碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今期ドラマの中で 最も展開が気になる「じゃない方の彼女」

2021年11月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

濱田岳主演「じゃない方の彼女」

今期ドラマの中で

最も展開が気になる!



濱田岳主演「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)は出色の不倫コメディーだ。何より、「不倫のようなもの」に巻き込まれていく主人公の戸惑いぶりがいい。

小谷雅也(濱田)は大学の准教授。相手は女子学生の野々山怜子(乃木坂46の山下美月、好演)だ。何の関係もなかった2人がエレベーターの故障などの偶然が重なり、互いに気になる存在になっていくプロセスが丁寧に描かれていく。

しかし真面目な雅也は当初、怜子にからかわれているとしか思わない。「周囲から誤解される」「ボクには家庭(妻役は小西真奈美)がある」と逃げ回るばかりだ。

その後、事態は徐々に進展しているが、雅也が見せる「うろたえ感」や「タジタジ感」がすこぶるおかしい。怜子を押し戻そうとする自分。危険な領域に踏み出しそうな自分。笑える“せめぎ合い”は濱田だからこそ演じられる至芸だ。

タイトルの「じゃない方」は、たとえば漫才コンビで顔や名前が知られた人じゃない方を指す。たとえ「じゃない方」であっても、自分の人生の主人公なのだ。このドラマには、そんなメッセージが込められている。

とはいえ、このままでは雅也の母で恋愛小説家の弘子(YOU)が言う「命綱なしのバンジージャンプ」になりかねない。どうするんだ、雅也!? 今期ドラマの中で、最も展開が気になる一本だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.11.03)


日刊ゲンダイで、「紅白歌合戦」について解説

2021年11月04日 | メディアでのコメント・論評

 

 

形骸化した「NHK紅白歌合戦」の末路

紅白別の司会者を廃止

識者はどう見る?

 

大晦日の「第72回NHK紅白歌合戦」の司会が、俳優の大泉洋(48)、女優の川口春奈(26)、NHKの和久田麻由子アナ(32)と発表された。

今年から「総合司会」「白組司会」「紅組司会」という区分は廃止され、3人で「司会」という形になるという。司会についてNHKは「番組の進行とともに、紅組白組はじめご出演いただくすべての歌手・アーティストを応援する存在」と説明している。

■テーマは「Colorful~カラフル~」

番組のテーマは「Colorful~カラフル~」。コロナ禍で失われた生活の彩りを取り戻し、さらに多様な価値観を認め合おうという思いも込められているという。

確かに最近の紅白は、アーティストが歌う楽曲に、司会者が紅組白組関係なく手拍子をするなど、「歌合戦」の要素は少なくなってきている。その背景には、「男女で紅白に分かれて対決する」という番組の基本コンセプトに対し、ジェンダー平等やLGBTQ(性的マイノリティー)への認識の高まりも関係しているのかもしれない。

しかし、作家の麻生千晶氏は「本当にそうでしょうか」としてこう続ける。

「結局、歌手の方は男女で紅白に分かれてやるのでしょう。組の分け方を変えるとか、個人で歌のうまい順で競い合う大会に変更するとかならまだしも、根本はなんら変わっていない。それに司会は、NHKの和久田アナに加えて、きっちりと男女ひとりずつ。そういうことを意識されているのであれば、中途半端な感じがしますね。個人的には、私はイケメン好きですから、もっと大胆に、イケメンばかり使うくらいの思い切った変更をしたっていいはずです(笑い)。確かに大泉さんは大騒ぎして明るく両組を応援するのは似合いそうですけどね」

「もはやジョーク」

メディア文化評論家の碓井広義氏はこう言う。

「やはり基本構造は変わっておらず、小手先な感じはしますね。そもそも“歌”というものを男女の歌い手に分けて競い合わせること自体にも違和感を覚えますが、ラジオで同番組が開始されてから70年以上経ち、それもまったく形骸化しています。『紅白歌合戦』の『紅白』は、もともと“源平の戦い”から来ていると思いますが、対立軸にないものをいまだに分けて戦わせていることは無理がある。もはやジョークの類いですよ。時代に合わなくなってしまっていることは自明です」

