木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

メイキングオブキヨミズ(7) もう少し七味唐辛子を

2013-03-17 17:02:19 | 作品情報 キヨミズ准教授
ご無沙汰しております。
おかげさまで、キヨミズ准教授、多くの方に読んで頂けて
とてもうれしいです。

辰巳法律研究所様のハイローヤー4月号でも、
ご紹介くださりありがとうございます。

こちらの狙いをしっかり汲み取ってくださった
大変うれしい書評でした。

新学期にも、ぜひ多くの法学新入生に読んで頂きたいと思っております。

******************

さて、そんなわけで、昨年の2月に法的思考にスポットライトをあてた
法学入門を、という依頼を頂いたわけだが、
法学入門はとてもハードルの高い世界である。

ところで、筆者は、昔から小説形式で書かれた
面白い学問の入門書ってないもんだろうか、と思っており(高2の頃)、
ないなら、自分で書いてもいいのではないか、
しかし私は何者だと自問自答したこともあり(大学教養課程の頃)、
今回、その構想が実現できないだろうか、と考えた次第である。

自分が高校の頃に読みたかった本なのだから、
当然、聞き手は高校生、話し手が大学の先生ということになるのだが、
このシチュエーションが難しい。

高校生と大学の先生が会話をする機会などというのは、
なかなかないわけである。

いや、もちろん入試の時に、「名前を書いてください」とか
「トイレはあちらです」といった深い交流をすることはあるが、
法学入門についてだらだら語り明かすということは
まあ、ないだろう。

こうして、筆者は、高校生と大学の先生が自然に会話するシチュエーションを求め
右往左往するのであった。

いわく長距離バスで隣になった・・・そんな深い会話にならんだろうし、
第一、しゃべり続けるのは迷惑だ。

いわく出張講義・・・現Chapter3のように単発ならまだしも、
なかなか相互に疑問をぶつけあったりしない。

やはり、喫茶店でなぜか会話になり、その後いろいろなところで
出会う的な自然な流れにしたい。

いや、それのどこが自然か、という問題はあるが、
この際、問題は自然かどうかではない。


そんなとき、思い出したのが、編集者の柿内さんであった。

「ちょっと、そのワッフル、分けてくれない?」

喫茶店で会話のきっかけになるセリフとして、これ以上のものがあろうか。

確かに、そんなことは実際には起きないだろうが、
隣の芝は青いのは時を越え、空間を越え妥当する話である。

古代ローマの貴族たちの間には「隣人の槍は長い」、
インカ帝国には「人は皆、自分に当たる日光が一番弱いと感じるものだ」
とのことわざがあり、
あの秦の始皇帝ですら「余の酒が少ない」といったのは有名な話である。

というわけで、実際にはあり得ないのに、
妙に自然に思えてしまう導入部ができたのであった。

ちなみに「自然に思えてしまう」には
「少なくとも筆者には」という修飾句がかかる。
筆者が自然に思えない限り、筆は進まず、
逆に、筆者の筆が進めば、周りから見てどんなに
不自然でも、原稿はできあがるのだ。

というわけで、ここまで思いつけばあとは簡単であった。

話し手になる大学の先生のマイペースもいいところな人物像は、
大学2年生のころから考えていたので、
そのキャラクターから高校生の方に話をふればよい。

高校生の方が、法学に強い興味があったら、
やらせというかココセというか、どっちにしろ興ざめもいいところなので、
あまり法学に興味がないキャラクターにしよう。

この二人を基軸に話を進めてみたわけだが、
主人公のキヨミズ准教授が、あまりにもマイペースにしゃべるので、
(人物像が固まっているため、筆者が彼をコントロールできる幅には
 限界がある・・・)
キタムラ君ひとりでは、突っ込み役が足りない。唐辛子をもうすこし。

こうして、筆者は、再度長考に沈むのであった・・・。

メイキングオブキヨミズ(6) 法学入門・・・ハードルが高い・・・

2012-12-13 09:54:01 | 作品情報 キヨミズ准教授
ご無沙汰しております。
教師という仕事をやっておりますが、今年は、いろいろと忙しく、
「師走」という言葉の由来が今一つ納得できない今日この頃。

