木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

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中盤戦の戦い方(1)

2012-02-06 07:23:29 | 憲法学 憲法判断の方法
昨月の連載には、非常に多くの方からコメントを頂きました。

その中で、司法試験受験生の方々、あるいは合格者の方々ですら、
憲法が問題になる事案での論証の仕方に苦労されている、
と言うことが分かりました。

そうした事態は、
まず、
法令審査・処分審査とか、
違憲審査基準と比較考量といった
技術的な枠組みが分かりにくいということに起因すると思いますが、
これは、よく筋の通った説明をみてみれば、、
それほど難しいものではないわけです。

ただ、こうした技術的枠組みが理解できた、
というのは、
将棋で言うと序盤の定跡を覚え、
矢倉囲いや美濃囲いが組めるようになった
という段階であり、
必ずしもそれだけで勝てるようになるわけではないわけです。

序盤の定跡を覚えたら、次は
中盤の戦い方でありますが、この練習が難しいわけです。

 *ちなみに将棋では、この段階では「次の一手」問題集で勉強をします。


そこで、私が提案します練習方法をちょっと紹介してみようかと。
あ、今からお話するのは、
防御権ないし防御権類似の論証が可能な場面の練習に限られますので、
ご注意を。


さてさて、防御権の事案で求められているのは、
要するに、制約を認定し、
その制約が次の四つの正当化要件を充足するか、を検討する、ということです。

①目的の正統性
②目的と手段の関連性
③手段としての必要性(LRA不在)
④手段としての相当性(利害均衡)

この四つの要件と違憲審査基準との関係は、
『急所』を読んでいただければと思います。

いかなる防御権のいかなる態様の制約であっても、
この四つの要件を充足しないと正当化はできません。

さて、防御権の事案の中盤戦というのは、
典型的適用例で参照できる事実や(法令審査)
その問題の事案に含まれる事実から(処分審査)、
原告の側から、①から④を否定する事情をひろってくる、
被告の側から、①から④を肯定するのに使える事情をひろってくる、
という作業になります。

ここで、
①から④のどれとの関連で述べているのか明らかにせずに
ただ、「なんとなく原告・被告に有利そうな事情」を指摘するだけ、の論証をされる方がとても多いわけです。

しかし、法的要件と結びつかない論証は、
法的論証においては、無意味です


問題文や、あるいは実際の事件の各種事情を
憲法上の要件論にあてはめる能力を伸ばしていかないと、
なかなかしっかりした論証ができないわけですね。


さて、そこで、ちょっと一例をば。

猿払事件の事案で、被告人が「現業」の公務員だったという事情がありました。

一審は、これが憲法判断の重要な要素となる事情だと考えているようですが、
これは、①から④のどれかを否定する事情として使えるのでしょうか?

それとも、上告審が言うように、①から④を否定する事情にはならないのでしょうか?


少し考えて見て下さい。
(このような、次の一手クイズを、自分で判例集の「事案」みながら考えると、
 めきめき力が付いてきます)