碓井氏は続ける。

「しかし、NHKにしかできないキャスティングで、年に1度、人気アーティストが一堂に会する豪華な番組で、楽しみにしている人もたくさんいることは事実ですから、いずれは、紅白歌合戦という形式をやめ、『○○歌謡祭』などと“超豪華な大型音楽番組”としてやっていくのがいいのではないでしょうか」

すでにスポーツの世界ではLGBTQへの理解が進んでおり、今夏に開催された「東京五輪」では「多様性と調和」を掲げ、性的マイノリティーを公表したアスリートは過去最多の183人に上ったという。また「電通ダイバーシティ・ラボ」が今年4月に発表した全国の20~59歳の6万人を対象とした調査では、自分がLGBTQに該当すると答えた人の割合は8.9%に達している。

時代とともに番組のコンセプトが変わるのも必然だ。

(日刊ゲンダイ 2021年11月2日)


名脇役がサポートを表現 リクルート「Airシフト」CM

2021年11月03日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

2人の名脇役 サポートを表現

リクルート Airシフト「バックヤード」篇

 

女優の木村多江さんと門脇麦さん。どちらも誰もが認める名脇役である。まるで合わせ鏡のように機能して主役を輝かせ、同時に自身も輝いてみせる。

共通するのは演技力だけではない。自身を客観視し、全体を俯瞰(ふかん)する力だ。そのうえで、脇役への期待に応えつつ、期待以上の演技を披露してくれる。

そんな2人が、リクルートのシフト(勤務予定)管理サービス「Airシフト」の新作CMで共演している。

残業だろうか。木村さんが、アルバイトで働くスタッフのシフトで苦戦している。個々の勤務希望日時を基に調整するのは、想像以上に大変な作業なのだ。

そこに現れた門脇さん。手伝いたいが、それは出来ない。シフトの決定は店長など限られた人が行うからだ。

黄色いポンポンで応援する門脇さんと、嬉しいような困ったような表情の木村さんの対比がおかしい。

助演女優は英語で「サポーティング・アクトレス」だ。シフト作成をサポートするCMにこれほどふさわしく、贅沢(ぜいたく)な配役はない。

(日経MJ「CM裏表」2021.11.01)


言葉の備忘録246 信濃の・・・

2021年11月02日 | 言葉の備忘録

信州の隠れたベストセラー、県内の書店やコンビニで入手可能

 

 

 

信濃の国は十州に

境連ぬる国にして

聳(そび)ゆる山はいや高く

流るる川はいや遠し

 

 

県歌「信濃の国」

作詞・浅井冽、作曲・北村季晴

 

 

 

 


倉本聰が書き上げていた 幻の新作『北の国から2021ひとり』、 その衝撃の内容

2021年11月02日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

富良野2021秋

 

 

倉本聰が書き上げていた幻の新作

『北の国から2021ひとり』

その衝撃の内容

 

『北の国から』放送40年を迎えて

ドラマ『北の国から』(フジテレビ系)が始まったのは1981年10月9日。翌年3月に全24話が終了した後も、スペシャル形式で2002年まで続いた。今年は放送開始から、ちょうど40年に当たる。

放送されていた約20年の間に、壮年だった黒板五郎(田中邦衛)は60代後半となった。また小学生だった純(吉岡秀隆)や螢(中嶋朋子)は大人になっていき、仕事、恋愛、結婚、さらに不倫までもが描かれた。

