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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 鎌田 慧 『声なき人々の戦後史』ほか

2017年09月19日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

鎌田 慧 『声なき人々の戦後史』上・下 
藤原書店 各3024円

『自動車絶望工場』などのルポルタージュで知られる著者が、半世紀以上にわたる活動の軌跡を振り返った。取材対象である現場に潜り込み、実際に体験するという「手法」の内幕が明かされる。一貫しているのは権力や支配に対する反骨精神と市民への共感だ。


飯島敏宏+千束北男 
『バルタン星人を知っていますか?
 ~テレビの青春、駆けだし日記』

小学館 2160円

バルタン星人は、『ウルトラマン』シリーズに登場した怪獣・宇宙人の中で、今もダントツの人気を誇る。その生みの親が飯島監督であり、千束北男はシナリオを書く際のペンネームだ。半世紀前、特撮テレビ映画の金字塔はいかにして制作されたのかが明かされる。


孫崎 享 
『日米開戦へのスパイ~東條英機とゾルゲ事件』

祥伝社 1836円

ゾルゲ事件とは何だったのか。著者は綿密な検証によって既成概念を打ち壊していく。見えてくるのは、近衛内閣を倒して日米開戦へと駒を進めようとする東條英機の影だ。また戦後の冷戦下でも行われた事件の政治的利用は、現代社会にまで影響を及ぼしている。


小野民樹 『増補版 60年代が僕たちをつくった』
幻戯書房 2700円

著者は1947年生まれ。岩波書店で『同時代ライブラリー』『岩波現代文庫』などを創刊した編集者だ。本書を読むと、70年前後に大学を出た全共闘世代が何を思い、何をしながら60年代を過ごしたのかを垣間見ることができる。共感も反感も覚悟の上の増補版だ。

(週刊新潮 2017年9月14日号)

あと2週の『ひよっこ』、果たして「お父ちゃん」の記憶は戻るのか!?

2017年09月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



物語としての「決着」

朝ドラ『ひよっこ』も、あと2週を残すのみ。大団円へと向かっています。半年間におよんだドラマも、この時期になると、展開したエピソードや出来事に対して、物語としての「決着」をつけていかなくてはなりません。

今週は、みね子(有村架純)の親友である時子(佐久間由衣)が、「ツイッギーそっくりコンテスト」で優勝。目指す女優への道を本格的に歩み始めました。また、時子の転身によって、米屋さんで働く三男(泉澤祐希)も長かった初恋に別れを告げたようです。

そして、みね子は「すずふり亭」のシェフ・省吾(佐々木蔵之介)から、新しい制服のデザインを任されました。そのミッションが今後のみね子と、どう関係するのか、しないのか、注目したいと思います。

「お父ちゃん」こと谷田部実

そんな中で、とても気になるのが、奥茨城に帰った「お父ちゃん」こと谷田部実(沢村一樹)です。

記憶喪失にも度合いがあると思いますが、沢村さんが演じる実は、自分の名前も家族のことも忘れてしまっており、かなり重症であるように見受けられました。

記憶を失くし、女優・川本世津子(菅野美穂)に保護されていたところに、突然現れた妻の美代子(木村佳乃)と娘のみね子。「家族」としての2人を、肯定も否定もできない戸惑い。いや、もっと言えば、その奥底にあったのは「恐怖」だと思います。自分の運命を自分でコントロールできないという、体験したことのない恐怖を演じた沢村さんは大変だったはずです。

また、この役をさらに難しくしているのが、記憶喪失後の実が全くの別人になってしまったわけではなく、元々持っていた優しさを残しているという設定です。美代子、みね子、川本世津子、そして自分の4者が初めて顔を合わせた時も、家族に対してだけでなく、世津子に対しても細かな気遣いや優しさを見せていました。

あの場面では、実が意識を360度張り巡らせている様子が視聴者に伝わらないといけないのですが、大仰な演技はできません。沢村さんは、「実の記憶にない話」を美代子やみね子から聞いている時も、目の動きや細かい表情だけで繊細に演じていました。

「俳優・沢村一樹」の真骨頂

「沢村一樹って、こんなに上手い役者だったのか」と正直驚きました。沢村さんは豊富なキャリアをもつ俳優さんですが、個人的には、NHKのコメディー番組『サラリーマンNEO』の「セクスィー部長」が大好きだったので(笑)。

