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研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

櫻田著『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』読後感

2013年10月16日 | 教育活動
今、私立大学は、AO入試や推薦系各種入試の「シーズン」真っ只中です。日本の大学入試の多様化は、大学教員の入試業務を飛躍的に増加させると同時に、大学の教育のありかたそのものに、大きな問いを投げかけています。こうした大学入試がもたらす現状と課題を分かりやすく解説するハンディな図書が、櫻田大造『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』中央公論新社(新書ラクレ)、2013年です。櫻田氏は、以前にも大学内情ものである『大学教員採用・人事のカラクリ』を上梓しており、こちらも上記書と同様に、興味深く拝読しました。



志願者の適性をテストする方法が増えれば、入学してくる学生が多様化するのは当然のことでしょう。とりわけ、多くの大学で教員を悩ませている問題の1つは、学生の基礎学力のバラつきです。同書には、ベネッセ調査を引用するかたちで、学力差の問題がこう書かれています。

「推薦・AO入試で大学に受かった1~4年生……(の)約半数が1日1時間未満しか勉強せず、2割は受験対策すらしていない!……(他方)一般入試組で1日時間未満しか勉強しない層は……16%に9%と少なかったことからも、一般入試組と推薦・AO組の基礎学力面での差異が入学後に大きく出る可能性もある」(54ページ)。

おそらく、この指摘は概して正しいと思います。ただし、一般入試で相応の競争率を確保できる大学ではそうかもしれませんが、推薦系入試でも一般入試でも志願者の「全入」か、もしくは、それに近い大学では、両入試組の基礎学力は、ほどんどかわらないかもしれません。

さらに、櫻田氏は、こうした基礎学力のバラつきの問題を入学後の教育で解決する方法の1つとして、以下のように提言しています。

「英語圏に数年済んだことがある英検準1級レヴェルの帰国子女とbe動詞と一般動詞の区別がつかない新入生をひとまとめにして……英語科目を開講することは……不幸な結果しかもたらさないだろう。……TOEICやTOEFLなどを入学式直後に受験させ、その結果を基にして能力別クラスを編成する(べきである)」(248ページ)。

この提案も、至極、当然の指摘のように受け取れます。確かに、こうした英語クラス分けが、入学後の英語教育の効果を飛躍的に向上させる大学もあるでしょう。櫻田氏は、その例としてICU(国際基督教大学)を示唆しています。その反面、彼の処方箋には大きな矛盾があります。それは、TOEICやTOEFLは、be動詞と一般動詞の区別さえつかない入学生やそれに近い基礎英語力しかない学生にとって難しすぎるので(とくに後者!)、点数に有意な差が出にくいということです。その結果、このレベルの英語力の学生が多ければ多いほど、クラス編成には役立たなくなります。さらに言えば、そもそも1時間未満しか勉強していない学生や受験対策さえしていない学生が、入学直後に突然、いままで経験したことのない数時間の難解な英語の試験に、どれだけ耐えられるものでしょうか。

つまり、このような英語能力別編成の方式は、ICUなど1部の大学にしか当てはまらないと言うことでしょう。もっとも、櫻田氏は「TOEICやTOEFLなど」と言っていますので、それぞれの大学の実情にあった英語試験によるクラス編成試験を行えばよいのかもしれません(ただし、大学で実用できる中学レベルの英語力のバラつきを測定できる試験としては、何があるでしょうか)。

『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』は、大学教員の1人として「フムフム」と頷きながら読める部分が大半でしたが、ここで書いたような「アレ」と疑問に感じるところもあったというのが、率直な同書の読後感です。

なお、このブログの内容は、私の本務校とは一切、関係がないことを断わっておきます。

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