長い時間を放置しておりました。
途中になっていた連載を再開します。
法令の審査方法(1)法令の審査方法(2)法令の審査方法(3)法令の審査方法(4)法令の審査方法(5)
文面審査、適用審査について、ここまでにすでに
まとめた内容を含みますが、ご参照ください。
・・・。というわけで、話は富士見台公園に戻る。
遊具がたくさんあり、斜面が広大な芝生になっている
素晴らしい公園である。
よくドラマのロケもやっているのだ。
私「うーん、その文面審査、適用審査というのは、
話を整理しないとごちゃごちゃになるんだよな。
まず、話を防御権の審査に限定しよう。」
ツ「防御権ってのは、確か、表現の自由とか
営業の自由とか、そういう何何の自由っていう権利だよね。」
私「その通り。で、さしあたり、法文の明確性や過度広汎性は
問題にならない、と仮定してくれ。
これがからむと、話は二段階くらい複雑になる。」
ツ「おお。アタシのような民法専攻の人間からすれば、
ほんとにどうでもいい細かい分類だ。
確かに、切手マニアの世界だな。」
このような細かい話をしているためか、
我々を見るネコの表情も、あきれ顔である。
私「防御権の審査というのは、
要するに、その行為(自由)の規制により得られる利益が
自由の価値を上回っているかどうか、という点の審査だ。
要するに比較考量だな。これをやるとき、比較考量の対象になる
規制された行為の単位が問題だ。」
ツ「さっきの話だと、原則として比較考量の対象は、
原子法命題、その事実にあらわれた行為ということになるよね。」
私「そう。だけど、原子法命題とか、その行為の要素を全て書き記すことは、
実際には不可能だろう。」
ツ「おっしゃる通りだね。」
私「だから、裁判所は、問題となった行為のうち、
憲法判断に影響を与えそうな要素をくくりだして、
ある程度抽象化された行為、行為の類型を単位にして
比較考量せざるを得ないわけだ。」
ツ「そうだったな。」
私「そうだろう。で、ここで一つクイズだが、、
例によって、『公務員は政治活動しちゃダメ!』という規制がある。
猿払事件みたいなケースが裁判所にもってこられたとしよう。
この場合、『勤務時間外』とか『現業』という要素が
憲法判断に影響を与えると考えた場合は、
審査対象は、この規制の一部分(現業の勤務時間外部分)ということになる。」
ツ「ふむふむ。」
私「これに対し、そう言う要素は憲法判断に影響を与えないと考えた場合には、
公務員の政治活動という類型について審査される。そうだろう?」
ツ「理論的にそうなるなあ。
アレ?そうなると、
この事件にあらわれた要素のうち
憲法判断に影響を与える要素は何だろう?って、
事件の側から考えた結果、出てきた審査対象は、
『公務員の政治活動の禁止一般』ってことになって、
これ、法令全体の審査じゃないか。」
私「まさにその通りだよ。
つまりだね、防御権制約の正当化の可否を審査する場合の審査対象は、
全て事実を見て、
そこから重要な(憲法判断に影響を与え得る)
要素をくくり出して決めるわけだ。」
ツ「ふーん。全てはその事案の事実から審査がはじまるのか!」
私「そうだね。その事案の事実を司法事実と呼ぶこともあるんだが、
そういう意味で、
防御権の審査は全てそういう意味での司法事実を参照しながら行われる。
しかし、そこから審査対象を特定していった結果、
にゃんと、法文から導かれる法命題全体の審査が行われることがある。」
ツ「うむむ。そうすると、司法事実から憲法判断に重要な要素を括りだした結果として、
A:法文から導かれる法命題のうち一部を審査する場合 と
B:法文から導かれる法命題全体を審査する場合 がある、と。」
私「そうそう。それで、Aを適用審査とか部分審査、
Bを文面審査って呼ぶ人がいるんだよ。
別に、切手の絵柄と一緒で
どうという違いではないんだが、区別をしたい人にとっては
すごく大事な区別だ。」
我々は、富士見台公園を登り切り、
運動場にやってきた。陸上部のみなさんがハッスルしている。
ちなみにハッスルと言う言葉は、ほぼ死語だが、
私の同僚に、この言葉を愛用するタケオカという男がいるため、
うちの学部では、死語になっていないのだ。
わが法学部は、レッドデータアニマル ハッスル保護協会といってもいいだろう。
ツ「いや、しかし、文面審査とか適用審査って
用語がすごく混乱していると思うんだが、
今の話だと、すごく単純な区別だよね?
なんでそんな話が混乱するんだ?
憲法学者や憲法にかかわる実務家はアホなのか?」
私「それはそうじゃない。
防御権以外の審査がからむと、話がかなり複雑になるんだよ。」
(つづく)