生涯を完結させるまでに歌いたい歌、最近始めたヴァイオリンとフルートはどこまで演奏できるようになるか、と時々ワンコ

死は人生の終末ではない。 生涯の完成である。(ルターの言葉)
声楽とヴァイオリン、クラシック音楽、時々ワンコの話。

Francis Poulenc  Rapsodie Nègre Fp. 3    プーランク  黒人狂詩曲

2014-09-07 11:10:45 | プーランク
 プーランク18歳の時の作品、人前で演奏された初めての作品らしい。また初演時は直前になってバリトン歌手が演奏を断り、プーランクが歌ったと言う話もある。

 バリトン独唱と、フルート、クラリネット、弦4部、ピアノという編成で、全5楽章、13分ほどの曲である。歌は3楽章と終章に入る。万人向けとは行かないまでも、何の予備知識も無く聞けば、現代音楽の手前のロマン派が円熟しきった、フランスの小洒落た20世紀音楽として聴けると思う。ところで歌が始まると「ホ ノ ル ル ホ ノ ル ル」と耳に入ってくるので、一瞬ハワイの歌かと思ってしまいます。しかし、英語でもなければフランス語とも思えない。ハワイの先住民がホノルルとも言わないだろう。黒人の詩人が始めてフランス語で(何の意味も無い)詩を書いたもの、それにプーランクが曲をつけたと言う設定らしいが、この設定自体が作り話なのかもしれない。

 そもそも何故この曲の存在を認識したかと言うと、サマーフェスティバルに参加させていただいた「大人の学芸会」のメンバーの中にプーランクの大好きなピアノ女史がいて、プーランクの歌曲をなにかやりましょうと言うことで、インターネットの楽譜ダウンロードサイトのプーランクで公開されている楽譜を片っ端から開いて見ていたときに出会いました。「大人の学芸会」は弦をやる人が多いので、我が人生初めて歌と弦とのコラボレーションを楽しめるかと期待してしましました。動画サイトで音源を見つけて聞いてみました。楽器だけの1楽章&2楽章はともかく、3楽章の歌が始まった途端に困惑しましたね。曲のタイトルもあり、今時この曲を演奏することは人種差別だと批判される恐れはないのかと。そんなことを考えていたら2003年に発売されたアンネ・ソフィー・フォン・オッターのCDアルバムにも収録されています。

 考えてみればモーツァルトの「魔笛」のモノスタートスだってけっして端役ではありませんし、ヴェルディの「オテッロ」のオテッロもムーア人だし、「リゴレット」のリゴレットはせむしで、現在ではせむしという言葉は差別用語として「リゴレット」の解説以外では殆ど目にしません。こうしてみるとクラシック音楽は高尚な芸術と言うことで人種差別やその他の差別表現に対して免責されているのでしょうか。そんなことはないと思うのですが、たとえば文学では「チビクロサンボ」は差別的だと認定されてしまっているようです。芸術家に限らず全ての人間が時代の制約に縛られているわけで、プーランクがこの曲を作曲した意図は私が知る由もありませんが、表面的に人種差別的だとして演奏されなくなるとしたら残念で、そのようなことが無い様に望んでいます。一方でことさらにこの曲をとりあげて特定の人種を揶揄するように利用することにも断固反対します。その様なことに一切頓着しないで、音楽史上にはこのような作品もあったのだよと、客観的にこの曲の技法や音楽表現を楽しむことが出来たらと思います。

 それにしても、フランスのATMA Classiqueというレーベルから5枚組みで出されているプーランク歌曲全集にも収録されていないこの曲を取り上げるアンネ・ソフィー・フォン・オッターは、只者ではありません。

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