1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「猫を抱いて象と泳ぐ」(小川洋子)

2009-06-28 13:19:13 | 
 「猫を抱いて象と泳ぐ」(小川洋子)を読みました。リトル・アリョーヒンという伝説のチェス指しの物語。8×8の小さな盤上で繰り広げられるチェスの棋譜って、10の123乗通りも存在するのですね。チェスの駒を置く音や対局者の息遣いまで聞こえてくるような、そんな静けさと10の123乗もある世界の広がりが心にしみるお話です。

 この物語は、子供のころにデパートの屋上に連れてこられて、大きくなりすぎたためにそこから降りれられなくなり、一生屋上で生き続けた象のお話からはじまります。主人公のリトル・アリョーヒンも、見世物のためにつくられた「自動チェス人形」の50センチぐらいの空間の中で、チェス盤を下から眺めながら一生をチェスを指し続けます。50センチの空間と10の123乗通りもあるチェスの海のひろがり。広大なチェスの海を自由に泳ぎながら、リトル・アリョーヒンは「最強ではなく最善」の一手を指し、詩のように美しい棋譜を一日一日残していきます。

 リトル・アリョーヒンの境遇(そして象の境遇も)が、とても身につまされるのです。別に大きくなりすぎたわけではないけれど、僕も、もうほかにどこにも行けなくて、「いま」「ここ」でがんばるしかないのです。

 でもね、
「いま」「ここに」いつづけることで、たくさんの人に巡り合えたし、たくさんの人に支えられているし、困った時には助け合うというもっと大きな世界の片隅にいるのだと実感できるような気がしています。
そう、明日も、自分が今できる「最善の一手」をさして、僕にしかかけない棋譜をのこそう・・・

そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。

「みんなしんどい思いをして今がある人ばかりです。大変なときはお互いさまです。」というメール、ありがとね。この場で感謝>shirleyさま