Nov. 2021
1回きりしかない人生なんだから、
自分の好きなように、
自分に正直に生きようよ。
志村けん『変なおじさん 完全版』
Nov. 2021
1回きりしかない人生なんだから、
自分の好きなように、
自分に正直に生きようよ。
志村けん『変なおじさん 完全版』
「スナック キズツキ」は
独特の“浮世離れ”感を持った
原田知世のなせるワザ!
こんなスナックがあったら、一度立ち寄ってみたい。そう思いながら毎回見てしまう。ドラマ24「スナック キズツキ」(テレビ東京系)だ。
地下にあるその店は、ママのトウコ(原田知世)が一人でやっている。昭和の喫茶店を思わせるレトロな雰囲気。アルコールは置いていない。丁寧に作るコーヒー、ココア、アップルジュースなどがおいしい。それを飲みながら、客はふと自分の話をしてしまう。
別に大きな出来事があったわけじゃない。職場や家庭、日常生活で感じる、ささいなストレス。でも、どこか疲れがたまっている。心がちょっと傷ついている。問われぬままの小さな告白。それだけで少し救われるのだ。
さらにママは異空間を現出させる。部下とのコミュニケーションが苦手な佐藤(塚地武雅)と「エアギター」の競演。再就職がうまくいかない冨田(徳永えり)と、抱えた鬱屈を言葉にする「しりとり」。そして自分を見失い、若い頃が恋しくなった香保(西田尚美)とは、懐かしのユーロビートに乗ってダンスだ。
店を出るとき、客は来る前より心が軽くなっていることに気づく。しかも、その効果は日常に戻っても続くのだ。
トウコママのマジック? いや、原田知世という、独特の“浮世離れ”感を持った女優のなせるワザだろう。このドラマ、原田のテレ東系連続ドラマ初出演にして初主演である。
(日刊ゲンダイ 2021.11.17)
春日太一『やくざ映画入門』
小学館新書 902円
やくざ映画は万人向けのエンタメではない。だが、これでしか「心の安寧」を得られない人、「救われない魂」が存在するのだ。春日太一『やくざ映画入門』はそれを教えてくれる。
論じられるのは「やくざ《映画》」という創作物であって、実際の「やくざ」ではない。キーワードの一つが「任侠」だ。わが身を張って弱きを助ける自己犠牲の精神である。
しかし、そこでは組という「公」に対する義理と、「私」としての人情がぶつかり合い、葛藤が生まれる。たとえば高倉健の「昭和残侠伝」シリーズなどのように、単純な勧善懲悪を超えた人間ドラマが動き出す。
著者は、やくざ映画の特徴として、また魅力として「自己完結の美学」を挙げる。破滅すると分かっていても、自分なりの生き方を貫こうとする姿勢だ。我々が現実生活の中で実践するのは困難だからこそ、主人公に声援を送りたくなる。
本書で「なるほど」と思ったのが、《『半沢直樹』=やくざ映画》説だ。「やられたらやり返す」が信条の半沢は、社会正義や倫理観で動くのではなく、自身の意地やプライドを懸けて復讐戦に挑む。まさに「自己完結の闘い」だった。やくざ映画の精神が国民的テレビドラマにも生かされていることが愉快だ。
その一方で、やくざ映画のヒーローたちの多くが世を去っている。鶴田浩二、高倉健、若山富三郎、菅原文太、渡哲也、松方弘樹などだ。本書は敬愛と感謝に満ちた墓碑銘でもある。
(週刊新潮 2021.11.11号)
『これは経費で落ちません!』での伊藤沙莉さん
名バイプレーヤー女優
「伊藤沙莉」が魅せる3つの「み」
『大豆田とわ子と三人の元夫』綿来かごめ役の市川実日子さん
名バイプレーヤー女優
「市川実日子」という生き方
上白石萌音がNHK朝ドラ
「カムカムエヴリバディ」で見せる
無敵の明るさ
NHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が始まった。3人の女性で描く100年の物語。ヒロインの第1走者、橘安子(上白石萌音)の登場だ。モネから萌音への「もね」つながりだが、雰囲気は一変した。まずは、その「スピード感」と「明るさ」に拍手だ。
