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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

続・第三者の主張適格をはじめます

2013-03-31 21:37:07 | Q&A 憲法判断の方法
最近、第三者の主張適格について、ご質問を受けることが多いので、
まとめていこうと思います。

この問題について、まず、原則を確認しましょう。

この問題の大原則は、
Aの権利を侵害する処分は、Aとの関係で違憲の評価を受けるのであり、
Bとの関係では、違憲ではない、ということです。

たとえば、
ツツミ君の経営するラーメン屋さんへの営業停止命令は、
不当な事実認定に基づくものでも、
常連客タケオカ先生との関係では違憲にならない、のが原則です。

なので、行政訴訟法的には、タケオカ先生には原告適格がなく、
憲法論的には、そうした行政訴訟法制も違憲でない、とこうなるわけです。

この原則を踏まえ、従来、「第三者の主張適格」と呼ばれてきた問題を
三つの場面に分けて説明していきましょう。

                つづく

続・第三者の主張適格(2) まず三つの場面を分けよう

2013-03-31 21:37:07 | Q&A 憲法判断の方法
第三者の権利侵害は、当人との関係では違憲になりません。

この原則を踏まえ、従来、「第三者の主張適格」と呼ばれてきた問題を
三つの場面に分けて説明していきましょう、という始まりでした。

さて、第三者の主張適格という言葉は、次の三つの場面で使われているようです。

その1 過度広汎性・明確性問題
 法文が過度広範ないし不明確な場合、
 規制されてもしょうがない行為をやったけしからん奴Yが、
 萎縮効果を防ぐという目的で、第三者の権利侵害を主張し、
 自らも規制を逃れようとする。

その2 第三者にある種の取り扱いをすること、しないこと、が
 当人の権利侵害になる問題
  政府批判をしたAさんを弾圧するため、Aさんの親族に刑罰を科す。

その3 自分の権利を保障すると、第三者の利益になるから
 その権利の保障の程度は高い、と主張する問題
  国民の知る権利への奉仕を理由に、メディアの権利の保障の程度が高くなる。

さて、このブログの読者の方には、もうお分かりと思いますが、
この3つの場面のうち、「本当に第三者の権利を主張している」場面はどれでしょう。
四択っす。

 A その1
 B その2
 C その3
 D ぜんぶ自分の権利を主張している


得られる利益と立法目的

2013-01-16 17:03:14 | Q&A 憲法判断の方法
Fさまからご質問いただきました。

「目的」と「得られる利益」 (F)

はじめまして、学部生のFと申します。
『急所』の明快な論理とユーモラスな具体例に、いつも心躍らせております。

さて、比例原則でいう目的の正当性の「目的」と、
狭義の比例性の「得られる利益」は同じですか?それとも異なりますか?

私はこれまで、「目的」とは「都市の美観風致」や「国民経済の発展」など
抽象的な目標をさし、「得られる利益」とは「歌舞伎町において
ビラ貼りを禁止することによって歌舞伎町からビラがなくなり、
その結果これだけ綺麗になった」など具体的な結果をさすから、
両者は全くことなると考えていました。

ところが、『急所』p16では、厳格審査では「目的の正当性」審査は
「狭義の比例性」審査に吸収され、「目的の重要性」という基準を満たせばよい、
とあります。上述の私の理解のとおりであれば、
抽象的な目的が人権の価値を上回っていても、
狭義の比例性を満たさないことがありうるはずです
(例えば、抽象的な美観風致が10000ポイント、
営利的表現の自由が5000ポイントとして、
歌舞伎町のビラをなくしても1000ポイントぐらいしか綺麗にならないとするなら、
目的は重要だが得られる利益は失われる利益よりも少ないはずです)。

従いまして、「目的の正当性+狭義の比例性→目的の重要性」という定式が
成り立つのは、「目的」と「得られる利益」が
まったく同一概念だからではないかと考えるようになりました。

しかし、目的審査で「歌舞伎町を1000ポイント綺麗にすることは~」などと
具体的に論じているものは見たことがありませんし、
狭義の比例性審査で「美観風致という利益は~」と論じては
利益衡量があまりにアバウトになると思われます。

このような引っ掛かりを覚えるのは、
私がどこかで概念的な誤解をしているためだと思われ恐縮なのですが、
宜しければご教授願います。



確かにおっしゃる問題は、かなりテクニカルで難しいです。


まず、最初のポイントですが、
狭義の比例性に言う
「得られる利益」は、
「立法目的」と同義とされ、

比例原則の天秤にのっけて良いのは、
立法目的として構成できるものに限られ、

付随的・偶然的利益は参入してはならないとされます。

例えば、この窃盗犯は、未解決の殺人事件の真犯人なので
こいつを処罰すると、殺人罪の処罰にもなる、というようなことを
比例原則で「得られる利益」にカウントしてはならないのです。
(あくまで窃盗としての重大性が問題になる)

次に、歌舞伎町の事例ですが、
違憲審査の枠組みでは、
①「町を1000ポイントきれいにする」という目的と
②「町を10000ポイントきれいにする」という目的は
異質な目的だと評価されます。
(追及程度が違うと、違う目的審査になる)

この場合、まず、
この規制が②目的だとしたら、確かに
京都の伝統的風致地区の規制とは関連性があるが、
歌舞伎町の規制については関連性がなく、
他方、①目的だとしたら、歌舞伎町の規制とも関連性があるが、
こちらはさほど重要な目的とは言い難いと評価する、
といった感じになります。

このように、追及程度が違うと異質な目的となる
というのが違憲審査基準論での重要なテクニックです。

このあたりは昨年、司法試験の問題を素材にみっちり書いたとこなので、
昨年1月の記事をごらんになってみてください。

明確性と過度広範性

2012-07-15 09:25:23 | Q&A 憲法判断の方法
前回の問題です。


「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」

という刑罰法規は、

1 不明確・漠然性ゆえに無効
2 過度の広汎性故に無効
3 合憲限定解釈が可能

のいずれでしょう?

