アトリエに行く途中、緑に囲まれたベンチに掛けた。もう新緑といえる様々な緑色に目を奪われた。不意に、こんな自然の中に一人きりの状態
だったら、コロナウイルスの心配は全然ないんだなあと思った。ウイルスは人によって運ばれる。自然はなんとありがたいものなのだろう。足
元に目を移す。地面の柔らかい色調の苔が美しい。ふわふわと若緑が浮き上がっている。一二本その苔を抜いた。杉苔だと思う。先端の葉が透
明な緑でロウでできたように艶やかだ。アトリエに着いて、小さな器に浮かべた。
100号大の和紙の作品、仕上げに何か決め手がなくて連日悩んでいた。ブルーとグリーン、これでいけるかもしれないとふと思った。絵の具の
在庫の中から少し渋目のグリーンを出してきて筆にのせた。画面の方からの拒否反応もなく、ブルーとグリーンの色調がひとまず落ち着きを見
せている。三時に帰る予定になっており、結構画面が気に掛かりながらも帰り支度を始めた。肩も腕も治ってはいないのだが、制作を初めてい
る。この痛みが遠いものになる頃、地球上での疫病も落ち着きをみせるのだろうか。