おかげさまで『キヨミズ准教授の法学入門』みなさまに
ご愛読いただきまして、
多くの方にブログやツイッターなどでコメントをいただいております。

『憲法の急所』の頃から目を付けてくださっている皆様の
ブログでも、コメントをいただきました。

『憲法の急所』や「憲法学再入門」についても
いつも暖かいコメントを寄せてくださる
Rockで怠惰な1日さま、どうもありがとうございます。

私も、キタムラ君や岩渕さんのその後が気になっております。


『アニメキャラが行列を作る法律相談所』でおなじみの
ronnor様
誤植や誤りのご指摘ありがとうございます。

文献案内まで含め、
わたくしが、法学通の皆様に発信した「裏のメッセージ」を
すべて読み取ってくださっております。


また、岡山大学の井藤先生は、
法科大学院生の皆様におすすめしてくださり、
まことにありがとうございます。

確かに、あの本に書いたようなことは、
司法試験受験生にとっての基礎体力のようなものかと思い、
意外とああいうことを見落としていて、
点が伸びないということ、あるやもしれません。


まことにありがとうございました。

******************

さて、メイキングオブキヨミズ。
そんなわけで、私は、「法学の考え方」についての
依頼をいただいたわけであるが、
この依頼がなかなか曲者である。

柿内さんと平林さんのオファーは、
私の専攻する憲法学の入門書、ということではなく、
「法学」の入門書、「法的思考とは何か?」を論じる本
ということであった。

全国の大学で「法学入門」というタイトルで教えられている
内容である。

この法学入門であるが、上に紹介したronnor様のブログでも
書かれているように、
ただでさえ抽象的な法学を、さらに抽象化して
一般論・原論を教えるわけで、
数学基礎論もびっくりの難解で抽象的な講義になることが多い。

その内容も、法源と法命題、法段階説における命令の位置づけ、
根本規範の存在形式、解釈の類型論といった、
法学者や法律実務家でも、普段あまり考えないような項目が並ぶ。

法学入門を教える大家が、あまりの退屈さに
休講を決意し、喫茶店に入ったところ、
講義のあまりの退屈さに欠席を決意した受講生とあって
師弟の心の交流を行ったという話はあまりにも有名である。
       (長尾龍一『法哲学入門』参照)

というわけで、これを淡々と描いても
恐らく星海社様の経営に悪影響を与えるだけに終わるのではなかろうか、
という不安がよぎった。

しかし他方で、「法学入門」のハードルの高さを知らない
柿内さん、平林さん(お二人とも法学部出身ではない)は、
きっと面白い話になるだろうと、気楽にニコニコしている。

どんな本を書いたもんか・・・。
こうして、私は、しばし長考に沈むことになった。

メイキングオブキヨミズ(5) ワッフルかスコーンか、一口もらえば解決である。

2012-11-28 16:00:25 | 作品情報 キヨミズ准教授
娘が芸能人よりもかわいく見えるかどうかは、
主観の問題だからまだ許すとして、
客観評価の可能なハイハイでボルト選手に追いつけるかは問題である。

ところで、ハイハイでボルト選手に追いつける赤ちゃんって、
もはや人間というより妖怪ではないだろうか、
とつっこみの一つも入るであろう、
キヨミズ准教授の法学入門。

この連載では、そのメイキングをお送りしております。

**************


平林さんのお呼び出しを受け、我々は、
都内の某喫茶店「青山ティーファクトリー」で会合を持つことになった。

この都内某喫茶店は、
青山一丁目ないし外苑前から歩いて5分くらいの場所にあり、
スリランカ産の紅茶とおいしいワッフルが食べれるおすすめの喫茶店である。

こういうお店は、混むと困るので
場所や名前をぼやかして書いておくのがポイントである。




それはさておき、わたくしが待っていると
平林さんと柿内さんがやってきた。

柿内さんは、
全国5000万人の党員からなる日本最大の政党
日本甘党の党員だったようで、
メニューを真剣ににらんでいる。

ワッフルセットにするか、スコーンセットにするか、
という問題を悩んでいるのだ。

その表情は厳しく、その選択に日本の政権の行方がかかっている時のようだ。
日本甘党の幹部であることをうかがわせる。

そんな柿内さんを横目に、平林さんは、
インタビューのお礼を述べ、アクセスも好調だったと教えてくれる。
まっとうな社会人と言えよう。

私も、カメラマンの山崎さんにもよろしくお伝えくださいと述べるともに
平林さんのおかげで議論も深まり、好評だったことを伝える。
やはりまっとうな社会人だと言えよう。


