木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

法令の審査方法(4)

2011-09-17 18:12:20 | 憲法学 憲法判断の方法
洋菓子キングは野猿街道沿いにある。
我々の座った席からは、街道の様子がよくわかる。

野猿街道近くには「野猿」の名を冠したお店がたくさんある。
野猿ラーメン、ホテル野猿、野猿そば、野猿建築事務所。
どのお店も地名をつけているだけなのに、相当な怪しさである。

私「うーん、法令の違憲審査をやる場合にはさー、
  その訴訟で、どのような法命題の審査をするか、
  審査対象の法命題を画定しなきゃいけない
  そうだろ?」

ツ「そうだな。審査対象を決めずに、審査をするなんて、
  ナンセンスだ。」

  ツツミ先生は、こう的確な発言をしたところ、
  ちょうどおかわりコーヒーが運ばれてきた。

私「それでだね、審査対象の法命題を画定するには、
  概ね二つくらいの方法がありそうだ、っていわれている。」

ツ「それが、適用審査・文面審査か。
  あ、でもさ、ちょっと疑問なんだけど、
  その審査対象の法命題の画定ってのは、
  裁判所がやる作業なの?それとも、当事者が主張することなの?


私「なかなかよくわかっているな。
  さすが、民事法の先生だ。」

  私は、ツツミ先生に賛辞を送ったが、
  残念ながらツツミ先生は自分への賛辞に耳を貸すような人間ではない。
  彼の興味は、いま、コーヒーとともに
  ケーキもおかわりするか、はやめの昼食にするか、
  にあるようだった。
  (目線を見ると、そういうことはよくわかる)

私「憲法第三章が保障する権利っていうのは、
  まぎれもなく権利だ。
  だから、権利者は、その権利に関する疑義について裁判を受ける権利を有する。」

ツ「そうだろうね。
  なんで、そんな当たり前のこと言うんだよ?」

私「ま、ちょっと先を聞いてよ。
  生存権についてはさ、それを実現する訴訟形態が
  法律で定められてないから、具体的権利じゃなあい
  っていったりする学説があるんだよ。」

ツ「あー、あった気がする。」

私「でも、それは本末転倒でさ。
  生存権が権利なら、それを実現する訴訟形態が定められていないこと
  それ自体が、憲法32条違反(裁判を受ける権利の侵害)なのであって、
  訴訟形態云々は、生存権の具体的権利性を否定する理由にはならない。」

ツ「なるほど。そうだね。でも、それと今の話とどう関係するの?」

私「じゃあさ、防御権の場合って、それを行使するための
  訴訟形態って何だと思う?」

ツ「えーと、防御権ってのは、要するに
  その自由を侵害する立法や、そういう立法に根拠のある処分を
  無効にしてもらう権利だから・・・。」

私「そう。だから、まぁ、防御権に基づく立法の違憲確認訴訟みたいな
  訴訟形態があれば、話はとても簡単なんだよ。」

ツ「ああ、ドイツの憲法異議の訴えみたいなやつね。」

私「そうだね。ただ、現行法はそういうシステムではなくて、
  防御権侵害があった場合には、
  行政処分取消訴訟や刑事訴訟の中で、前提問題として
  防御権の主張をしてね、という訴訟システムになっている。」

ツ「前提問題としての憲法上の権利主張訴訟と、それを踏まえた個別の訴訟が
  同時に行われるってことね
?」

私「そういうことだね。
  でだね、裁判所の違憲審査は、
  日本法の場合、ごく限られた客観訴訟の形態を除けば、
  主観訴訟の中で、権利者が自らの権利を主張し、
  その主張に対応して、行うものだ、ということになる。」

ツ「そうか。
  ということは、審査対象の法命題を画定するのは、
  差し当たり、権利を行使する国民、
  訴訟の場で言うと、取消訴訟の原告や、刑事被告人みたいな連中
  ってことになるのか。」

  ・・・。憲法上の権利を行使する人々を連中呼ばわりするな。
  後になるとそう思うのだが、このとき、私は
  ツツミ先生の連中呼ばわりがあまりにも自然だったので
  ひっぱられてしまった。

私「しかり。そして、その連中が、
  裁判所に対し、
  『これこれの法命題は
   私の権利を侵害しておるので無効です。
   この法命題の違憲性を審査してちょうだい。』
  と主張する。」

ツ「ふむふむ。それにこたえるのが違憲審査であり、
  裁判所の違憲審査の対象となる法命題は、
  権利者の主張により画定する・・・と。」

私「そういうことだね。
  それでだ、権利者は、
  公権力が処分の根拠とした法令から導かれる法命題について、  
  どのような抽象度の法命題の審査をしてもらうか、
  自由に指定できることになる。」

ツ「あーもー、抽象的でこんがらがってきた。」

私「了解。具体例を出そう。
  例えば、政治活動をした公務員が逮捕され
  国公法102条(だったよな)に反するとして起訴された
  っちうケースではだね、
  公務員の方は、
  『公務員は政治活動しちゃいかん』っていう
  抽象度の高い法命題を審査することもできるし、
  『現業公務員は、勤務時間外も政治活動しちゃいかん』っていう
  法命題の審査を要求することもできる。」

ツ「ああ、そういうこと。
  そだね。薬事法違憲判決の事案でも
  スーパーマーケットに適用される法命題だけの審査を要求してもいいし、
  薬局開設許可制の法命題全体の審査を要求してもいい。」

