木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

インタビューを受けました。

2012-02-14 15:40:57 | お知らせ
ええ、さて、唐突で恐縮ですが、ご紹介をば。

星海社さん、という出版社があります。

星海社さんは、
「20代・30代――ジセダイのための教養」という
コンセプトで新書を出版されていて、
書店でも、かなり話題になっております。


ええ、星海社新書の最新刊は、とチェックをしてみると

 『欲情の文法』。

 官能小説界の巨匠 睦月影郎先生が
 そのノウハウと哲学を一挙公開!!


……。

ちょっと、刺激の強いスタートではありますが、

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』
『世界一退屈な授業』
『面接ではウソをつけ』
『「やめること」からはじめなさい』

と、面白そうなタイトルが並びます。
アマゾンをチェックしますと、ビジネス系の新書として
ものすごく売れています。


私の専攻から興味深いのはこれですね。

安田峰俊先生の『独裁者の教養』

 悪の親玉としてイメージされがちな「独裁者」たちは、
 若い頃にいかなる知識や価値観、思想などの「教養」を
 得て、それをどう国家支配に反映させたのか、
 それらを考察したのがこの本だ。

 ……筆者は、
 独裁者がいる社会を等身大で体験するため、
 中国雲南省奥地の「秘境」に足を踏み入れた。


ぜひ、みなさまもご一読を。



さて、なぜ星海社さんか、といいますと、
星海社さんは、「ジセダイ」というwebページを開設されておりまして、
その中で、「ザ・ジセダイ教官」というコーナーがあります。
(本日更新されました)

これは、ジセダイ編集部のみなさんの若い世代の研究者へのインタビューを通して、
各専攻の学問分野の面白さを紹介する、というコーナーでございます。

そして、その第一回が、私の回ということでございまして、
ご紹介させて頂いた次第です。


編集部のみなさん、知的好奇心に溢れた方々で、
まじめにお話しを聞いて下さり、楽しいインタビューでした。

ええと、自分で読み直してみますと、
中学の頃から司法試験を受けようとして、
計画的に勉強していたのだが、
その割に、大学入学後、司法試験の勉強がつまらないという
しょうもない理由で、あっさりと研究者志望に転身してしまった、
と、実話ですが、我ながら、良くわからんキャラクターです。

そうそう、スクリーンショットには、
ブログに紹介した動物カレンダーのお尻の部分が!!!!!


……。

とまあ、初回登場の憲法学者の先生は、ちょっと変なキャラクターですが、
今後、各分野の若きエキスパートが連なり
大変興味深いシリーズになって行くと伺っております。
(私も、各分野の若い先生のお話しがきけるというのは、すごく楽しみです)

というわけで、
ぜひ、「ザ・ジセダイ教官」コーナー、覚えて頂ければ幸いです。


中盤戦の戦い方(4)

2012-02-14 12:15:37 | 憲法学 憲法判断の方法
前回の問題は、次のようなものでした。

Q 次のような、検察側標準答案についてどう思いますか?
 検察側標準答案
 ①郵便局員にも、いろいろと行政の中立性に反する業務の遂行の仕方がある。
 ②国民は、
  「政治活動をする公務員は、政治的信条に従い業務のやり方を変える」
  と認識している。
 よって、現業公務員の政治活動の規制は、中立性信頼確保に役立つ。

 解答A ①がおかしい。
 解答B ②がおかしい。
 解答C ①も②もおかしくない(検察側の反論が正しい)


さて、この問に対する解答のほとんどは、
「政治活動をする」=「政治的信条を優先させた違法な業務遂行をする」
という②の想定は、短絡的で、そんなこと誰も思っていないから、
解答Bというものでした。

 monaさん、K.sさん、ブラウヴァルトさま、YSさま、ゆんゆんさま
 都尾利 寿雅琉さま、gsskさま、めがふぉにっくさま、冥王星さま
 どうもありがとうございました。

まあ、確かに、②のような主張を見てみますと、

「いやいや、休みの日の活動は休みの日の活動、仕事は仕事、でしょう。
 だいたい、あんた、近所の八百屋さんがSPDのポスター貼ってるとこ見て、
 『ヤバ!アタシ、キリスト教民主同盟党員だから、もう
  アタシにキャベツ売ってくれないかも!』
 (キャベツ不買=政治的中立性に反する八百屋さんの業務遂行例)
  って思うんですか?」

とツッコミの一つも入れたくなるものです。




・・・というわけで、話を私なりに整理してみたいと思います。


1 目的Aと立法事実Aからの分析

 あの事件で問題になるのは、まず、

 「政治活動をする者は、業務に自分の政治的信条を持ち込み不正をする」
 という事実(猿払立法事実A)があるか?