さて、このようにまっとうな社会人たちが一通り会話をすませたところで、
様子を見ると、日本甘党幹事長は、
いまだスコーンとワッフルの選択を考えていた。

しょうがないので、平林さんは「僕ワッフルにします」と言い、
柿内さんも「僕、スコーン好きなんで」と言いながら
未練がましくスコーンセットをオーダーする。

平林さんにワッフルセットが運ばれてきたとき、
柿内さんがいかにうらやましそうな顔をしたかは描写するまでもあるまい。



このお店は、紅茶原理主義者のマスターが運営しているため、
店内で出されるフードも紅茶第一主義である。

ワッフルは、控えめな味にして紅茶を引き立てるようにできていて、
ベースそのものの味が楽しめるふんわりしたワッフルである。

その香ばしい香りに触れた柿内さんが
「一口ちょうだい」と言い出したことは、やはり描写するまでもないだろう。


この喫茶店でメニューを見ながら選択に真剣に悩み、
あげく一口ちょうだいと言い出す大人の態度は、
Chapter1のキヨミズ准教授の描写に大きな影響を与えることになる。


それはさておき、その後、本題に入った。

柿内さんは、妙にもじもじとし、なかなか話を切り出さない。

やはり愛の告白ではないか、とも思われるが、
そうではなく、新書で「法学入門」を書いてみてはくれないか、
というのが依頼の内容であった。

(ただ、後から考えてみると、出版社の方が著者に原稿を依頼するというのは
 確かに愛の告白に似ていなくはない。
 これを受けると継続的関係に入り、綿密に打ち合わせをして
 一緒に、子ども(原稿)書き上げて、と)

私の専攻は憲法学なわけであるが、
柿内さんたちはインタビューで「法学の考え方」というのが面白く、
そこに焦点を当ててほしいということであった。

            (つづく)

メイキングオブキヨミズ(4) ええ、まあから始まる

2012-11-26 15:39:37 | 作品情報 キヨミズ准教授
この頃、話題のツイッター、
「富士山級親バカbot @oyaoyaoyabakadesune」。

ツイッター上に、

「親バカもここまでくるとある種の感動を覚える」

「自分も親バカだと思っていましたが、
 自分は、まだまだ息子への愛が足りないと思い、
 日々精進する決心を固めました」

「富士山級ってことは、マッターホルン級親バカもいるのか?」

など、賛否両論、というか、賛否なのか良く分からない
評価があふれる。

確かに、

「うちの娘は佐々木希さんを可愛くした感じです!」

「うちの息子はハイハイでボルト選手に追いつけます!」

「『キヨミズ准教授の法学入門』は私の書いた作品ですが、
 国民一丸となって購入すべき木星軌道を変化させるほどの
 宇宙的規模の名著です!」

といった破壊力抜群の呟きの数々を見ると、一言しなくてはならない気分がします。


****************

さて、そんなどうでもよい話はおいておくとして、
インタビューの続きである。

山崎さんの御質問に、

「ええ、まあ。
 えっと、ここで答えてしまっていいんですか?」

とお答えしたところ、
柿内さんたちが慌てて止めたため、
私は、みなさんにお茶をだした。

この一連のやりとりで、場の空気はかなり和らいだものになっていた。
もし計算の上であれば、山崎さん、さすがである。

そして、ようやく録音機器がととのい、インタビューが始まった、

はじまりは、このように前途多難の空気もあったが、
インタビューそのものは、とても順調に進んだ。

これがそのインタビューである。


インタビューが終わると、
柿内さんたちは、良いインタビューがとれたと
思ってくれたようであって、
私も楽しくお話しができたし、
山崎さんや平林さんが、適切につっこみをいれてくれたので、
結構、深いところまでお話しができた、と、
とても良い雰囲気になった。

インタビューが終わったところで、
柿内さんたち一行は、私の研究室の本棚を見始めた。

本棚を見られるというのは、
なんだか自分の頭を覗かれているようで、というか、
自分の妄想を見られているようで、というか、
裸を見られているような気がして、恥ずかしい。