沢村さんが、この役を見事に演じることができたのは、役者としての経験もさることながら、自身の「リアルヒストリー」とも無関係ではないと思います。

週刊誌等の報道によれば、ドラマとは事情が違いますが、沢村さん自身、「少年時代に実父が借金を残して家からいなくなる」という体験があったそうです。つまり、父親が突然消えてしまった家族の気持ちがわかっている。

もちろん、役の中の人格と、私生活の人格は別モノです。しかし、今回はかなりリンクしている部分があった。沢村さん自身がどう生きてきたかという実人生が、演技の裏打ちになっていたはずです。

記憶が戻らない状況ながら、実が家族のところに帰ることを選ぶというシーンも、「いろいろな思いを抱きながら演じていたのだろうな」と想像せずにはいられませんでした。

奥茨城に戻った実は、農業をしながら元のような生活を送っています。見る側も、「ゆっくりと記憶を取り戻せばいい」と思いながら見ているのではないでしょうか。

実が、ごく自然に田植えをしながら、「なんで、できんだっぺ?」と自分自身に驚いた時、実の父(古谷一行)が「体が覚えてんだっぺ」と答えます。あのシーンも、見ていてほっとしました。

起きるか、波乱!?

ただ、川本世津子をめぐっては、まだ何かありそうで、波乱の余地を残しています。結果的に、実に置き去りにされた(身を引いた)形の彼女も、かわいそうでしたよね。

実と世津子が、果たして「一線を越えたのかどうか」は視聴者にとって謎ですが(笑)、そんな“ゲスの勘ぐり”を寄せ付けないような純愛ぶりがうかがえました。仮に一線を越えていたとしても、あの状況では責められませんけど。

今後、ドラマのゴールまでに、実の記憶は戻るのか。戻った時、美代子や世津子との関係にどのような動きがあるのか。そして、みね子はどう向き合っていくのか。またその時、4人の役者はそれぞれ、いかなる”名演技”を見せてくれるのか。やはり最後まで目が離せません。


ヤフー!ニュース連載「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

【気まぐれ写真館】 海外就学経験者(帰国生)入学試験  2017.09.17

2017年09月17日 | 気まぐれ写真館
帰国生入試が、雨の日曜日に行われました




ある「本屋さん」をめぐる記憶

2017年09月15日 | 本・新聞・雑誌・活字



昨日、大学院の9月入試がありました。筆記試験と口述試験が終わり、研究室に戻った時、ふと「帰りに銀座の本屋さんに寄って行こう」と思ったんです。まだ明るい夕方。四谷から銀座まで、地下鉄でわずか8分。

ちょっとウキウキした数秒後、「そうか、あそこはもうないんだ」と気づきました。何十年も通っていた本屋さんは、もうずっと前になくなっていました。

忘れもしない、2008年5月のことです。当時、八王子にある大学にいたのですが、教授会が予定より早く終わり、久しぶりで銀座に出たのです。

びっくりしました。「旭屋書店」が消えていました。銀座数寄屋橋そばの、あの旭屋書店です。同じ場所が、まったく違う店になっていました。まるで浦島太郎の心境です。

その年の3月までの6年間、北海道の大学に単身赴任していました。とはいえ、帰京した際には、ちょくちょく顔を出していたのに、閉店をまったく知らなかった。不覚。残念。閉まる前に、店内をゆっくり見て回りたかった。

当時、銀座では、しばらく前に「近藤書店」&「イエナ」が消えています。学生時代から、銀座に行ったときは、ほぼ100%入っていた本屋さんでした。洋書をちゃんと読める語学力がなくっても、イエナの店内を歩き回り、洋書を手に取り、洋雑誌の表紙を眺めるだけで十分満足でした。

梶井基次郎『檸檬』の主人公と丸善の関係じゃないけれど、イエナには、自分を刺激するまぎれもない「文化(の香り)」があったのです。

近藤書店も、2階の品揃えが好きでした。美術、映画、写真などのジャンルも充実。必ず収穫があったものです。それなのに、1,2階の近藤、3階のイエナが一緒に消滅してしまった。以来、私にとっての銀座は、随分寂しくなりました。「でも、まだ旭屋がある、教文館がある、文具の伊東屋もある」などと自分を慰めたりして。まったく効き目はなかったですが(笑)。

