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授業で英語のテキストを読破しました

2021年10月14日 | 教育活動
2021年前期の授業「アジア太平洋の国際関係」では、以下の英語文献をテキストとして使用しました。Michael Yahuda, The International Politics of the Asia-Pacific, Fourth and Revised Edition (London: Routledge, 2019) , 295 pp.です。この教科書は、第二次世界大戦後のアジア太平洋の国際政治を俯瞰するものであり、冷戦に特徴づけられた二極システムやポスト冷戦期の単極システムにおいて、同地域の国際関係がどのように展開されたかをアメリカ、中国、日本、北朝鮮と韓国、台湾、東南アジア諸国といったアクターの動向に触れながら、総合的に解説する優良な教材です。



この授業は、3年次生以上が履修する「選択必修」の科目です。数年前から、この授業では、上記の英語文献を使っています。かつては、この図書の第3版を使っていたのですが、一昨年、新しい版に改訂されましたので、2020年度からは第4版を採用しました(国際関係の新しい展開に合わせて版をアップデートしていただけるのは、テキストを使う側としては、ありがたいことです。ただし、再度、最初から最後まで読み直さなければなりませんが)。

私が奉職する群馬県立女子大学国際コミュニケーション学部は、学生の卒業時のTOEICスコアが平均で730点を超えます(2020年度卒業生は762点が平均でした)。TOEIC730は、海外駐在員レベルといわれていますので、学生たちは、まずまずの高い英語力を身に着けているようです。ただし、だからといって、彼女たちが国際関係論の英語文献を読んで理解できるかと言えば、そうとは限りません。この授業の履修者たちは、上記の英語のテキストにかなり苦労していました。

国際関係の英語図書を読解するには、①国際関係の基礎知識、②キーワードの意味、をある程度、把握していることが必要なようです。①について、冷戦や封じ込め政策、資本主義、社会主義、ASEAN、APECなどは、上記のテキストでは、読者が知っているとの前提で書かれています。ですので、こうした基本的な事象や概念が分からないと、この英語テキストを読んで内容を理解するのには苦戦することになります。②については、国際関係の研究者からすると、意外な単語に落とし穴があることに気づかされます。たとえば、stateやinterestがそうです。前者を「国家」ではなく「州」と訳してきたり、後者を「利益」ではなく「関心」と捉える学生は、少なくありません。このようにキーワードを間違って訳してしまうと、テキストの文意を理解できなくなってしまいます。こうした落とし穴にはまらないよう、私は適宜、学生に必要な解説を加えながら、授業を進めてきました。

この授業で私が300ページ近くある英語のテキストを学生に読ませる理由は、大きく2つあります。アジア太平洋の国際関係への理解を促すことが、授業の狙いのメインであることはいうまでもありませんが、それ以外に、学生には、大学学部の授業で厚い英語の教科書を最後まで読み切った達成感を味わってもらうと同時に、国際関係に関する英語の読解力に自信を持ってもらうことです。こうした達成感と自信は、学生たちにとって大きな糧となると信じて、私はこの授業を運営しています。
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