 という点です。

 もし、この猿払立法事実Aがあると言えるなら、
 政治活動の防止は、
 公務の政治的中立性(目的A)の実現に役立つ(関連性がある)といえます。

 しかし、さすがに、このような事実がある、と言い切るのは難しいでしょう。
 だから、目的は政治的中立性の維持だ(目的A)、というだけでは、
 あの規制を正当化しきれないのです。


2 目的Bと立法事実Bからの分析

 そういうわけで、判例は「中立性への信頼」という目的(目的B)からも
 検討を加えるわけですね。

 さて、そうすると、この事件のキモの中のキモは、これです。

 「『政治活動をする者は、
   業務に自分の政治的信条を持ち込み不正をする』
   と多くの国民が考えている」
 という事実(猿払立法事実B)があるか?


 これが、あると言えるなら、
 規制は、少なくとも「中立性への信頼」に役立つ、と言えそうです。

 猿払事件における、最大の争点は、この立法事実Bの有無なのです。


 そして、立法事実Bがあるとは思えない、というのが、
 上記のみなさんの解答でした。
 これは、十分な説得力のある解答と思います。
 そして、これがなければ、
 政治活動の禁止全体が目的達成に役立たないものになるので
 法令違憲の結論になります。

 ただし、法学男子さん、いまどき喫煙者さんがお気づきのように、
 単純に否定しきれるか、というと
 これは、国民の「頭の中」の問題であるだけに、微妙な点を含んでいます。
 (そういうわけで、微妙な点を踏まえて
  ゆんゆんさんのように、そもそも違憲の推定が働く場面だから
  という形で、実質的関連性がない、と処理するのも一計です。)

 そして、猿払上告審判決は、立法事実Bがあると認定しました。

 もし、この認定を前提にすると、
 現業公務員にも、政治的中立性に反する業務遂行の仕方は色々ある以上、
 (この点は、解答A(①がおかしい説)を採用された方が
  ほとんど居なかった点からも分かるように、
  多くの人の同意を得られそうです。)
 合憲の結論まで、ほぼ一直線です。 

 従って、違憲説・合憲説の攻防の焦点、この事件の急所は、
 立法事実Bの有無だ、ということになるでしょう。

 この点については、後の記事で書きたいと思います。
 さしあたり猿払事件の焦点がここにある、ということを理解しておいてください。


3 現業性とは?

では、このシリーズで問題とした「現業性」を
どう評価すべきなのでしょうか?

ここまでの検討から
「現業公務員は、政治的中立性に反する業務遂行ができない」(主張①)
ということはできない、ことは分かりました。

そうすると、
立法事実Bがあるなら、現業公務員の活動でも信頼を害するし、
立法事実Bがないなら、現業非現業問わず信頼を害しない、ので、
現業性によって区別して検討する必要はない、ということになりそうです。
(これが猿払上告審の立場ですね)


ただし、弁護側の立場から、

「政治活動をする人は、不当な業務をしやすい
 (あるいはそう国民が思っている)との
 立法事実A・Bがあるとしても、」

 として

「裁量の狭い公務員が、政治的中立性に反する業務をした場合、
 そのことは認定・発覚しやすいので、
 そういう公務員については、
 事後規制で不当な業務を十分防止できるし、
 国民の信頼確保も図れる。」(主張②)

という必要性を否定する事情として主張する、ということは言えそうです。
(これは、しがないさんやゆんゆんさんが考えていた方向ですね。)

主張①と主張②の微妙な、しかし決定的な違いに注意してください。

次回は、中盤戦の戦い方をもう少し一般的に議論して、まとめたいと思います。



PS おまけ

というわけで、猿払シリーズのまとめでした。
最後に少しおまけなど。

例の採点実感先生の発言について、

 原告の主張を展開すべき場面(設問1)においては、
 違憲審査基準を出すこと自体禁止しているように見える。

 そして、設問1では、
 権利の保護範囲と制約の存在だけを論じれば良く、
 違憲審査基準やそれに対するあてはめ、対立利益の考慮などは
 全くしなくていいのではないか?

という趣旨のコメントを幾つか頂きました。

中盤戦の戦い方シリーズは、実は、このコメントに
少し丁寧に答えようという意識もありました。

上記のような理解・答案構成が、なぜ、マズいかというと、
猿払事件のような問題が出たとき、
ここまで書いてきたような中盤のねじり合いが、設問1には全く登場しなくなり、
設問1の論証が、次のようなものになってしまうのです。

「政治活動は表現行為であり、憲法21条により保護されている。
 本件規制は、その行為を刑罰により規制するものである。
 よって、国家公務員法は憲法21条に違反する。以上。」

・・・。
ほとんど設問1というものを置いた意義がなくなってしまいます。

というわけで、私は、採点実感先生の御発言を、
設問1=制約の存在だけを主張すればよい、と解釈する見解については
まあ、「そんな手は、ありえないでしょう」(渡辺竜王風)という立場を採っているわけです。