木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

第四問 明確性と合憲限定解釈

2011-08-30 15:32:37 | Q&A 急所演習編
HKさまより、『急所』第四問妄想族追放条例について、
次のようなご質問を頂きました。

例によって、まだ解いてないよ。読みたくないよ。
という方は、解いてから読んでください。






 ①税関検査で示された要件(解釈内容の明確性、解釈の容易性)が、
 「合憲限定解釈の一種」(『憲法の急所』p161)の要件なのか、合憲限定解釈一般の要件なのか

 ②「合憲限定解釈の一種」と合憲限定解釈の間にどのような関係があるのか

 の二点で混乱しています。
 再び漠然とした質問で申し訳ありませんが、ぜひご回答よろしくお願いします。



どうもありがとうございます。

ええとですね、急所161頁の趣旨は、こげなものです。


まず、
関税法「風俗を害する書籍」とか、道交法「交通秩序」とか、
そうした、問題の行為との関係で、直知可能なほど明確でない法文というのは、
ふつうは、問題の行為との関係で、

 解釈A ①直知可能なほど明確な定式を示す②容易な解釈
      (「風俗を害する書籍」とは、わいせつ物を言う。
        判例はこの解釈、明確で容易だとする。)

 解釈B ①直知可能なほど明確な定式を示してはいるが、②容易でない解釈をすることも、
      (「風俗を害する書籍」とは、春という単語が三回以上登場する書物をいう。
        明確な定式だが、そんな解釈は一般人には理解不能。)

 解釈C ①直知可能なほど明確でない定式を示す解釈
      (「風俗を害する書籍」とは、モケケピロピロをすることをいう。
       示している定式自体、全く意味不明。)

     など、様々な解釈をすることができる条文です。
     
この場合、解釈Bや解釈Cをすると、不明確な法文により処罰されない権利の侵害になるので、
不明確な法文により処罰されない権利を侵害しないような、合憲限定解釈すると、
解釈Aが採用される、ということになるでしょう。


また、問題の法文が
解釈Aのような①②を充たす解釈ができない法文だった場合には、
その法文の適用を受けることが明確な行為との関係で有効、
その他の行為との関係では無効と処理します。

例えば、「土足厳禁」という規定については、
「外履き」で入ることがアウトなのは、
解釈しなくても、あるいは、「土足」を明らかに汚れた靴ないし足で、
と解釈すれば分かる。

しかし、埃のついた裸足で入ることは、アウトかどうかよくわからないし、
   「土足」を他の言葉で言い換えるのは難しい(とする)。
また、「土足」を外履きに限定する解釈もムリ(だとする)。

この場合には、「外履き」に適用される部分を除き無効と処理。


そして、およそありとあらゆる行為との関係で不明確な
「レムカカタプモケを禁ず」などの法文は、法文全体が違憲。

こんな感じになります^-^/。



PS
HKさまより、ご質問の続き。

 ところで話が変わるのですが、
 ブログや急所を拝見して、木村先生のお考えは
 高橋先生の「適用上判断」をさらに深化させたものなのかなと感じました。
 具体的に言うと、実体判断を通じて憲法上保護された事実を画定した上で
 違憲範囲を画定する点に「適用上判断」に通ずるものがあると思いました。
 その上で法令の具体的処理方法について明示されている点で、
 木村先生の考えはさらに「深化」していると感じました。
 (もしこの考えが木村先生のお考えと相違していたらご指摘お願いします。)


どうもありがとうございます。
そのように評価して頂きうれしいです。

私は、憲法判断の方法に関する学説について、
基本的に芦部先生や高橋先生の見解を誤りと断じ、
新説を述べる、というつもりで、書いてはおりませんで、
両先生の発展された学説のあいまいな部分を整理し、
概念を明確にした改良型を提出したいという気持ちで書いております。

なので、おっしゃる通りに評価していただけますこと、とてもうれしいです。

第7問について

2011-08-30 15:02:30 | Q&A 急所演習編
『急所』第7問について、ご質問いただきました。

まだ解いてないよぉ!という方は、 この記事、
あとまわしにしてください。






 第7問の育児手当の設問についてですが、
 p.263に木村先生が不合理な区別を解消するいくつかの選択肢を検討する中で、
 「制度自体の遡及的廃止によって区別の合理性を解消する選択は合憲的ではない」
 と述べたものと解すべきであろう、との記述がございます。