私「そうだね。どんな抽象度の法命題の審査を要求するかは、
  さしあたり、権利者連中の選択の問題
だ。」

ツ「読めたぞ。その連中の選択によって審査方法を区分したのが
  文面審査、適用審査ってことだな。」

  ・・・。ふふふ。話はそんなに単純ではないのだ。

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25 コメント

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過度の広汎性ゆえの無効 (はちみつボーイ)
2011-09-18 15:04:12
はじめまして。
先生のブログをいつも興味深く拝見させていただいております。
「急所」の記述について、よく分からないところがありましたので、こちらで質問させていただいてもよろしいでしょうか。

「急所」p166に、「過度に広汎な法文は、違憲部分と合憲部分を明確に区別できないため、結局あらゆる行為との関係で不明確な法文である」との記述があるのですが、いまいちピンときません。
いかに違憲部分が広汎であろうと、合憲部分の中心に位置付けられるような行為との関係においては、やはり明確であることに変わりないように思うのです。


ご回答よろしくお願いします。
返信する
Unknown (ララオ)
2011-09-18 20:29:37
今回の記事は難しいですね…
次のように考えてみたのですが、いかがしょうか。

>審査対象の法命題

 民事訴訟的に考えると、法命題=訴訟物。
 訴訟物は原告が設定するから、「法命題」も原告が設定する。

 民事訴訟とパラレルに考えられるのは、「憲法上の権利主張訴訟」(の領域)でも処分権主義が妥当するから。
 その理由は、私的自治(これを否定すると同意理論も否定することになる)。

 最終的に裁判所がどのような抽象度の法命題を無効として原告を救済するかは、申立事項の問題。
 よって、仮に原告が『公務員は政治活動しちゃいかん』という法命題を設定しても、
 裁判所が『現業公務員は、勤務時間外も政治活動しちゃいかん』という法命題の限度で無効にすべきと判断したならば、その限度で無効となる。
返信する
>ララオさま (kimkimlr)
2011-09-18 21:37:06
なるほど。

まぁ、そうした問題については
この先をお読みください^-^>
返信する
はちみつ!!! (アジシオ太郎)
2011-09-18 21:40:47
おう。
アジシオ太郎だ。

本当にそうかな?
例えば、『急所』にでてくる三人集会条例だと
「合憲部分の中心に位置付けられるような行為」って、
何になるんだ?

ちょっと、答えてくれ!

(と、返信コメントかいてたら、
 よこから割り込まれました。
 とりあえず、アジシオ太郎さんの質問に
 答えてくれますか?
 アジシオ太郎さんの質問への回答があれば、
 ご質問にも答えやすいです。)
返信する
Unknown (ララオ)
2011-09-18 21:57:24
続きをお待ちしております!
返信する
正当補償請求 (きりん)
2011-09-19 08:31:35
おはようございます。
問題を解いていて別の解決方法もあるのではないか、と思う箇所がありましたのでコメさせていただきました。
『急所』202PのQ24では、直接請求肯定説、否定説ともに、立法裁量の侵害となる側面があるということなのですが、別の考え方としては、憲法29条3項を抽象的権利と捉え、Lv2の立法請求権で処理するという方法もありうるのではないでしょうか。

ただ、原告にとっては、その訴訟では救済をうけることができないことや、そもそも、憲法29条3項は、給付内容が明確であって抽象的権利とは言えない、という批判があるかもしれません。

ただ、立法裁量との関係では、メリットがあると思います。




返信する
アジシオ太郎様へ (はちみつボーイ)
2011-09-19 15:03:22
そうですねえ…、たとえば「あるD高校の学生30名が、近隣に位置するK高校の学生に暴行を加える計画で、凶器を所持し、決起集会を行った」という事例はどうでしょうか。
この集会行為が「三人以上の集会をした者」に当てはまることは、直知可能なほどに明確でしょう。
また、この行為に刑罰を科すことは、十分に正当化できるでしょう。
私の言う「合憲部分の中心に位置付けられる行為」とは、このような行為を想定しました。
返信する
>きりんさま (kimkimlr)
2011-09-19 15:30:33
おたよりありがとうございます。

そうですね、そういう学説も成立すると思います。

ただ、あの問題では、
原告からそういう立場を主張しても、
あまり実のある結論がでなそうですし、
他方、裁判所としては、
判例があるので、それに従うのが自然かな、
という感覚で組み立てた議論です。

というわけですので、学説を組み立てる場面では
より自由に、きりんさんのような
学説を考えて頂いて良いと思いますよ^-^>
返信する
>はちみつボーイへ (アジシオ太郎)
2011-09-19 16:07:10
おう。ありがとう。

では、もう少し質問させてくれ。

三人集会条例の適用対象を
はちみつの指摘する集会に限定する
合憲限定解釈ができるか、考えてみてくれ?

もし、できないと思うなら、
三人集会条例のどの部分が合憲なのかを、
明確な定式で示してくれ!

はちみつの指摘する集会は、
その合憲部分を示す明確な定式に
該当するって、ことだよな?おう!

(と、割り込まれました。
 よろしくお願いいたします。
 kimkimlr)
返信する
割り込んですいません (snow)
2011-09-20 09:46:26
割り込んですみません。見当はずれだと申し訳ないのですが問題の所在を確認させてください。

違憲部分と合憲部分の双方を含む法文で、それぞれの部分を明確に区別できる場合と、できない場合をどう見極めるのか?ということが問題なのでしょうか?

区別できるのであれば、p37~38にかけてあるように一部違憲が可能なのですが。個別訪問禁止規定の持つ意味のうち、同意ある訪問を処罰するという部分は、他の合憲部分との区別が明確だ、ということと、三人集会処罰規定の持つ意味のうち、暴徒集会を処罰する合憲部分と、他の違憲部分との区別は不明確だ、というのは何が違うのか?ということでしょうか。
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