庄司薫さんの『赤頭巾ちゃん気をつけて』を読んだのは1969年、中学3年生のときです。この芥川賞受賞作の終盤、大事な場面で登場するのが銀座旭屋でした。地方の中学生にとって、「東京・銀座・旭屋書店」は想像するしかなく、いつかは行ってみたい憧れの場所となりました。

18歳で上京して以降、銀座まで行って、旭屋書店に立ち寄らないことは、ほとんどありません。その銀座旭屋が無くなってしまった。

当時の銀座には、すでにヴィトンだろうがブルガリだろうが、思いつく限りの有名ブランド店がありました。それなのに、イエナも近藤書店も旭屋もない。路上で、「いいのか、それで!」と声に出すわけにもいかず、しばらく舗道に立っていました。雨が降りはじめて、仕方がないので、伊東屋と教文館を目指して4丁目交差点方向へ歩き出しました。

伊東屋で、ファーバーカステルのシャープペンシルとマルマンのスケッチブック50周年記念グッズなどを買いました。教文館では、開高健さんの『一言半句の戦場』を手に入れ、それで少し元気が出ました。家まで帰るエネルギーを2つの店でもらい、地下鉄の駅へと向かったのです。

もう10年近くも前、2008年5月のささやかな記憶です。

上川隆也と京都の風景が生きる「遺留捜査」

2017年09月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載中のコラム「TV見るべきものは!」。

今週は、テレビ朝日系「遺留捜査」について書きました。


テレビ朝日系「遺留捜査」
上川隆也の飄々とした雰囲気と
京都の風景が物語を補っている

主人公の糸村刑事(上川隆也)が、遺留品への並外れた“こだわり”によって事件を解決していく「遺留捜査」。東日本大震災の年に始まったこのドラマも、今回で第4シリーズとなる。

大きく変わったのは、糸村が月島中央警察署から京都府警の特別捜査対策室へと異動したことだ。室長の桧山(段田安則)、刑事の佐倉(戸田恵子)や神崎(栗山千明)など、顔ぶれも一新された。

ただし、いつも糸村にヒントを与えてくれる、科捜研の村木(甲本雅裕)は人材交流で京都に来ている。無理難題をふっかける糸村と、逃げ回りながらも協力してしまう村木。2人の掛け合いはこのドラマの名物だ。

舞台が京都になっても糸村の観察眼とマイペースぶりは変わらない。被害者の部屋に落ちていた人形。遺体の手元にあったコイン。さらに事件現場から消えた万年筆などから、隠された事実を探っていく。先週の物件は被害者である女性経営者(小沢真珠)が履いていた、かかとの折れたハイヒールだ。彼女にとって靴は戦いのツールであり、成功の証しでもあった。

遺留品というモノを通じて、人間の性や業にまで迫ろうとするこのドラマ。回によってはストーリー的にやや弱い時もあるが、上川が演じる糸村の飄々とした雰囲気と京都の風景が補っている。全9話なので、今週が最終回だ。

(日刊ゲンダイ 2017年9月13日)

大学院9月入試の実施 2017.09.13

2017年09月14日 | 大学


筆記試験と口述試験が行われました


完成間近の新たな北門

書評した本: 清武英利 『石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの』ほか

2017年09月13日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。


汚職事件を追う刑事たち 真剣勝負の熱き魂

清武英利 
『石つぶて 警視庁二課刑事の残したもの』

講談社 1,944円

警察に対するイメージは人それぞれだ。個人的には、あまり良いとは言えない。その遠因は2002年から6年間、北海道の大学に単身赴任していたことにある。当時、北海道警察で拳銃の「やらせ摘発」や覚せい剤取締法違反が発覚したのだ。しかも組織としての罪も重かったことは、当事者である稲葉圭昭元警部が上梓した『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社文庫)を読むとよくわかる。

また原田宏二『警察内部告発者』(講談社)も驚きだった。道警の裏金問題の実態を実名証言した、元釧路方面本部長が書いた本だ。その中で、警察庁から道警に出向してきたキャリアもまた裏金を熟知していたことが指摘されている。道警だけでなく、「警察はいずこも同じか」と思わざるを得なかった。

