おとといは診察後に体調を崩してしまいました。寒いような熱いような、疲れているのに眠れない、首の付け根と頭が重だるくて嫌な感じがしました。いわゆる日射病とか熱射病という状態です。
この数日、突然の猛暑にもかかわらず、私は毎日昼ごろに、近くの公園でいつものように運動を続けていたのです。野球帽にサングラス、両手には手袋をして強力な太陽の熱線を防いでいましたが、やはり体に熱がこもってしまったのでしょう。
私は一本歯の高下駄をはいて、誰もいない野球場をすり足で毎日2-3週しています。不安定な芝生の表面や、のねずみの作った穴などの変化に動じないような、丹田から動き出すすり足を体得するための重要な訓練です。これができるようになると、常に頭寒足熱(ずかんそくねつ)で臍下丹田(せいかたんでん)に気が落ち着いて、快適な身のこなしができるようになります。
先日土曜日は、いつもいらっしゃる多くの患者さんを診た後に、急にからだが重だるくなって、上記のような症状が出てしましました。
漢方医学では、この首の付け根と頭が重だるくて嫌な感じがあることを「頭項強痛(ずこうきょうつう)あるいは頭項強直(ずこうきょうちょく)」といって、この症状があるときに服用する代表的な漢方薬に「麻黄湯(まおうとう)」と「桂枝湯(けいしとう)」があります。汗が出ていないときは前者、汗が既に出ているときは後者をつかいます。脈を触ってみて浮いているようであれば、必ずこれらの方剤をつかいます。
あの時点では汗が出ていなくて気分が悪かったので、麻黄湯をのみました。布団をかけて一時間ほど寝ていると、首の周りを中心にたらたらと汗が出てきて、気分がよくなってきました。
さあ、起きて何かをしようと思いきや、体調がすぐれません。むしろ、汗がどくどく出てきて止まらない気がします。
あいや、これは既に麻黄湯のステージは過ぎて、桂枝湯の状態でした。そこでこれを飲んでみました。桂枝湯は頭項強痛の状態で、汗が出ているときの方剤です。
実はこれを飲むと、もっと汗が出るのです。もう一度ドバッ汗を出させてその反動で汗を止めるのがこの方剤の特徴です。
ああ、間に合ったようです。もう一度の発汗の後、急に私のからだは軽くなり、頭項強痛もとれて、全くもとの健康な状態にもとることができました。
ここまで読まれて、なんで日射病に風邪薬を使うの?と思われた方はいらっしゃいませんか?そうです、麻黄湯や桂枝湯は葛根湯とともに、風邪薬として知られている漢方方剤です。
ここが漢方薬の本来の使い方のよい例となるところです。
たまたまこれらの薬の効能として、頭項強直でからだに熱がこもって(発熱の一種)、汗が出ているかあるいは出ていないかの症状がでている状態を治すのであって、病名はあとからおっ付いてくるのです。ということはこれらの薬は、風邪だろうが、日射病だろうが、飲みすぎだろうが、糖尿病だろうがかまいません。これでよくなります。
逆に言えば、同じ日射病であっても、上記の特徴が出ていなければ、これらの薬は効きません。
「証」といって、患者さんのからだが発しているサインや、体質を把握することができれば、極端なことを言えば、病名は関係なく治療をすることができるのが、漢方医学の醍醐味です。
これは病名が10も20も付いている方の「証」を把握することにより、その全てを一度に治すことができる可能性を秘めているということになります。
明るい未来を見るようですね!!
日本伝統漢方鍼灸