木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

対平成21年戦(3) 久しぶりに

2012-04-30 21:31:12 | Q&A 採点実感
さて、次のようなリクエストをいただきました。

Unknown (今年初受験)
2012-04-29 10:52:42
もうすぐ司法試験です。

その前に、どうしても知りたいことがあります。
それは、平成21年の過去問についての木村先生による講釈です!

そのため、木村先生の「対平成21年戦」の連載の続きがすごーく気になっているのですが、
当分先になってしまうのでしょうか?騒ぎ立てて申し訳ありません(_ _)



自分で復習してみたところ、以下の記事ですね。

対21年戦(1)
対21年戦(2)

設問1で、研究の自由の端的な制約ではなく、
給付の撤回的な場面であることを意識しましょうと書いてありました。

その後、違憲審査基準的なものを立てて
(研究の自由の重要性を主張し目的が極めて重要、必要な手段的な基準でしょう)、
規則違憲を審査する。
目的審査は済んでいるので、手段審査部分だけ、処分違憲の審査をする、
というような順に検討すれば、
出題趣旨にそったものになりそうです。


まあ、(2)までの内容で設問1については問題ないかなという感じですし、
採点実感を観ても、設問1は出題趣旨に沿った答案が多かったとのこと。

ただ、あの問題は、設問2なんですよね。
出題趣旨先生が「第三者の主張適格が問題だ」というわけのわからないことを言い出していて、
混乱されている方が多いと思います。


設問2で重要なのは、「第三者の権利を、別の個人が主張する」ということではなく、

1 国民の人権侵害になるような業務命令が出され、
2 それを無視して国民の人権を守った公務員がいた場合に
3 懲戒処分がなされると、
4 公務員は、国民の人権侵害ゆえに命令が違法だったから、
  懲戒処分も違法だ、と主張できるか?

という論点なのですよね。 
(問題自身に、公務員の服務規律の問題であることの強調がありますよね?)

で、これは第三者所有物の事案とはちょっと違っていて、
むしろ、生徒の良心の自由を保護するために、
君が代斉唱命令に違反した先生が、懲戒処分を受けた
みたいなケースと同型なんですな。

ですから、私なら、第三者所有物の判決とはディステインギッシュして
議論を展開すると思います。

というわけで、今日は、バタバタしてしまいましたが、
連休中に、設問2の検討の仕方をもう少し考えてみます。

とりいそぎ、的な記事でした。

登記済み

2012-04-29 08:55:48 | ちょっと一言
ええ、今朝、憲法の神様から啓示をうけとりました。。

いつか、『ゴキゲン憲法』というタイトルで
何か書きます。

もう登記しました。
このタイトルを勝手に使ってはいけません。
(ほっといても、使う人がいるか、という問題はあるが)

近藤六段に感謝です。

また、お心当たりのある憲法の神様の預言者の方、ありがとうございました。



急所第一問における処分審査

2012-04-25 10:17:13 | Q&A 急所演習編
今日は処分審査の使い方についてのご質問を紹介します。

ここからのお話は、基本的に防御権に限定されたお話です。
(郵便法の話も少ししますが)
ちょっと整理しときましょう。

<司法試験は二段階審査が原則らしい>

過去の司法試験の出題趣旨を見ていると
事案の検討は、二段階審査(法文違憲審査→処分審査)を想定しています。

ただ、二段階審査の一段階目は、書くまでもなく明らかな場合は、
いきなり処分審査をやってしまうことでもよいようですね。

この司法試験的いきなり処分審査は、言ってみれば
法文違憲審査を「暗算」で済ませて、いちいち途中式書かないようなもんです。


<判例は処分審査が原則>

他方、過去の最高裁判例は、
処分審査を原則としていますが(立川ビラ判決では、住居侵入全体の審査をしたりしない)、
次の二つの場合には、法令審査(法令の全体審査)をしています。

<最高裁の法令審査1>

法令審査をする場合の第一は、
その法令の想定されるもろもろの適用例の間で、
憲法判断に影響を与える要素がない、と判断できる場合。
(適用範囲が限定されている場合)

例えば、猿払上告審は、公務員の政治活動は、
どのような態様で行われても、同じ程度に悪質で、
現業非現業、勤務時間の内外を問わず、
憲法上同じように評価できる、と考えているので、法令全体審査をしています。
また、薬事法違憲判決も、このタイプの法令全体審査です。