清武英利の新著『石つぶて 警視庁 二課刑事(にかでか)の残したもの』は、そんな私の印象を揺るがしてくれた。扱われているのは、01年に発覚した外務省機密費流用事件だ。「ノンキャリの星」といわれていた松尾克俊・外務省元要人外国訪問支援室長が約10億円もの官房機密費を受領し、うち約5億円を私的に流用していた。複数の愛人、高級マンション、ゴルフ会員権、さらに競走馬まで所有する豪遊ぶりが話題となった。

その行為を発見し、捜査を進めたのが中才(なかさい)宗義をはじめとする警視庁捜査二課の面々だ。汚職や詐欺、横領などを専門とする彼らがこつこつと証拠を集め、容疑を固めていく。しかし松尾が着服した「領収書のいらないカネ」は、「機密費」と呼ばれる極秘資金の一部だった。展開によっては官邸の足元を崩しかねない。中才たちは見えない壁に阻まれる。

圧巻は松尾と中才が取調室で向き合う場面だ。立場を超えた、人間と人間の真剣勝負。正義感という言葉だけでは収容しきれない熱い魂。かつて「石つぶて」の覚悟を持った、こんな男たちが警視庁にいたのだ。



北田暁大、栗原裕一郎、後藤和智
『現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史』

イースト・プレス 930円

いつの時代にも「若者論」があった。特にリベラルと呼ばれる左派の人たちは語りたがる。しかし、それは自身のための政治利用ではないのか。著者たちはそう主張し、柄谷行人から高橋源一郎までを俎上に載せる。

(週刊新潮 2017年9月7日号)

【気まぐれ写真館】 雨あがりの夕景  2017.09.12

2017年09月13日 | 書評した本たち
西は夕焼け


東は虹

朝日新聞で、「コメンテーターの降板」について解説

2017年09月12日 | メディアでのコメント・論評



【メディアタイムズ】
情報番組 発言の修正要求?
降板のコメンテーター「告発」
意見の幅 狭まる懸念

番組の責任者から発言内容の修正を求められていた――。日本テレビ系の情報番組を降板するコメンテーターのこんなツイートが話題になっている。真相がはっきりしないままメディア不信が広がり、言論空間が細ってしまう、と危惧の声も出ている。

このツイートをしたのは評論家の宇野常寛氏(38)。自らのツイッターで8月31日、出演する朝の情報番組「スッキリ!!」を9月で降板すると公表。政治的発言が理由でトラブルになったことを明らかにし、投稿へのリツイートは2万件を超えた。

宇野氏はツイッターで、日中戦争中の南京事件に否定的な本を置いていたアパホテルについて、1月19日の放送で「歴史修正主義だ」と批判したことを紹介。その結果、「(日本テレビに右翼の)街宣車が押し寄せ」たため、番組側が問題視したのではないかと主張した。ユーチューブにも自ら説明する映像を投稿し、「僕は事実上のクビだと解釈しています」などと約30分語った。

宇野氏は朝日新聞の取材に対し、3月2日の森友学園問題についての打ち合わせで、「(番組内で)安倍政権のナショナリスティックな言動を批判する」と予告したところ、当時のプロデューサーから発言内容を修正するよう求められたとも主張している。

プロデューサーは理由として、「政治的公平」を定めた放送法を挙げたという。宇野氏は、修正の要求について「別のスタッフから、1月の『歴史修正主義発言』が番組上層部の怒りを買ったことが原因、と聞いた」と語った。それ以降も、コメントをめぐって「何度か摩擦があった」という。

日本テレビは朝日新聞の取材に対し、「番組の制作過程に関する詳細についてはお答えしていない。10月期の番組リニューアルに伴う通常のコメンテーターの交代。交代される方は他にも複数いらっしゃる」としている。(湊彬子、滝沢文那、高久潤)

■メディア不信広がる可能性

こうした出演者の発言をめぐる舞台裏は、以前なら視聴者の目に触れにくかった。碓井広義・上智大教授(メディア文化論)は、ツイッターなどの発信手段が多様化したことで、「番組の制作過程が見えやすくなっている」と指摘する。その一方で、「コメンテーターの発言が局の都合に合わないと『切る』んだな、という思いを視聴者は抱くだろう。メディア不信が広がるのは間違いない」とも語る。