 制度自体を遡及的廃止にすると、他の者の財産権を侵害し、
 かえって違憲となるという趣旨で書かれているものと思いますが、
 これは第三者にも違憲の効力が及ぶこと及びその効力が遡及することを
 前提としている考え方だと思います。

 そこで、付随的違憲審査のもとで違憲無効となった場合には、
 訴訟の当事者だけでなく第三者にも違憲の効果が及ぶのであるか、
 また、その効果はそもそも遡及するのか、という疑問を持ちました。


ご連絡、ありがとうございます。
ご疑問ごもっともと思いますので、お答えいたします。

平等権については、よくわかっていないところが多く、
保障の根拠、保障内容、審査基準など、ほとんどあらゆるパーツで、
ややこしい、そして極めて技術的な論点がわんさかあります。

その膨大な技術的論点に挑戦するのが、平等権研究の醍醐味だと思っています。
(木村一基永世解説名人も、
 「矢倉については、膨大な優劣不明の変化がある。
  それに挑戦するのが矢倉を指す醍醐味だ。
  矢倉研究は、
  憲法学で言うと平等権研究に相当する。」
 と述べておられました。最後の二行は嘘です。)

・・・さて、無駄話はこの辺にして、

平等権は、日本の通説的枠組みによれば、
「区別されない権利」であり、
当人の状況は同じ(例、国籍もらえない)でも、
「他人がどう扱われているか?」によって、
侵害の有無が変わる、とても珍しい権利だということになります。

この他人がどう扱われているかによって、侵害の有無が変わるという点は、
他の権利については、全く考えられないことであり、
自由権であれば、他の人がどうあれ、その人を自由にすれば権利実現、
生存権などの請求権も、やはり他人がどうあれ、その人の請求に対応すれば権利実現。

しかし、平等権を実現するには、
その人に対する扱いをいじるか、別の人に対する扱いをいじるか、
という二つの方法があります。

もう少しいうと、平等権というのは、

 <(もし私に・・・くれないなら)他の人を・・・と扱え> と要求できる権利であり、

 原告の<(略)他の人を・・・と扱え>という権利を実現するために、

 他の人の扱いをいじることは、違憲判決の第三者への効力云々の問題ではなく、

 単なる原告の権利実現だということになります。

 但し、もちろん他人の扱いをいじる場合には、その人への権利や手続の保障も考えなくてはならず、

 訴訟の場で採れる原告救済策には限りがある。

このような論理になります。


そして、この論理は、違憲判決の相対効説と矛盾しません。

平等権に基づく請求を認容する違憲判決も、
もちろん当事者に対する関係でしか効力を持たないのですが、
その肝心の当事者の権利を実現するためには、
第三者にちょっかいを出さざるを得ない、というような感じになります。

うーんと、事例はちょっと違いますが、
 XがYに対し、第三者Aのためにする契約の履行を求める事例
(XはYに対し、第三者Aに・・・することを求める権利を持っている事例)
 とよく似た構造になると思います。

 この場合、YがXに対する債務を履行しているかどうかは、
 YがAに対し何をしているかを画定しないと判断できないし、
 弁済の抗弁を出すには、Aに対し・・・をする必要がある。
 裁判所も、Yに対し「Aに・・・しろ」と命令を出せる。
 但し、この訴訟の既判力は、あくまでX・Yにしか及ばない。

 (例を出して、よりわかりにくくなってないとよいが・・・?)

なので、平等権に関する訴訟の中で、
第三者に対する取扱いをうんぬんしているのは、
違憲判決の効力の問題ではなく、
あくまで、平等権というケッタイな権利の内容の問題だとご理解ください。

こんな感じでどうでしょうか?

