かなり強い雨の日、故津高先生の小さなリトグラフがアトリエにやってきた。箱から出して棚に置く。軽やかさ、洒脱さがあたりに広がった。
傍らに、軽井沢のホテルでブレンドされた紅茶の香り(軽井沢に行った方からいただいた)。先生のリトグラフと、お茶の深い味わいに包まれて最高に
しあわせな気分だ。外の景色は雨に煙っている。私の絵の青はこんな時、とても見えにくくて困るのだが、雨のしっとりした気配が、長い間描きかけだ
った絵を仕上げてくれることがある。(期待したときは、全くだめだけど)山の稜線が雨に霞んで、山紫水明の世界だ。ここは、こころの信州になった。
津高先生のリトグラフ、制作年が1986年と書かれている。1986年は私が、絵を始めた年。どっぷり浸かっていた書道の、墨への気持ちを引きずりなが
ら、水墨画を上海から来日された師の元で、描き始めた年だ。
1986年は私にとって、記念碑的な年である。このリトグラフは、私を呼んでくれた。全く予定外の行動でこの宝ものに出会えた。
雨を見つめていると、こころがじーんとしてくる。このじーんの気持ちを制作に振り向けよう。
フォト 2015