情報番組での意見の幅が狭まることを懸念する声もある。

元共同通信記者で、民放各局に出演する青木理さんは「発言内容に不当な縛りをかけられたことはほとんどない」としつつ、「面倒を避けるために物言うコメンテーターを避ける傾向が強まるかもしれない。当たり障りのないコメンテーターが増えれば、言論空間は閉じていくだけなのではないか」と指摘する。

コメンテーターの起用・降板、発言内容も含めてテレビ局には放送責任があるだけに「組織の論理があるのは現実」(青木氏)だ。事実、テレビ局側は近年ますます、コメンテーターの発言に神経をとがらせているといい、ある民放キー局のディレクターは「論争を生むコメンテーターは番組にとってリスクでしかない。発言内容に口を出すことはないが、人選には気をつかう」と打ち明ける。

碓井教授は情報番組の現状を「単なるまとめサイト化を招いている」と指摘。「以前は情報番組も、もっと独自に取材していたが、いまはネットや週刊誌の話題に飛びついて、井戸端会議をするような傾向が強まっているように思う。それだけに、番組の中での言論や議論の幅が狭まれば、視聴者の利益にもならない。テレビ離れがますます加速するのではないか」とみる。(田玉恵美)

■「ミヤネ屋」でもトラブル

日本テレビ系の午後の情報番組「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)でも今夏、コメンテーターの発言をめぐって騒動があった。

7月25日放送の番組で、元宮城県知事の浅野史郎氏の発言をめぐり、番組のスポンサー(関西エリア)で美容外科を経営する高須克弥氏が反発。ツイッターで「とりあえずミヤネ屋の提供降りるか。詫(わ)びを急いだほうがいいと思うけど・・・」「浅野史郎先生とミヤネ屋さん、今日で全てが決まります」「スポンサー降りて身軽になり、名誉毀損(きそん)と業務妨害で提訴して総攻撃します」などと投稿した。

すると、翌26日の放送で、番組は「浅野さんが裁判の内容を誤解していた。高須院長、視聴者の皆様に誤解を与える放送を行ったことに対しおわび申し上げます」などと述べた。司会の宮根誠司氏は「高須院長、これからも仲良くしていただけますでしょうか」とカメラに呼びかけた。

「おわび」はスポンサーへの配慮だったのか。読売テレビは朝日新聞の取材に「スポンサーであるかどうかは関係ありません。提訴の意向のあるなしも謝罪とは関係ありません」と答えた。「浅野氏は、番組の中で高須クリニックが問題を抱えている美容外科であるかのようにも受け取られる発言をされたが、ご本人にはその意図がなかった」としている。浅野氏は取材に応じなかった。

(朝日新聞 2017年9月9日)

『ひよっこ』 戦後史を生きるヒロイン

2017年09月11日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評



憲法と歩むヒロイン

NHK連続テレビ小説「ひよっこ」が今月末のゴールへと向かっている。始まった当初は「主人公が地味」「話が進まない」といった声も聞こえたが、結果的には名作と言える一本となった。

その最大の功績はヒロインである谷田部みね子(有村架純)の造形にある。ここしばらく続いた実在の人物がモデルやモチーフの「実録路線」とは異なり、あくまでも架空の女性だ。「とと姉ちゃん」のように雑誌を創刊したり、「べっぴんさん」のように子供服メーカーを興したりはしない。

みね子は「何者」でもないかもしれないが、家族や故郷、そして友だちを大切に思いながら懸命に、そして明るく生きている。いわば等身大のヒロインであり、だからこそ応援したくなるのだ。

次が時代設定である。まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。「大阪万国博覧会」(同45年)が象徴する、経済大国へとこの国が変貌していく40年代。そのちょうど境目、東京オリンピックが開催された昭和39年から物語を始めたことも効いている。私たちが何を得て、何を失ってきたのかを感じさせてくれるからだ。

同時にこのドラマでは「タイムトラベル(時間旅行)」の楽しさも味わえた。前述の東京オリンピックにはじまり、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組、そしてツイッギーとミニスカートブームなど、同時代を過ごした人には懐かしく、知らない世代には新鮮なエピソードが並んだ。