理由も付して、ご回答いただけると幸いです。



解答1
ヒデヨシの野望さま
はいどろさま

解答2
あとうさん


解答2と3の両方
せんぷうき様
太宰さま

うーん、分かれましたね。

この「悪いこと」と言う文言ですが、
はいどろ様のように
三人集会条例のような「一応明確」な条文とも言えない、
と考えるのか、
せんぷうき様のように
一応意味はとれた、と考えるか、
ここが微妙なところです。

まず、一般論としては、はいどろ様のように
不明確故に無効(解答1)と考える人が多いと思います。


ただ、この一年、いろいろこの問題を考えてきて
どうも、不明確故に無効の法理には
いろいろ不明確なものがあるような気がしてきました。


横山さんさんの解釈というのは、

①言語(日本法の場合、日本語)として意味がなさない場合が
 不明確故に無効。

②言語として意味をなす場合に、
 適用対象が広すぎて、明確な限定解釈ができない場合が
 過度広汎。

このように分けてみてはどうか?という提案かと思います。
これはとてもクリアですね。


法文が不明確だ、と言う主張がされるのは
「悪いこと」、「公衆に恐怖を与える」
「風俗を害する」といった文言の場合です。

これらがなぜ不明確だ、と主張されるかというと、
「悪いこと」「恐怖」「風俗」には
いろいろな種類があり、この条文では
どの「悪いこと、恐怖、風俗」を対象としているのか
読みとれない、からだ、とされます。


ただ、このいろいろ種類があるから不明確という理屈は
「悪いこと」や「恐怖」というものが
どういうものなのか、は一応分かっていて(日本語としては意味が通っていて)
公権力の側としては
「いやいや、特定のではなく、全ての悪いことです」と言えば
この主張には、反論できてしまいます!

ただ、そういう意味なら過度広汎ですね。

なので、
①日本語として意味が通らない=不明確
②適用対象が広すぎ明確な限定解釈ができない=過度広汎
という理解は、実は筋が通っていると思います。



ただ、「悪いこと」や「風俗」については、
そもそも日本語として意味が分からない、
日常用語としては使われているが、
=法律言語として使用可能なほどの限定された意味がない
という主張もできるように思われます。

それで、この問題は1と2に分かれるということなのかな
ということでいかがでしょう?

従来言われていたのは、
①モケケピロピロ級条文=日常用語としても意味不明
②悪いこと級条文=日常用語としては使われているが
        法律言語として使用できるほど
        意味内容が限定されていない
③三人集会級条文=法律言語として使用可能でも
        過度広汎すぎる
という三分類です。

①と②が不明確、③が過度広汎の管轄でした。
ただ、②という領域がないのではないか、
という考えは十分にあるのかな、と言う気がします。


こんな感じでいかがでしょう?

突然ですが、クイズです。

2012-07-12 10:33:55 | Q&A 憲法判断の方法
さて、最近、やりとりしている憲法問題がございまして、
皆様にお知恵を拝借したいと思います。

端的に言うと、次のような問題です。



「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」

という刑罰法規は、

1 不明確・漠然性ゆえに無効
2 過度の広汎性故に無効
3 合憲限定解釈が可能

のいずれでしょう?

理由も付して、ご回答いただけると幸いです。






ちなみに、この問題のきっかけになったのは
次のような横山さんさんからの
ご質問です。
ご参照ください。


ありがとうございます!追加で質問させてください。 (横山さん)
2012-07-09 21:52:28
丁寧なご回答ありがとうございます!これを踏まえて,もう一度よく考えてみたのですが,さらなる疑問が出てきたので,質問させてください。

平成23年司法試験の出題の趣旨には,「明確性」につき,「本問の法律で,『個人の権利利益を害するおそれ』等の文言の明確性が,一般的に問題になるわけではない」,「本問で明確性を問題にするとすれば,『生活ぶりがうかがえるような画像』が『個人権利利益侵害情報』に含まれるのか否かが明確ではない,という点である」との記述があります。

この記述は,木村先生が,他の方の質問に対して,「文面審査の典型例とされる明確性の問題も,実は,文面だけからは審査できず,あくまで当該行為との関係で明確か,という形で問題になります」と回答されているのと同じ意味であるように思います。

そこで,さらなる質問です。
「当該行為との関係で明確か」が問題となる場合には,①法令の文言がおよそ意味が通じないという意味で不明確な場合と,②法令の文言を文字どおり読んだ場合には,その意味が広すぎて,当該行為がその適用を受けるのかどうかが明確でない,という2つの場合があると思います(①の場合はほとんどあり得ないと思いますが…。)。

現実の事案で問題となるのは②の場合であり,それは,「明確性」の名で呼ばれているものの,実は「過度の広汎性」の問題にほかならないのではないか,というのが私の疑問です。

このような意味における「明確性」の問題(実質的には「過度の広汎性」の問題)を判断する過程で,「合憲限定解釈」の可否が問題となり,明確な解釈を選択することにより違憲的な部分を取り除くことができるのかどうかが問題となる,というように理解したのですが,いかがでしょうか。

物分りが悪くて申し訳ありません。。
ご回答よろしくお願いいたします。