ドラマの中の人物なのに、見る側はまるで親戚か隣人のような気持ちで黒板一家を見守った。この「時間の共有」と「並走感」は、『北の国から』の大きな魅力だ。

最後の『2002遺言』から、さらに20年の歳月が流れた。だが、多くの人にとって、物語は今も続いているのではないだろうか。

思えば、確かに五郎は遺言を書いていた。しかし亡くなったわけではなかった。純や螢も、あの遺言書を目にしていない。

あれからずっと五郎は富良野で、そして子どもたちはそれぞれの場所で元気に暮らしている。見る側はそんなふうに想像しながら20年を過ごすことが出来たのだ。

完成していた『北の国から』新作脚本

実を言えば、倉本聰は『北の国から』の新作を書き上げていた。それが『北の国から2021ひとり』だ。

読ませてもらうと、黒板一家が東日本大震災をどのように体験し、昨年からのコロナ禍とどう向き合っているのかも知ることが出来た。そして何より、「五郎の最期」が描かれていることに衝撃を受けた。

2021年10月9日、40年前に『北の国から』の放送が始まったその記念日に、富良野で、ある催しが開かれた。「追悼 田中邦衛さん 北の国から 40周年記念トークショー 思い出せ!五郎の生き方」である。

倉本をはじめ、中嶋朋子、さだまさし、蛍原徹(元雨上がり決死隊)、そして私も参加させていただき、『北の国から』と「黒板五郎」を語り合った。全国から3,000人を超える応募があり、抽選で選ばれた650人のファンが来場した。

 

 

驚いたのは、このトークショーの中で、倉本自身が『北の国から2021ひとり』について語ったことだ。

倉本は、ドラマのあらすじを明かす前に、客席に向かって次のような話をした。

「僕が富良野に移住して1~2年目のころ、後に黒板一家が暮らすことになる麓郷(ろくごう)や、布礼別(ふれべつ)の方へ行くと、ポツンポツンと農家の灯(あか)りが見えて、その一軒一軒の中に、それぞれ温かい家庭があることがひしひしと感じられました。

それで『灯(ともしび)』というタイトルにしようと思ったんですが、テレビ局から「地味すぎる」と言われ、『北の国から』というタイトルになりました。

純を演じた吉岡(秀隆)は今日、この会場に来ていませんが、40周年のことをずっと話し合ってきました。

吉岡は何度も富良野に来て、ひとりで山の中でキャンプをしていたんですが、実は『北の国から』の新作を一緒に作ろうと、2人で企てていました。僕も台本を7稿まで書いたんですが、諸般の事情により映像化できなくなりました。

邦さんとは、『北の国から』を「どっちかが死ぬまでやろう」って口約束をしていましたが、番組自体が『2002遺言』で終わることになり、ショックを受けました。それでも僕の中でずっと(物語は)続いていたんです。これから、どういう話だったか、お話ししてみます」

そして、作者自らが明かした、新作の内容は以下のようなものだった。

『北の国から2021ひとり』あらすじ

2002年、螢と正吉は息子の快(かい)を連れて福島県に行く。桜並木で有名な富岡町の夜ノ森に家を借り、正吉は富岡町の消防署に勤め、螢は診療所に勤める。

2009年に「さくら」という女の子が生まれる。五郎はその子に夢中になり、なかなか富良野に帰らない。それを純たちが連れ戻すといった出来事がある。

2010年、純の妻である結(ゆい)が勤め先の店長と不倫をして、離婚することになる。五郎は「うちはそういう血筋なんだ」とゲラゲラ笑っている。

東日本大震災と黒板一家

2011年に東日本大震災が起きる。消防職員の正吉は人を助けようとして津波に巻き込まれ、行方不明となる。その翌日、原発が爆発して全員避難することになり、正吉を探すことができない状況が何年も続く。

2014年に避難地区が解除され、砂浜で正吉の手がかりを探すが、見つからない。それでも五郎は必死になって砂を掘り続けるのだが、純は「もう、あきらめよう」と説得。富良野に連れて帰った。

2018年、83歳の五郎は癌の疑いで病院に検査入院する。ところが、MRIが怖くて途中で逃げ出してしまう。入院病棟に戻ると、もうひとり逃げた経歴を持つじいさんと出会う。