この第一の法令審査は、問題の処分と他の適用例が大差がない場合の審査であり、
処分審査とやっていることは変わらないのです。
ただ単に、その処分を審査することと、その全適用例を審査することで
やることが変わらない、という場合の審査ですから。

<最高裁の法令審査2>

法令審査をする場合の第二は、
その事案の解決とは別に、
明確に適用範囲を示したいと考えた場合(徳島市公安条例でだ行進以外の事案を検討、など)ですね。


このタイプの法令審査というのは、
裁判所が、その事案とはなれて、実務にメッセージを発信したいときに使うものなので、
さしあたり、実務へのメッセージが要求されない司法試験では
あまり使われない(要求されない)審査方法だと言えそうです。

ではでは、次のご質問とあわせて、復習してみてください。



急所第1問について (satoimomoko)
2012-01-13 15:39:26
木村先生こんにちは。satoimomokoと申します。
急所第1問に関連して質問が2つあります。

質問1
急所69頁6行目「本件職務命令について処分審査をした上で、」の「処分審査」は、本ブログ記事「処分審査の概念(まとめ)」の処分審査1という意味だと理解しているのですが、この場合に審査している部分は、職務命令の根拠法たる地方公務員法32条(以下、地公法)のうち、当該職務命令を基礎付けている部分ということでしょうか。

質問2
急所31頁の「処分審査」と、33頁の「二段階審査」の使い分け方がよくわかりません。
急所第1問の場合は、地公法32条全体に疑義はないから、「処分審査」を使っているということなのでしょうか。

お時間ありましたらご回答よろしくお願いいたします。



>satoimomokoさま
質問1については、その通りです。

質問2ですが、
法令全体に疑義がない、とは、
その法令に合憲部分があることは明らか
(という法文違憲審査を即座にでき、またしたこと)
あるいは、
法令のその他の部分が、その事案との関連が薄く
そうした部分について疑義を検討する意義のない場合
ということになるでしょう。

処分審査は、こういう場合に行います。

ご回答ありがとうございました (satoimomoko)
2012-01-13 19:50:07
木村先生

早速のご回答ありがとうございました。とてもすっきりしました。
佐渡先生やたけるんさんの一連の記事と今回の先生のご回答で、処分審査についてやっと自分なりに理解できてきたような気がしています。

佐渡先生対策講座もとても楽しみです!

藤井システムについて

2012-04-21 18:04:38 | お便りコーナー
さて、次のようなお便りを頂きました。


憲法と将棋 (よいとく)
2012-04-18 00:30:36
はじめまして。1ヶ月後に試験を控え、もう一度急所を読み返している受験生です。少しずつ憲法の力がついてきたような気がしています。
素晴らしい本に出会えて良かったです。木村先生、ありがとうございます。

さて、お便りコーナーというのは、どんな話題でもよいのでしょうか?憲法学者であり、将棋ファンの木村先生にお聞きしてみたいことがあるのです。
(もちろん、ブログの読者の皆様にも!)

久保先生は「振り飛車党は南斗聖拳」と例えたそうですが、将棋の戦法や棋士を憲法学の解釈論や学者に例えてみるとどうなるのでしょう?
ちなみに、私は藤井猛九段のファンなので、やはり藤井システムがどう例えられるのかが特に気になります。居玉で攻めるという発想の転換や、その破壊力は、憲法学史におけるどのような議論に似ているのでしょうか…?
あと、何となくですが、羽生世代という響きと、憲法学における55年組の先生方というのはどことなく位置づけが似ているような気がします。将棋にも55年組というくくりはあるようですが、カリスマ的な意味では羽生世代に近いような?

と、なんだか考え出すと楽しくなってきたので、投稿させていただいた次第です。
受験1か月前に何を呑気かつミーハーな話題…と我ながら呆れてしまいますが、いかがでしょうか。


なかなかの難問です。

読者のほとんどは、藤井システムとは何か、
ご存じないと思うので、
ちょっと、説明します。

1 振り飛車とは何か?

