Kazuko MISAWA World

三沢かずこの青の世界 ー 作品の周辺

島の母子

2015-10-29 18:53:37 | 旅路

明らかに怒っていたのだと思う。モルディブ諸島のとある島、子どもを小脇に抱きかかえた女性。鮮やかな濃い緑の地に大きな花模様のある民族衣服を身に着けていた。目が合って

その瞳の強さと、母親の存在感に惹きつけられた。思わずカメラを向けた。近い距離、目がまっすぐこちらを見据えている。抱えられた子どもは母親にすがっている。一瞬迷ったが

シャッターを切った。握手はもちろん、ありがとうの一声も言えないような空気がそこにたちこめた。そこから黙って去るしかなかった。どやどやとたくさんのカメラを抱えた集団

がその島をいっとき、嵐のように通り過ぎたに違いない。私もそのなかの一人だった。アマチュアカメラマンの、切り捨てごめん、とでもいえるような行動だったろうか。人物は隠

し撮りがいいと、同行者に教えられた。でも、余りにもひきょう、だと思えた。こちらの存在を相手に示してシャッターを押すべき、と考えていた。でも、大差ない。オーケーも

とらないでシャッターを押したのだから...切り捨てごめん、にちがいない。その写真を見るたび、母親の射るようなまなざしが突き刺さってくる。ニコニコ笑ってくれる顔写真は

作品にはならずに記念写真になるが、この母子の写真は、人物の性格のようなものをとらえたという点では、作品とよべるものであったかもしれない。でも、子どもを守るように

真っ直ぐにこちらに対峙した母親の姿に、母親になった経験のない私は、完全に、負けたような気がした。人と話すことが苦手なのに、人物の写真を撮ろうとして、かなり、無理

をしていた。苦手なことを克服しようと、自分を追い込んでいた。    (1982     モルディブ 撮影の旅より)

 

 

              フォト 2010

  

                                        

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

沖縄の旅

2015-10-27 19:24:49 | 旅路

沖縄になぜあんなに惹きつけられたのだろうか。

沖縄に初めて行ったのは、旅の月刊誌の特派記者として、30代の代表として全国公募で選ばれてのことだった。沖縄の壺屋焼きの思い出を文章にして応募した。ほんとうにラッキー

な結果だった。その旅は、ウインドサーフィンの初挑戦を義務(?)づけられたり、後日、旅行記を書いたりで、けっこう仕事がらみの旅だったが、さあっと通り過ぎた那覇の街に、ア

メリカ的な色彩を多く目にし、市場に並ぶ品物の珍しさに驚かされた。ある地域で、ハブとマングースの闘いのショーがあり、特派記者としての見聞記が必要であったようだが、こ

れは、全く無理で、後ろに隠れて見れなかった。

沖縄に流れていた緩やかさ、那覇に着いた時、バックが行方不明になった時も、そんなに慌てないでいいよ。すぐ出てくるさー......と、涼しい顔の迎えの人。大分遅れたけれど、バ

ックは出てきた。そんなに、神経質にならなくても、とやんわりとたしなめられたかのよう。急いでいる生活に、慣れっこの自分。いつの間にか、ゆっくりと、お茶を飲んだり、気

長に何かを待つということが苦手になっていた。

もう、30年も前の沖縄しか知らない。そのころに比べ、沖縄全体は大きく変わっただろう。降り注ぐ太陽光、暑さの中で、その自然を受け入れて、おおらかな優しさを見せてくれた

出会った人たち。沖縄の写真を、撮ろう、と帰りの飛行機で決意した。写真館を営む写真家のもとで、撮影の仕事を手伝いながら、空き時間に写真雑誌を夢中で読んでノートにメモ

って写真の勉強をしていた。私の写真修行時代はとても短いものだったが、今思うと、一歩、自分の殻を破り外に出た、かけがえのない経験だった。沖縄を写すという私の決意は、

かなわなかったけれど、今でも、沖縄の茜色に染まった夕陽の温かさとそてつの長い影の光景が思いおこされる。たった一人、夕陽のなかで気負っていた...。

 

 

 

                                                      フォト  2015

 

 

                                                        