また脇役たちが、それぞれ魅力的なキャラクターとして、きちんと描かれていたのも、このドラマの長所だろう。故郷・奥茨城の人たち。ラジオ工場で一緒に働いた「乙女寮」の仲間たち。赤坂「すずふり亭」と「あかね荘」の面々。みんな、今もどこかで生きているような気がする、愛すべき人々である。

東京オリンピックの時に高校3年生だったみね子は、逆算すれば昭和21年生まれだ。この年、日本国憲法が公布された。憲法とみね子は同期生であり、現在は共に71歳ということになる。少しずつ成長しながら周囲を支え、また周囲に支えられてきた姿もどこか重なる。無名のヒロイン・みね子の歩みは、私たちの戦後史そのものだったのだ。

(しんぶん赤旗 2017.09.04)

WOWOW『プラージュ』は、「訳あり」と「おかしみ」が絶妙

2017年09月10日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、WOWOWのドラマ「プラージュ」 について書きました。


週刊テレビ評
WOWOW「プラージュ」 
「訳あり」と「おかしみ」絶妙

この夏、最も見応えがあるドラマは何かと聞かれたら、WOWOW「プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~」(土曜午後10時)と答える。原作は「ストロベリーナイト」などで知られる誉田哲也の同名小説。主演は「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で大ブレークした星野源だ。全5話の放送は今週末の9日に緊迫の最終回を迎える。

主人公は旅行代理店に勤めていた吉村貴生(星野)。酒に酔って、怪しい連中に覚醒剤を打たれてしまう。結局逮捕され、執行猶予付きとはいえ前科1犯に。会社はクビ。住む部屋も失った貴生を受け入れてくれたのが、物語の舞台となるシェアハウス「プラージュ」だ。確かに訳ありばかりが暮らしており、その「訳」こそがこのドラマのキモである。

オーナーの朝田潤子(石田ゆり子)は犯罪がらみで父親を亡くしている。高校時代に傷害致死事件を起こした小池美羽(仲里依紗)は、行きずりの男たちの相手をして稼いでいる。矢部紫織(中村ゆり)にはコカイン所持で逮捕歴がある。親切な弁当屋でアルバイトをしていたが、逃亡中の元カレが訪ねてきたことで店を辞めた。

古着屋で働いている中原通彦(渋川清彦)は恋人を守るため人を殺した過去を持つ。加藤友樹(スガシカオ)は殺人の罪で5年間服役し、現在は再審公判中。その加藤を題材に記事を書くため潜入取材を続けてきた、ライターの野口彰(真島秀和)も住人である。そこに加わったのが、思わぬことから「前科者」となった貴生だ。再就職しようと動いてみて、ハードルが高いことを痛感。今は潤子が営むカフェを手伝っている。

いずれも犯した罪は償っているものの、社会からはみ出してしまった者に対する世間の目は厳しく、普通に暮らすこと自体が難しい。「犯罪者は社会に受け入れられるのか」という重いテーマがこのドラマの根底にある。しかし単に重くて暗いわけではない。星野源ならではの“おかしみ”が絶妙の空気感を生んでいるからだ。

さらに石田ゆり子をはじめ芸達者がそろっており、それぞれが抱える葛藤と複雑な心理が、住人たちとの関係性の中で描かれていく。特に仲里依紗は、幼いころからの過酷な体験が原因で、自分の感情をうまく表現できない女性という難しい役を好演している。

タイトルのプラージュは「海辺」や「浜辺」という意味のフランス語。それは海と陸の境目ではあるが、どこか曖昧だ。思えば人間における「向こう側」と「こちら側」の境界線もまた、あるようでないのかもしれない。

(毎日新聞 2017年9月8日 東京夕刊)

ゴール間近! 朝ドラ『ひよっこ』が描いてきた、「戦後史」としてのヒロイン

2017年09月09日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



半年間親しんできたNHK連続テレビ小説『ひよっこ』が第4コーナーを回り、今月末のゴールへと向かっています。

始まった当初は、「主人公が地味」とか、「話がなかなか進まない」とか、ややネガティブな声も聞こえましたが、結果的には「名作」と言える一本となったと思います。


谷田部みね子という等身大のヒロイン

その最大の功績は、ヒロインである谷田部みね子(有村架純)の造形にありました。ここしばらく続いた、実在の人物がモデルやモチーフの「実録路線」とは異なり、みね子はあくまでも架空の女性です。