将棋の戦法、戦い方というのは、
大きく分けて二つに分類されます。

居飛車と振り飛車というのが、その二つで、
棋士、将棋愛好家は、
主として居飛車を指す居飛車党員。
主として振り飛車を指す振り飛車党員。
選り好みなく何でも指す無所属(オールラウンダー)に分かれます。

居飛車党というのは、しばしば「王道」と言われまして、
トッププロに限ると、居飛車党員が多いです。
例えば、現在のA級棋士(名人挑戦権を争うトップリーグ所属棋士)
に限ると十人全員が居飛車党です。


ただ、振り飛車が優秀でないか、というと、
そんなことはなく、非常に合理的な面もあり、
アマチュアでは、振り飛車党は多く、
居飛車党の棋士が、振り飛車を指すケースも最近では多くあります。


2 藤井システムについて

さて、そんな振り飛車でありますが、
その昔、振り飛車戦法が消滅の危機にひんした時代がありました。

振り飛車戦法に対し、居飛車穴熊という戦法が開発され、
振り飛車の勝率がすごく悪くなったのです。

ここで、登場したのが藤井猛九段の開発した
藤井システムと言う戦法でした。

これは、居飛車穴熊の天敵で、
藤井九段は、居飛車穴熊を操るトップ棋士を次々と撃破し、
将棋界最高のタイトル竜王を獲得し、二期連続で防衛に成功します。


居飛車穴熊の陣形をとろうとすると、
陣形が完成するまでに、何回か隙が生まれます。

そこで、藤井システムは、自分の守備にエネルギーを割かず、
その隙が生じた段階で一気に攻め潰す、と言う趣旨の戦い方です。

とりわけ特徴的なのが、
「居玉は避けよ」という著名な将棋格言
(守備に手を回さずに戦いを始めると、すごく不利だよ、
 という趣旨の格言)に反し、
「居玉」で戦う点でした。


3 藤井システムの評価

現在では、藤井システムは研究が進みすぎ、
あまり指されることはありませんが、
将棋界に巨大な影響を与えました。

ところで、この戦法の位置づけについては、最近
興味深い指摘があります。

メジャーな戦法を指しこなすためには、
非常に多くの情報が要求されるため
情報交換のための研究会を頻繁に開催できる
東京や大阪に住んでいる棋士に有利である。

他方、地方在住の棋士は、情報量が不利に働かないよう、
独自の戦法を開発する傾向がある。

藤井システムは、その最たるものである。


以上をまとめると、
「これが憲法学界の藤井システムだ」というためには、
次の条件を充たす必要があります。

 条件1 ある戦法(振り飛車)の天敵(居飛車穴熊)が編み出されたときに
     逆襲のために生まれた戦法である。

 条件2 従来、一般的によくないと言われていた戦い方(居玉)を
     採用し、画期的な成果を上げた。

 条件3 メジャー戦法の情報合戦の外から生まれた戦い方である。


・・・。うーん、あまり思い浮かばないなあ。

低価値表現について

2012-04-21 18:03:32 | Q&A 憲法上の権利
うさくんさまから、低価値表現についてです。

Unknown (うさくん)
2012-01-13 09:47:08
はじめまして。
先生の著書を愛読させて頂いている一受験生でございます。
お忙しい中申し訳ございませんが、ひとつ質問をさせてください。


低価値表現を、そこから生じる害悪ゆえに保障の程度を低くする(ないし保護範囲から外す)という議論があります。
しかし、害悪が生じるということは権利の価値を低める理由にならないのではないか、と疑問に思っています。

たとえば、差別的表現は、対象となった者の名誉感情等を害します。
このような事情は、対抗価値に配慮すべきことを示すのみで、権利の価値が低いことは示さないのではないでしょうか?

仮に、権利の価値が低いことを示すのであれば、
規制の必要性はあるが価値の高い表現(たとえば、騒音を生じさせる街頭演説)との区別基準は何なのでしょうか?


>うさくんさま
そうですね。低価値表現というのは、
例えば性欲を興奮させる以外の意味を持たないハードコアポルノ
のようなものをいっていて、
そこに盛り込まれた情報が少ない、ないしその価値が低い
ということだと思います。

なので、対抗価値が高くなる傾向のある情報を流通させる行為は
表現行為には、ならないでしょう。


Unknown (うさくん)
2012-01-13 23:08:11
お忙しい中回答ありがとうございます。
低価値表現について腑に落ちました!

先生のブログを読むと目から鱗が落ちてばかりです。
これからも楽しく読ませて頂きます!