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

食べ残したパンが輝いていた

2015-09-08 19:54:35 | 旅路

朝の陽を受けてパンが香気を放っている。あれは、今朝の食事で皆が食べ残したパンだ。ゴソゴソとした食感、バターの味も無く粉そのものといっ

たパン。日本からの写真ツアーの一行には全く不評で、私も、食が進まなかった。カメラを二台以上、交換レンズを何本も携えた集団、アマチュア

の他にプロもいたかもしれない。簡素な朝食を、皆そこそこに切り上げていた。私もそのなかのひとり。この南洋の島にいて自分のこころを引きつ

ける写真が撮れるのだろうか。海水浴に来たわけでもないし、バカンスが目的でもない。

浮いている自分に憂鬱になった。所在なく島を歩いた。朝のうちはまだぎらつく太陽も無く、外に出られる。眼が釘付けになった。パンが、食べ残

したパンが、金の器に盛られて、塀の上に輝いていた。きらきらと、その香気がこちらに伝わってくるようだ。シャッターを押した。水色のトタン

の壁をバックに、一枚の、静物画だった。

遠く南洋の島まで来て、自分の感性を動かしてくれたのは、この島の日常の一コマだった。このパンのある情景は、大切な一枚になった。派手な写

真は撮れない。多分、その派手さに、自分の感性は合わないのだ。自分が何を探しているのか、分からない。分かったのは、自分が豊かな国から来

た人間であり、このパンを口に合わないと言って残しているその事実だった。

                                    (1982    モルディブ  撮影の旅より)

 

              フォト    2010 (鎌倉の豆らくがん)

 

                             

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2015-09-01 07:28:30 | 旅路

島の子どもたちの瞳には、光があふれている。私の動作の一つ一つを瞳のなかの灯が追っかけてくる。子どもの写真を撮るには、私自身が子どもに

なって、遊ぶしかない。子どもたちとのボール投げが始まった。全力でボールを投げ返した。私には、片言の『フォト、オーケー?』ぐらいしか、

コミニュケーションの手段がない。ボールを真剣に投げ返して、その場にとけ込んだ。

瞳がきれいだ。好奇心にあふれた小粒の宝石のようだ。その島の滞在時間は子どもたちと遊ぶことに夢中になって、あっという間に過ぎ去った。肝

心の写真は撮れずに、子どもたちとの記念撮影が精一杯だった。この写真と日本の記念切手を送る約束をして、次の目的地に向かう乗船場に行った

船に乗ろうとした時、カメラバックがない。子どもたちと遊んだ場所に置き忘れたんだ。背筋が凍り付きそうだった。ありますように、と祈りなが

ら、走って遊んだ場所に引き返した。

大人たち、子どもたちのたくさんの心配そうな瞳の輪に取り囲まれた。私のバッグはそこに、持ち主を待ちわびるかのように、丁寧に置かれていた

サンキュウ、を三回ぐらい繰り返した。瞳がぱあっと輝いてみんな、手を振ってくれた。ありがとう、島の人たち!

        (  1982    モルディブ 撮影の旅より)

 

        フォト  2010

 

                           

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

落花

2015-08-29 21:30:41 | 旅路

その島で、最初に出会った花だった。朝陽が幾筋かの光を落とし始めた地面で、落花は息づいていた。

写真家への道へ、一歩でも踏み出せたら、と気負って旅に出た。たった一つの定期預金をくずし、会社勤めの夫を家に残して、写真雑誌の撮影ツ

アーに参加した。南の島では、太陽が燃え盛り、何もかもが乾ききっていた。何かが違う。私は焦った。こころに届くものが無い。すべての風景に

激しく陽が注ぎ、まるで陰りというものがないのだ。ぎらついている。風景そのものが。自宅のある近江八幡も、撮影に通った京都にも、情感とい

う、こころに響いてくる何かがあった。

ある朝、一人で島を巡った。ふと、足を止めた。南国の自然が、砂地に、一枚の絵を配してくれていた。落花、二輪。私は、花の周りをぐるぐる

回ってファインダーをのぞき続けた。

自然の贈り物、自然の技に、シャッターを一度、切った。         

   (1982      モルディブ 撮影の旅より)

 

          フォト 2010

 

                   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする