接をなるべく避けるようにして、粛々と日々のやるべきことをこなしていけば、大災害に至ることはまずないでしょう。
遅れはしたものの、水際作戦や感染者対策も徐々に進みつつあります。
したがって、次々に続くイベント中止、外出自粛などを、これほど徹底させる必要はほとんどないと筆者は考えます。
さてこうした情報パニックがもたらしている過剰自粛が、経済に計り知れない打撃を与えることは、言うまでもありません。
新型コロナ騒ぎがまだ起きていなかった昨年10~12月のGDPの落ち込みは、▲7.1%という恐ろしいものでした。理由はもちろん、絶対に避けるべきだった消費税の値上げです。
そこに新型コロナによる過剰自粛が追い打ちをかけているわけですが、この分で行くと、1~3月期の落ち込みはさらに2ケタになるのを避けられないでしょう。
ただでさえ25年もデフレ脱却できていない日本経済は、トリプルパンチを食らって回復不能に陥る可能性がきわめて大きい。
政府をはじめとした行政機関は、これだけ自粛を煽ったからには、経済の落ち込みに対する責任を取ってもらわなくてはなりません。
小池都知事にその構想などないことは明らかです。
中央政府はどうか。
ここに25日にヤフーニュースに掲載された、「緊急経済対策」の大枠なるものがあります。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200325-00000223-kyodonews-bus_all&fbclid=IwAR3AfIZolBVOeG_Q3YodKPDnq0-CCjsF7aKMiCdxeNjE9syfsQBbIx82a8w
これには次の項目が列挙されています。
①収入が減少した世帯への現金給付
②企業や個人事業主への特別融資枠拡充
③マイナンバーカードのポイント付与率を倍増
④感染終息後の旅行代金を半額補助
⑤雇用調整助成金の給付率引き上げ
一見して気づくことが二つあります。
この中に消費減税または消費税の凍結と、金額を明記した大規模な国債発行が盛り込まれていないことです。
この二つを盛り込むことで、国民の安心を得られるのは確実なのに、どれもこの二つを避けて、緊縮財政を維持したままでセコイ対策を打とうとしていることは明らかです。
①の現金給付は、収入減少の線引きをどこに引くのか明らかではありません。来年の申告時期まで待つのでしょうか。
②は粗利補償ではなく、融資です。
負債を抱えた中小企業がほとんどなのに、さらに返済が必要な融資を受けるでしょうか。
融資は申請が必要で手続きや時間もかかるので、わざわざ申請してくる企業などまずないでしょう。それを見越してこういう策を立てているに違いありません。
③は倍増されてもその金額は雀の涙。換金手続きも面倒です。
④に至っては、その子供だましの方法に思わず笑ってしまいます。
いつ終息するかもわからないし、旅行などにのんびり出かけるどころではないかもしれない。おまけに半額補助とは!
大事なことは、いま所得の大幅ダウンに苦しんでいる国民をすぐに救済できる手を打つことです。
⑤雇用調整助成金は事業主に対して給付されるものであり、それが各従業員の懐に収まるかどうかは、事業主の意向にかかっています。
しかも給付率引き上げとあるだけで、どれだけなのかさっぱり分かりません。
つまり中央政府は、口先だけで「今までとは根本から発想を転換して」などと息巻いていますが、実際にはほとんどやる気がないと言っても過言ではありません。
総じて、現在進行中の経済危機に対して、その危機感の欠落にはあきれ果てます。
この記事の本文には事業規模の総額56兆円、財政支出は15兆円(これでも少なすぎますが)とありますが、金額の大きさに騙されてはいけません。
先の補正予算の時にも、総額26兆円と謳いながら、半分は民間、残りのうち9.4兆円が国と地方の歳出、3.8兆円が財政投融資で、結局補正予算は、例年と大して変わらない4.3兆円でした。
https://38news.jp/economy/15140
今度も、国民の難局を救うことなど天から考えていない狂人たちによる緊縮路線死守のために、妙なからくりを使ってごまかすに決まっています。
しかし、消費税凍結によって20兆円、最低30兆円の国債発行によって(MMTを学べば、「国の借金」を心配する必要はまったくないことがわかります)、すぐにでも50兆円(GDPの1割)の経済効果が得られます。
消費をしない人はいませんから、10%を支払わなくて済む人は、その分だけ可処分所得が増え、しかもそれは間違いなく消費に使われます。結果、生産者、流通業者をも直接潤すことになるのです。
しかし政府は、間違いを認めたくないというただそれだけの理由から、絶対に消費税に手を付けることをしないでしょう。
コロナ騒動は、こと日本に関する限り、欧米の状況に煽動された政府、有力自治体によるマッチポンプです。
しかしマッチをつけたはいいが、それを適切に消火するだけのポンプの用意がないのです。
コロナ騒動は、1年も経てば、「あの騒ぎはいったい何だったんだ」となるでしょう。
ただし同時にその時、日本経済の悲惨な廃墟を見ることになる……
筆者の悲観的な予想が外れることを祈ります。
【小浜逸郎からのお知らせ】
●中野剛志・小浜逸郎公開対談「沈みゆく日本 私たちはどう向き合うか」
5月16日(土)
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●長編小説の連載が完成しました。
社会批判小説ですがロマンスもありますよ。
https://ameblo.jp/comikot/