いや、たぶん、裸をじろじろ見られる方が恥ずかしいから
これは大げさというものだ。

実際、
依頼A:「すいません、服を脱いで、身体を見せて下さい」 と
依頼B:「すいません、ちょっと本棚を見せて下さい」   という

依頼だと、Bの方が受け入れられる確率は高いだろう。

それはさておき、
インタビューの内容は年明けに文章になり、
チェックの後に公開されるという。

別れ際、今後のジセダイの企画に何かご提案いただければ、
という流れになったので、
私はすかさず、「中村太地六段」という
今年歴代最高勝率に迫る活躍をしている棋士がいるので、
ぜひ「U-25」で取り上げて頂ければ、と話し、お別れした。

時間は1時間ということであったが、
予定をオーバーランし、2時間ほど経過していたが、
とても楽しい時間であった。

さて、そんなことがあって、次の2月。
平林さんから、
「ちょっと、会って話したいことがある」
と呼び出しを受けたのであった。

この展開。
もし、この連載がラブコメであったら確実に愛の告白である。
そして、確実に言えるのは、この連載はラブコメではない、ということである。

メイキングオブキヨミズ(3) インタビューがはじまらない

2012-11-24 19:59:44 | 作品情報 キヨミズ准教授
キヨミズ准教授の法学入門。

おかげさまで好調な出足でございまして、
この連載では、メイキングを紹介しております。

しかし、まだまだキヨミズのキの字も出てきておりません。
ではでは、どうぞ。

*****************


そんなこんなで、2011年12月某日。
私の研究室に、星海社の柿内さんと平林さん、
そして、カメラマンの山崎さんがインタビューに来てくださることになった。

私の方としても、よく知らない出版社の方々のインタビューということで
緊張していたわけだが、
平林さんから後から聞いた話では、
星海社さんは星海社さんで「賭け」だったという。

何しろ私の研究室は、八王子は南大沢キャンパスにあり、
とても空気がおいしく、公園もたくさんあって
いや、そういうことはどうでもよくて、
新宿から運が良くて40分という立地で、
インタビューに来る方にしてみれば、一日仕事である。

しかも、この当時、木村草太という人物に関する情報は、
ネットをさぐっても、怪しげなブログと
よく売れた法律専門書の著者らしいということしか出てこない。

ものすごく暗い人物で、
「ええ、まあ」だけのインタビューだけになってしまう可能性もあったのだ。


「先生が、研究者を志したきっかけは?」
「ええ、まあ。」
「先生が、授業で気を付けていることは?」
「ええ、まあ。」
「法学の魅力は?」
「ええ、まあ。」
「…。先生のお名前は?」
「ええ、まあ。」

と。これはこれで読んでみたい気がするが、
こんなインタビューで半日仕事ではたまったものではないだろう。
(いや、さすがにインタビューを受けているのに
 「ええ、まあ」だけで済ます人はいないだろう・・・。)

まあ、とまれ、約束の時間の15時に、私の研究室がノックされ、
柿内さんたちがやってきた。

一行を率いる柿内さんは、星海社新書編集部を率いる敏腕編集者だという。
部屋に入ってきたときも才気爆発という感じで、
頼りになりそうだった。

続いて、平林さんが入ってきた。
やせ形の大学院生風の男で、どうも神経質そうである。

そして、カメラマンの山崎さんが入ってきた。
芸術家肌の空気の漂うかっこよい人物で、プロのカメラマンとはこういうものか、
と思った。

とまれ、きちんと仕事ができそうな感じだったので、
とりあえず安心して、座っていただいた。


メールでは、私が研究者を志したきっかけから、
法学の魅力や憲法の論点について聞きたいということだったので、
どんな話から始めようかと考えながら、
柿内さんのお話を待った。

そして、柿内さんは徐に口を開き、
「えーと、平林君、録音機器は?」

対して、平林君。
「え、柿内さん、持っていないんですか?」

…。私の安心した気持ちは、にわかに不安にかわった。

そういえば私は、このインタビューの直前まで
ある学会の録音担当事務員を担当しており、
学会前にはしばしば「録音機器を忘れる」悪夢にうなされたものである。


そんなわけで、柿内さんと平林さんは、
荷物をひっくり返し、録音機器を探し始めた。


・・・。
気まずい中、山崎さんはプロだった。
場の空気を和らげるため、私と雑談をしてくれる。

少し安心したところで、山崎さんは言った。
「えーと、木村先生は、なぜ研究の道を志したのですか?」

って、それって、録音機器も整わないのにしゃべってしまってよいのだろうか。

前途多難の空気である。