チーズバーガー(3・完)

2011-08-29 16:15:42 | 憲法学 判例評釈
トミナガのクラスの議論は、紛糾していた。

そこに、思わぬ解釈が提出されることになる。

実行委員からの通知は二通。

「チーズ入りハンバーガー」の自粛要請。
「チーズバーガー」の実施要請。

よく見ると、前者の自粛要請については
衛生的理由からの乳製品禁止、という経緯はあるものの
趣旨・目的は明示されていない。

このため、自粛要請には解釈の余地があった。

トミナガのクラスには、
ヤマグチ(仮名・17歳当時)という若者がおり、
この若者は、日々屁理屈を述べ、
それを非難されると「屁理屈も理屈のうち」と返答。

クラスメイトを非難(「お前嫌われてるぞ」と攻撃)しているとき、
周囲から非難(「お前だって嫌われてるぞ」と非難)されると、
平然と反論 (「俺が嫌われていることと、あいつが嫌われていることは矛盾しない。
        よって、今の発言は、論点をずらしているだけである。」)。

このような、まぁ、端的にいって、普段は話をしたくない人物だったが、
その日は違った。

ヤマグチの解釈は、まさに、通達をそのまま読む、というものだった。

すなわち

「チーズ入りハンバーガー」をメニューに加えることはできないが、
「チーズバーガー」は加えてよい。
実行委員の通達は、全く同じ内容のメニューが、
別の名前で同時に提供されることの不合理を回避せよ、という趣旨のものだ。

これがヤマグチの理解である。

(もっとも、そもそもチーズバーガーに加え、
 チーズ入りバーガーをわざわざ用意しようとする人間がいるか、不明だが)

確かに、同じメニューが別の名前で同時提供されると、ややこしいことこの上ない。

そういえば、私の学食では、
月見うどんとは別に、うどん+たまごトッピングというメニューがあり、
しかも、前者よりも後者の方が値段が・・・。

(ふむ。チーズバーガーではないが、
 同じ内容のものが、別の名前で提供される事態は、珍しくないかもしれない)

・・・この話は長くなるのでやめよう。

とにかく、これで無事、トミナガのクラスは学園祭を迎えることができた。


さて、話を森林法に向けると、恐らく、最高裁がいいたかったのも
そういうことだったのではあるまいか。

分割できない共有の形態として、既に法は、会社法(当時は商法)という
洗練されたメニューを用意している。

そこに、分割請求権禁止の共有なる良くわからないメニューを加える必要はない。

(どうやら、日本の立法者もうどん屋と志を共有しているらしい)


仮に、森林を安定的に共有させたいなら、
分割できない共有ではなく、
会社の設立を強制すればよい。


これが森林法判決の、あまり明示的には言われていない、
というか、判決に内在はしていたが、ほとんどの人が目をそらしてきたメッセージなのではなかろうか。

棋譜並べ

2011-08-28 21:27:38 | 将棋
よく、

「憲法が苦手なのですが、
 どんな勉強すればいいですか?」

と聞かれます。

もちろん、
講義きいて、基本書よんで、
紹介された論文よんで、
過去問といて、答案例みて、と答えるのですが、まぁ、当たり前ですよね・・・。

私が、憲法に苦手意識のある初学者の方にお勧めなのは、
答案例の書き写しです。

司法試験過去問の優秀答案例でも、
学者の方が法学セミナー増刊で書いている答案例でもよいのですが、
それを答案用紙に、一回手書きで写経してみる、という感じですね。

(別に何度もやる必要はないですが)

ただ読むだけだと、頭にはいっているようで、実は入ってきてない
ということ、よくあるように思います。

自分の手で書いてみると、一度よんだことのある答案例でも、
ああ、こういうことか、という発見があったりして、勉強になります。

私も、昔、入門者の頃、写経してみたのですが、
そこで、論証の構造やコツというのがつかめた気がいたしました。


将棋の世界でも、強くなる勉強法の一つに、
棋譜並べというのがありまして、
これは、プロの棋譜を、実際に盤にならべて、駒をうごかすということです。

本で図と棋譜をおってくだけだと、
あるいは、インターネットで駒の動きをみるだけだと、
棋譜というのは、はいっているようで、はいってきていない。
やはり、盤に向かって並べるのが一番。

