その島で、最初に出会った花だった。朝陽が幾筋かの光を落とし始めた地面で、落花は息づいていた。
写真家への道へ、一歩でも踏み出せたら、と気負って旅に出た。たった一つの定期預金をくずし、会社勤めの夫を家に残して、写真雑誌の撮影ツ
アーに参加した。南の島では、太陽が燃え盛り、何もかもが乾ききっていた。何かが違う。私は焦った。こころに届くものが無い。すべての風景に
激しく陽が注ぎ、まるで陰りというものがないのだ。ぎらついている。風景そのものが。自宅のある近江八幡も、撮影に通った京都にも、情感とい
う、こころに響いてくる何かがあった。
ある朝、一人で島を巡った。ふと、足を止めた。南国の自然が、砂地に、一枚の絵を配してくれていた。落花、二輪。私は、花の周りをぐるぐる
回ってファインダーをのぞき続けた。
自然の贈り物、自然の技に、シャッターを一度、切った。
(1982 モルディブ 撮影の旅より)
フォト 2010