ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

人工的な「冬眠状態」の医療応用に向けてマウスで成果

2022-12-27 10:36:10 | 健康・医療
クマが冬眠するはなしは当然のようにとらえていますが、長期間眠ったような状態で過ごすというのは不思議な現象といえます。

「人工冬眠」はSFの世界ではコールドスリープと呼ばれ良く登場していますが、実際にその状態が作れれば手術の時などに患者の臓器や組織を保護できるという研究が進んでいるようです。

理化学研究所と京都大学の研究グループは、マウスの脳にある特定の神経を刺激して人工冬眠状態にして、心臓血管手術時に腎臓への負担を軽減できるかを確認したと発表しました。

これは理研と筑波大学の研究グループが2020年に「人工冬眠実験マウス」を作った実績を生かした成果で、医療応用に向けて前進させたものです。冬眠の研究は古く、16世紀ごろにさかのぼるとされていますが、心電図や脳波を計測できるようになって研究は進展しました。

冬眠する哺乳類は食糧が不足する寒い時期をしのぐため「省エネ状態」を保ち、栄養が乏しい環境を生き抜きますが、そのメカニズムはよく分かっていませんでした。応用研究を大きく進める契機になったのは、人工冬眠マウスの誕生です。

2020年に筑波大学と理研の研究グループが、本来は冬眠しないマウスやラット脳にある「休眠誘導神経(Q神経)」と名付けた細胞を刺激して、冬眠に近い状態を作り出すことができたと発表しました。

視床下部にあるQ神経をある薬剤で刺激して人為的に興奮させると、平常は37℃付近のマウスの体温は大きく低下し代謝の働きを示す酸素の消費量も大幅に減少しました。

この一連の研究により、多くの哺乳類にあるQ神経を刺激すると、通常は冬眠しない動物を人工的に冬眠させることができることが判明しました。この成果を応用し、今回理研と京都大学の研究グループは、人工冬眠の研究を安全な心臓血管手術などの実現に向けて大きく前進させました。

日本胸部外科学会によると、2017年の年間心臓血管手術件数は約7万件ですが、手術時死亡率も10%近くあるようです。これは手術時には循環停止する必要があるためで、5〜50%に腎障害が起きるとされています。

大動脈手術の際は腎障害を減らすために人工心肺装置で血液を冷やして身体に戻しながら低体温の状態で臓器を保護しています。研究グループは人工的にQ神経を操作できるマウスを作製し、実際の血管手術を想定して大動脈の血流を遮断して虚血状態にしました。

この人工冬眠マウスは低体温にしなくても腎障害を一定程度予防できることを確認しました。これはまだ動物実験の段階ですが、ヒトでもQ神経で冬眠を誘導できるようになれば、循環停止を伴う心臓血管手術を低体温にすることなく臓器保護を実現できる可能性があるとしています。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