というのはよく聞く話です。

もちろん、答案書きなれた(論証例をみれば構造がつかめる)
中級者以上の方は、必要ないでしょうが、
初級者の方には、答案写経、おすすめです。

適用違憲に関する芦部三類型の分析

2011-08-25 14:02:17 | Q&A 憲法判断の方法
Jiro様より、以下のご質問を頂きました。

芦辺先生の適用違憲の3類型

①合憲限定解釈が不可能である場合に法令を当該事件に適用するのは違憲である事例
②合憲限定解釈が可能であるにもかかわらず、法令の執行者が違憲的に適用したその適用行為が違憲である事例
③法令そのものは合憲でも、その執行者が人権を侵害するようなかたちで解釈適用した場合に、その解釈適用が違憲である事例

について、①の場合は、先生がブログでご指摘されている事例ですので、違憲の要素を抽出した上で一部違憲、
場合によっては法文違憲の処理をし事例に適用する。

②の場合は、法令を合憲限定解釈した上で、その法令を事例に適用し違法や無罪の処理をする(わざわざ違憲と言う必要はない)。

③の場合は、違憲審査が終了した無傷な法令を事例に適用し違法や無罪の処理をする(わざわざ違憲と言う必要はない)。

この理解でよろしいでしょうか?②と③が不安です…。



 ご質問、ありがとうございます。
 まず、①はその通りです。

1 ②合憲限定解釈について

 次に②です。合憲限定解釈の処理とは、ごくごく厳密にいうと

 法令の持っている意味うち
 「この処分をしてもよいし、しなくてもよい」という部分を無効にする
 部分無効の処理です。

 (そういう意味では、法令の部分無効の一類型であり、
  一部違憲と厳密には区別する必要はない、だといってよく、
  また、
  「わざわざ違憲」という必要はないですが、
  いいたければ、
  「この法令のこの処分を基礎づけ得る部分は違憲」とかと言ってもよいです。)

 (ちなみに、
  「この法令のこの処分を基礎づけている部分は違憲」が、私の言う部分違憲ですね。)


 このため、合憲限定解釈は、
 してもしなくてもいい解釈ではなく、しなくてはいけない解釈であり、
 わざわざ限定しない解釈をすれば、それは法令の解釈の限界を超える解釈になる、
 とお考えください。

 このため、②の場合には、おっしゃる通りの処理で構いません。

 芦部先生は、部分無効の概念を「適用違憲」という言葉で表現されており、
 合憲限定解釈は厳密には部分無効の例なので、
 芦部体系の中で、②の事例が「適用違憲=部分無効」の中に置かれるのは、
 まさに、体系的思考の帰結と、いうわけです。

2 ③法令そのものは合憲でも・・・。

 そして、③です。

 例えば、それ自体は合憲である住居侵入罪を、
     特定の表現を弾圧するために差別的な形で適用した
     なんて、ケース(立川ビラ事案を悪化させたようなケース)が想定されます。


 「法令は合憲」というのは、
 要するに、法文違憲ではない=合憲的適用例が一つ以上あることが明らか、ということです。

 それが違憲的に適用されたら・・・というのが、③の事例。

 こういう事例では、そうした適用の仕方が、
 法令の文言に反しているなら、おっしゃる通り違法と処理します。

 しかし、法令の文言がそうした適用を排除するようなものでない場合、
 例えば、上の事案で問題の刑法130条の文言には、差別的に適用してはいけないという文言はありません。

 こういう場合は、合憲限定解釈か一部違憲の処理をするしかない、ということになります。

 要するに、③のケースは①のケースと大差ないのですが、

 ①は、
 第三者所有物の例のように、
 その事案で処分をしなければならないことが明らかな文言であるため、
 合憲限定解釈をすべきかどうかを検討する必要のないケース。

 ③は、
 立川ビラ事件のように、
 処分をしないように法令を解釈できるかどうかが不明で、
 合憲限定解釈をすべきか、一部無効にすべきかを、検討する必要のあるケース。

 と、こういうことになるはずです。

うーん、しっくりこないなぁ、ということ
ありましたらお知らせください。