みね子は、『とと姉ちゃん』の小橋常子のように雑誌を創刊したり、『べっぴんさん』の坂東すみれのように子供服メーカーを興したりはしません。

茨城から集団就職で上京し、勤めていたトランジスタラジオの工場が閉鎖され、現在は赤坂にある洋食店のホール係をしています。

「何者」でもないかもしれませんが、家族や故郷、そして友だちを大切に思っている、働くことが大好きな、明るい女性です。市井に生きる私たちと変わらない、いわば等身大のヒロイン。いや、だからこそ応援したくなるのです。


時代設定と脇役たちの魅力

次が「時代設定」です。まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。そして、「大阪万国博覧会」(45年)が象徴するように、経済大国へとこの国が変貌していく昭和40年代。

そのちょうど境目、「東京オリンピック」が開催された昭和39年から物語を始めたことも効果的でした。私たちが何を得て、また何を失ってきたのかを感じさせてくれるからです。

同時に、このドラマでは「タイムトラベル(時間旅行)」の楽しさも味わえました。前述の東京オリンピックにはじまり、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組、ツイッギーとミニスカートブーム、そしてヒット曲の数々。同時代を過ごした人には懐かしく、知らない世代にとっては新鮮なエピソードが並んだのです。

また脇役たちが、それぞれ魅力的なキャラクターとして、きちんと描かれていたことも、このドラマの長所でしょう。

故郷・奥茨城の人たち。向島のラジオ工場で一緒に働いた「乙女寮」の女性たち。赤坂の「すずふり亭」と「あかね荘」、そしてご近所の面々。みんな、2017年の現在も元気でいてほしい、愛すべき人々です。


戦後史としてのヒロイン

「東京オリンピック」の時に高校3年生だったみね子は、逆算すれば、「昭和21年生まれ」ということになります。いわゆる、戦後第一世代なんですね。

この昭和21年は、「日本国憲法」が公布された年であり、憲法とみね子は、いわば同期生(笑)。今年は共に71歳です。戦後に誕生し、少しずつ成長しながら周囲を支え、また周囲に支えられてきた姿も、どこか重なるものがあるのではないでしょうか。

このところ、憲法のほうは結構大変なことになっていますが、71歳のみね子、どんな女性になっているのか、気になります。何しろ、無名のヒロイン・みね子の歩みは、私たちの「戦後史」そのものだったのですから。


ヤフー!ニュース連載「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

24時間パロディも  Eテレ「バリバラ」が伝えた障害者の本音

2017年09月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載中のコラム「TV見るべきものは!」。

今週は、Eテレ「バリバラ」について書きました。


Eテレ「バリバラ」
「VSじゃなく、withですから」

今年も「24時間テレビ・愛は地球を救う」(日本テレビ系)が放送された。例によって義足の少女が槍ケ岳に登ったり、耳の不自由な子供たちがマリンバの合奏をしたり。さらにブルゾンちえみの「感動のゴール」もあって、番組終了時の募金総額は約1億2902万円。いや、大したものだ。

巨大特番がフィナーレに向かう中、Eテレではレギュラー番組の「バリバラ」が生放送されていた。出演者たちは、胸に「笑いは地球を救う」の文字が躍る黄色いTシャツ姿だ。司会の山本シュウが笑いながらクギを刺す。「(24時間テレビとは)VSじゃなく、withですから」。

VTRも傑作だった。「障害者の夢を実現し感動を分かち合う」という「24時間」風の企画だ。たとえば「山に登りたい」と語る脳性マヒの男性が、山の麓まで連れて行かれ、「さあ、どうぞ」と促される。身動きできない男性は、「頂上から景色を見たかっただけなのに~」と嘆き、「障害者が頑張ってるのを見て面白いですかあ?」と問いかけていた。

スタジオでは、「本人に、したいこと、したくないことを聞こうよ」といった障害者たちの本音が続出。「やってあげる」ではなく、「一緒に」が大事なのだとわかった。まさに「バリバラ」の精神だ。来年もぜひ、熱い“裏番組”を。もちろんVSじゃなく、withで!