これが、「山おじ」と呼ばれる熊撃ちで、五郎と高校時代に二宮サチコという美少女を争い、年中けんかをしていた相手だった。じいさんになったふたりは意気投合し、付き合いを再開する。

2020年、新型コロナが流行し始める。螢は病院にカンヅメの日々。純は札幌で病院から出る感染性廃棄物を回収し、焼却施設に運ぶ仕事をしている。純も螢も五郎と連絡が取れないでいた。

黒板五郎の「最期」

そんなとき、純は札幌でかつて恋人だったシュウと再会する。シュウは純の代わりに五郎の様子を見に行く。

石の家に着くと、中から五郎の話し声が聞こえる。誰か来ているのかと思って入ると、五郎がひとりで令子の写真と会話しているのだった。札幌に帰ってきたシュウは、そのとき五郎が言ったことを純に話す。

「最近、夢を見た。山で、ものすごく大きな角を持った真っ白なシカに会った。そのシカが夢の中でおいらに言った。みんなひとりじゃないって。あれはカムイの使いだ」

純も螢も忙しくて五郎とまともに連絡を取らないまま時が過ぎ、不安になった純はシュウとふたりで石の家に行く。そして書置きがあるのを見つける。

「純様、螢様、おいらの人生もう終わる。探しても無理。探索無用。おいらのことならほっといて」

気がつくと令子の写真だけが見当たらない。大騒ぎとなり、純がいろいろなところを探すうちに、山おじに行き当たる。しかし、山おじは「五郎は山に入った。お前らに行くのは無理だ」と言って場所を教えない。

純は、自分たちが父親を放置したために死なせたという思いにかられて、螢に電話するが、涙で声が出ない。

結局、五郎は一人で山に入って亡くなり、遺体を動物に、骨を微生物に食わせて、「自然に還ったのだ」と察するしかなかった。

その晩、純とシュウは石の家に泊まる。夜中にシュウに起こされ、そっと窓の外を見る純。そこには、大きな真っ白い雄鹿が一頭、石の家をじっと見ながら立っていた。

やがて雄鹿は、ゆっくりと向きを変え、森の奥へと消えていく。その姿を目で追う純。このとき、シュウが聞いたという五郎の言葉が甦ってきた。「みんなひとりじゃない」と。

この五郎の終焉は2021年3月24日、つまり田中邦衛さんが亡くなった日であろうと思われる――。

「幻の新作」と出会う日を 

以上がこの日、会場で倉本聰本人が語った、『北の国から2021ひとり』のストーリーだ。田中邦衛という主演俳優の不在を承知のうえで、敢えて新作に挑んだ倉本に敬意を表したい。

ドラマの中の登場人物である黒板五郎。設定によれば、生まれたのは昭和10年である。それは倉本と同じだ。また40代で東京を離れ、富良野に住むことになったのも倉本と重なる。黒板五郎は「もう一人の倉本聰」であり、いわば「分身」だったのだ。

黒板五郎という国民的おやじが選択した「人生の終(しま)い方」には、86歳となった倉本自身の思想、特に死生観が強く反映されている。

会場で「台本を7稿まで書いたんですが、諸般の事情により映像化できなくなりました」と無念をにじませた倉本。もしもドラマ化されていれば、大きな反響を呼んだはずだ。

ここで「諸般の事情」をうんぬんしたくはない。どのような内容であれ、『北の国から』であるからには、フジテレビの了解なしに映像化は不可能だ。様々な事情が存在したのだろうが、ファンにとっても、フジテレビにとっても、実に残念な判断だった。

だが、それでもいつか、国民的ドラマ『北の国から』の結末となる、この「幻の新作」を見られる日が来るのではないか。そう信じて待ちたいと思う。

 

「『北の国から』黒板五郎の言葉」扉写真

 

 


またも重版出来!(じゅうはんしゅったい)「7刷」に感謝

2021年11月01日 | 本・新聞・雑誌・活字