内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

個体がそこに在るとき、コミュニケーションはもう始まっている ― ジルベール・シモンドンを読む(69)

2016-05-13 03:55:37 | 哲学

 ILFI の第一部「物理的個体化」第二章「形とエネルギー」の最終段落を読む。

Ceci suppose que l’individuation existe à un niveau intermédiaire entre l’ordre de grandeur des éléments particulaires et celui de l’ensemble molaire du système complet ; à ce niveau intermédiaire, l’individuation est une opération de structuration amplifiante qui fait passer au niveau macrophysique les propriétés actives de la discontinuité primitivement microphysique ; l’individuation s’amorce à l’échelon où le discontinu de la molécule singulière est capable — dans un milieu en « situation hylémorphique » de métastabilité — de moduler une énergie dont le support fait déjà partie du continu, d’une population de molécules aléatoirement disposées, donc d’un ordre de grandeur supérieur, en relation avec le système molaire. La singularité polarisante amorce dans le milieu amorphe une structuration cumulative franchissant les ordres de grandeur primitivement séparés : la singularité, ou information, est ce en quoi il y a communication entre ordres de grandeur ; amorce de l’individu, elle se conserve en lui (p. 97).

 昨日まで見てきた物理レベルにおける個体化の特性は、以下のことをその前提とする。
 個体生成過程としての個体化は、粒子的要素の大きさの秩序と十全なシステムのモル的全体の秩序との中間のレベルに位置する。この中間レベルにおいては、個体化は増幅的構造化作用であり、この作用が、原初的にはミクロ物理的非連続性の活動的属性をマクロ物理レベルへと移行させる。個体化が始まるのは、非連続的であった特定の分子が、準安定性をもった「質料形相的な状態」にある環境において、エネルギーを調整できるようになるときである。そのとき、このエネルギーの保持形態は、すでに連続的なものの一部を成している。つまり、一定の確率で配列された分子群の一部を成している。それゆえ、モル的全体システムとの関係において、より高次な大きさの秩序に属している。極性をもった特異性は、不定形な環境において、累加的構造を発生させ、この構造が、原初的には分離されていた複数の大きさの秩序間を横断する。個体として形成されることで生まれた特異性は、異なった大きさの秩序間にコミュニケーションがそこにあるということを意味している。個体の始まりである特異性は、己自身を個体の中に維持する。
 上掲の原文を、若干説明的な言い換えを交えて訳すとこのようになる、と思う(弱気)。
 しかし、である。ありがたくも拙ブログのこの記事に一瞥を与えてくださった方の中には、「なんじゃぁ、こりゃぁ、さっぱりわからん、これぞ悪訳・悪文の典型だ!」とお怒りの方もいらっしゃることでしょう。そういうお叱りを受けても仕方のない文章であることは私自身よくわかっております。でも、そう言うだけではいかにも無責任ですから、私なりに原文をこのように理解したのだというところを以下に示しておきたく思います。
 個体生成以前の状態というのは、ただばらばらに分子が散らばっているだけ。それがミクロレベルの非連続性。他方、それら分子群の全体は、全体として一定の法則に従っているという意味では、マクロレベルで一つのシステムを形成している。しかし、この段階では、ミクロレベルとマクロレベルとの間に何のコミュニケーションもない。そのような初期状態から、ある一定数の特定の分子が一定の運動を始め、それがエネルギーの流れ方を規定するようになる。それが一定期間安定性をもつようになり、その安定的部分がその周りから区別されて、連続性・自律性を獲得する。このとき、この特異性をもった分子の群が個体の萌芽状態。ここに個体と環境という関係が発生し、初期に与えられた全体システムがそれによって増幅される。と同時に、個体を構成するミクロレベルの分子群とその個体がそこに属する環境との間にコミュニケーションが発生する。つまり、個体は、ミクロとマクロとの媒介項として、両者の間のコミュニケーションの場となる。この意味で、生成しつつある個体は、ある特異性をもった関係の可変的・可動的な結節として一定の構造を備えるに到る。
 シモンドンが言いたいことをちゃんと理解できている自信はなく、もしこう読んでよいのならば、私にも少しはわかるのだけれど...というところが正直な気持ちです。