主演女優が3人いて、放送は半年間。1人当たり2カ月となれば、のんびりしてはいられないのだろう。初日に生まれた赤ちゃんが、2日目でもう14歳になっていた。3日目に運命の人(松村北斗)と出会い、ドラマのテーマである「ラジオ英語講座」も聴き始める。
4日目は2人で自転車の練習をして、喫茶店でコーヒーだ。5日目のお祭りデートで急接近するが、突然破局の危機。そして最後は遠距離恋愛の始まりを予感させて第1週が幕を閉じた。驚きのスピード展開だったのだ。
この“超高速仕様”への戸惑いを振り払ってくれるのが、上白石が見せる無敵の明るさだ。思えば、「おちょやん」「おかえりモネ」と、重いものを背負ったヒロインが続いた。安子の少女らしい喜怒哀楽や“フツーの人”感にホッとする。
先週、ラジオが昭和14年の「ノモンハン事件」を伝えていた。今週は日中戦争が泥沼化する一方で、太平洋戦争への傾斜も進むはずだ。そんな時代を、安子一家をはじめ市井の人たちはどう生きたのか。戦争とラジオと英語の関係にも注目だ。
(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.11.10)
民放ドラマ初主演『ソロ活女子のススメ』での江口のりこさん
名バイプレーヤー女優
「江口のりこ」は
こうして生まれた
日曜劇場『日本沈没』の主人公は、
なぜ小松左京の「原作小説」と違うのか?
<碓井広義の放送時評>
未知の物語との出会い
オリジナルドラマの楽しみ
ドラマには2種類ある。小説や漫画などを原作にしたものと、原作のないものだ。原作がある場合、その気になれば結末まで分かってしまう。一方、未知の物語への期待感はオリジナル作品ならではのものだ。
今期のドラマにも原作を持たない注目作がある。1本目は「最愛」(TBS-HBC)だ。主人公の女性実業家、真田(吉高由里子)は殺人事件の重要参考人。しかも15年前には真田の故郷で失踪事件があり、二つの事件の当事者は親子だ。
刑事の宮崎(松下洸平)は高校で陸上選手だった。寝起きしていた合宿所で世話になったのが真田の父親である。互いに淡い恋心を持っていた二人が、15年後に対立する立場で再会したのだ。そこに企業弁護士の加瀬(井浦新)がからむ。
プロデューサーは新井順子、演出が塚原あゆ子。「アンナチュラル」(18年)や「MIU404」(20年)の名コンビだ。昨年の東野圭吾原作「危険なビーナス」も吉高主演のサスペンスだったが、物語の緊迫度は今回が勝る。脚本は奥寺佐渡子と清水友佳子だ。
次は「アバランチ」(関西テレビ-UHB)。タイトルは雪崩を意味する英語だが、ドラマでは正義を訴える謎の集団の名称だ。
主演は「MIU-」で好演した綾野剛。今年公開された映画「ヤクザと家族 The Family」も話題を呼んだ。同作を監督したのは秀作映画「新聞記者」の藤井道人で、今作でも監督の一人として再び綾野と組んだ。
警視庁特別犯罪対策企画室の山守(木村佳乃)が集めたのは、訳ありの警察官(福士蒼汰)やハッカー(千葉雄大)など。「バレるな、殺すな、裏切るな」を信条に、警察が手を出せない巨悪に挑んでいく。先の読めない展開を支えるのは丸茂周と酒井雅秋の脚本だ。
3本目が「和田家の男たち」(テレビ朝日-HTB)。登場するのは一つ屋根の下で暮らす、男ばかりの家族だ。和田寛(段田安則)は新聞社の元社長。息子の秀平(佐々木蔵之介)は報道番組のプロデューサー。そして秀平とは血のつながらない親子である優(相葉雅紀)がネットニュースの記者。
新聞、テレビ、ネットと、和田家の男たちのキャリアは報道の歴史そのものだ。同じ事象に対する視点も考え方も違ってくる。脚本はベテランの大石静ら。ホームドラマに織り込んだ社会戯評が見る者を刺激する。
新刊小説のページをめくっていくようなワクワク感。そこでしか出会えない人物たちと物語こそ、オリジナルドラマの醍醐(だいご)味だ。
(北海道新聞 2021.11.06)
庭のもみじ 2021秋
自然の一部として
生まれてきただけ、
と思えば
気負いがなくなる。
篠田桃紅
『一〇三歳になってわかったこと』