(日刊ゲンダイ 2017年9月6日)

この夏の”企画賞”ドラマと、”熱演賞”俳優

2017年09月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ下北沢ダイハード」と「香川照之の昆虫すごいぜ!」について書きました。


この夏の企画賞「下北沢ダイハード」
熱演賞は「昆虫すごいぜ!」の香川照之

「下北沢ダイハード」(テレビ東京―TVH)は、今期ドラマの“企画賞”だ。描かれるのは、演劇の街・下北沢を舞台にした「人生最悪の一日」。脚本は小劇場の人気劇作家11人による書き下ろし。いわば深夜に開催された「小劇場フェスティバル」である。

たとえば、「裸で誘拐された男」の脚本は演劇チーム「TAIYO MAGIC FILM」の西条みつとし。SM趣味の国会議員(神保悟志)が、女王様(柳ゆり菜)の命令で全裸のままトランクに詰め込まれる。しかも手違いのため、トランクが紛れ込んだのは「誘拐事件」の現場だった。「こんな姿で文春にでも出たらアウトだあ」とあせりまくる国会議員がおかしかった。

また「違法風俗店の男」の脚本・演出は、ユニット「男子はだまってなさいよ!」の細川徹だ。俳優の光石研がドラマの中で「俳優・光石研」を演じる仕掛け。公演前に入った風俗店で、警察の手入れに遭遇する。脳内をテレビ番組「実録 警察庁24時!」の映像が駆け巡った光石は、起死回生のアドリブ勝負に出る。

劇団「東京サンシャインボーイズ」の三谷幸喜、劇団「大人計画」の工藤官九郎など、演劇人であると同時に、ドラマの優れた書き手でもある人たちがいる。今回参集した11人の「劇作家」の中から、第2、第3の三谷幸喜やクドカンが出てくるかもしれない。


この夏の“熱演賞”は、不定期放送のEテレ「香川照之の昆虫すごいぜ!」である。元・昆虫少年の香川がカマキリの着ぐるみ(その監修も香川自身)を着用して「カマキリ先生」となり、原っぱや河川敷で昆虫採集にまい進する。子供向け番組とは思えない、想像を超えるインパクトがあった。

以前の「モンシロチョウ」編でも、まるで座頭市の仕込み杖のような速さで捕虫網を切り
返し、次々と捕獲していった香川。チョウの腹を指でそっと押さえ、「この伝わるチカラ
がたまらない」と子供のように感動していた。香川、実にいいヤツである。

そして最新作のテーマは「タガメ」だ。きれいな水にしか生息しないにもかかわらず、小魚やカエルを食べる、どう猛なタガメ。香川はタガメを殺人犯に、自らをタガメ捜査一課長に見立て、全国の子供たちの助けを借りて大追跡を敢行する。

結局、4時間をかけて全長7センチの大物を「現行犯逮捕」した。最後は疲労で声も出ず、腰が痛いと正直に告白する51歳の名優。いいヤツな上に、すごいぜ!香川。 

(北海道新聞 2017年09月05日) 

日経MJに書いた、女優・清野菜名(せいのなな)さんのこと

2017年09月06日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、DODA〔デューダ〕「それぞれの転職」篇について書きました。


DODA「それぞれの転職」篇
注目の若手女優 はつらつと好演

あるテレビ局の役員と雑談中、「最近注目している若手女優は?」と聞かれた。とっさに挙げたのが清野菜名(せいのなな)さんだ。

昨年、ミツカンのCMで唐沢寿明さんと共演。メガネをかけた店員役で、爽やかな笑顔が印象に残った。

次に目を引いたのは映画『暗黒女子』だ。表向きの明るさとは異なり、心に闇を抱える早熟な女子高生を好演した。

また放送中のドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)では、石坂浩二さん演じる脚本家と、かつて恋愛関係にあった新進女優とその孫娘の二役に挑んだ。

そしてこの秋から、同じ枠の『トットちゃん』で、あの黒柳徹子さんを演じることになっている。まさに旬の女優だ。

DODAの新作CM「それぞれの転職」篇では、真剣に転職を考えるOLさんに扮している。目指しているのは「もっと自分を活かせる会社」。

そのはつらつとした姿に、ステップアップを続ける清野さん本人が重なって見える。

(日経MJ「CM裏表」 2017.09.04)