内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』の憂鬱になるほどのアクチュアリティ(下)―「組織学習」「学習棄却」「自己革新組織」

2023-08-30 13:24:12 | 読游摘録

 『失敗の本質』第三章「失敗の教訓―日本軍の失敗の本質と今日的課題」を私は今後反復熟読することになるだろう。そして、授業でも取り上げることになるだろう。
 「組織学習」「学習棄却」「自己革新組織」という三つの基礎概念に関わる箇所を第三章から摘録しておく。

パフォーマンス・ギャップがある場合には、それは戦略とその実行が環境変化への対応を誤ったかあるいは遅れたかを意味するので、新しい知識や行動様式が探索され、既存の知識や行動様式の変更ないし革新がもたらされるのである。とりわけ、既存の知識や行動様式を捨てることを、学習(learning)に対して、学習棄却(unlearning)という。このようなプロセスが組織学習なのである。軍事組織は、このようなサイクルを繰り返しながら、環境に適応していく。(347頁)

組織は学習しながら進化していく。つまり、組織はその成果を通じて既存の知識の強化、修正あるいは棄却と新知識の獲得を行っていく。組織学習(organizational learning)とは、組織の行為とその結果との間の因果関係についての知識を、強化あるいは変化させる組織内部のプロセスである、と定義される。しかしながら、組織は、個人の頭脳に匹敵する頭脳を持たないし、またそれ自体で学習行動を起こすこともできない。学習するのは、あくまで一人一人の組織の成員である。したがって組織学習は、組織の成員一人一人によって行われる学習が互いに共有され、評価され、統合されるプロセスを経て初めて起こるのである。そのような学習が起こるためには、組織は、個々の成員に影響を与え、その学習の成果を蓄積し、伝達するという学習システムになっていなければならない。組織は、ちょうど一人一人の俳優によってドラマのレパートリーが演じられる舞台にたとえることができるのである。(367頁)

組織学習には、組織の行為と成果との間にギャップがあった場合には、既存の知識を疑い、新たな知識を獲得する側面があることを忘れてはならない。その場合の基本は、組織として既存の知識を捨てる学習棄却(unlearning)、つまり自己否定的学習ができるかどうかということなのである。(369頁)

 この組織学習と学習棄却との規定は、「軍事」という言葉を削除してもまったく差し支えがないほど普遍的な組織論の基本原則だし、今まさに私たちの社会が直面している問題そのものではないだろうか。

組織の環境適応は、かりに組織の戦略・資源・組織の一部あるいは全部が環境不適合であっても、それらを環境適合的に変革できる力があるかどうかがポイントであるということになる。つまり、一つの組織が、環境に継続的に適応していくためには、組織は環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなければならない。こうした能力を持つ組織を、「自己変革組織」という。日本軍という一つの巨大組織が失敗したのは、このような自己革新に失敗したからなのである。(348頁)

組織がたえず内部でゆらぎ続け、ゆらぎが内部で増幅され一定のクティカル・ポイントを超えれば、システムは不安定域を超えて新しい構造へ飛躍する。そのためには漸進的変化だけでは十分ではなく、ときには突然変異のようは突発的な変化が必要である。したがって、進化は、創造的破壊を伴う「自己超越」現象でもある。つまり自己革新組織は、たえずシステム自体の限界を超えたところに到達しようと自己否定を行うのである。進化は創造的なものであって、単なる適応的なものではないのである。自己革新組織は、不断に現状の創造的破壊を行ない、本質的にシステムをその物理的・精神的境界を超えたところに到達させる原理をうちに含んでいるのである。(382頁)

 「あなたが現在属している組織はこのような自己変革組織たり得ているでしょうか?」 今、この問いについて世論調査を日本全国規模で行えば、ほぼ間違いなく、「たり得ている」という回答は過半数に届かないであろう。それどころか、その他の回答「たり得ているかどうかわからない」「たり得ていないかもしれない」「ある場合、たり得ていない」「多くの場合、たり得ていない」「まったくたり得ていない」を全部合計すると優に過半数に達するだろうと予想される。