碓井広義ブログ

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Nスペ「オンラインカジノ」の衝撃

2024年07月15日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<MediaNOW!>

Nスペ「オンラインカジノ」の衝撃 

「スマホの奥の闇」暴いた調査報道

 

衝撃的なドキュメンタリーを見た。6月29日放送のNHKスペシャル「調査報道 新世紀 File4 オンラインカジノ 底知れぬ闇」だ。

オンラインカジノ(略称オンカジ)は、インターネット上に開設された賭博場である。スマートフォンで簡単にアクセスできるが、刑法の賭博罪に当たる「違法ギャンブル」だ。

推計では日本の利用者は数百万人。ギャンブル依存症を発症して多額の借金を背負う人が後を絶たないという。

番組には1500万円もの負債を抱えた男性が登場した。妻と2人の子どもを持つ大手企業の正社員だったが、暇つぶしでアクセスしたオンカジにのめり込む。どうしてもやめられず、仕事中もスマホをいじって賭け続けた。

クレジットカードを使い切り、消費者金融からも借金。やがて仕事を失い、自宅を売却し、家族もバラバラになってしまった。番組はギャンブル依存症の当事者や家族を支援する専門家に密着しながら、「スマホの奥の闇」を探っていく。

オンカジの多くが海外で運営されている。取材班は、地中海にあるマルタ共和国で日本の若者たちがオンカジの仕事に就いていることを知り、現地へと飛ぶ。

日本では違法に当たるオンカジ。その深層に迫るため、弁護士と相談の上で、隠しカメラを使った「潜入取材」に踏み切った。

オンカジのディーラーである日本人女性によれば、約80人の日本人が24時間、交代制で日本の利用者と会話しながらギャンブルの相手をしている。

だが、この会社はカジノ自体を運営していない。ディーラーたちの映像を「依頼主」に提供しているに過ぎないという。

取材班はさらに、依頼主と思われる会社で働いていた日本人女性にたどり着く。

数字や結果をランダムに生成する「RNG(ランダム・ナンバー・ジェネレーター)」というシステムがある。彼女がいた会社は「公平なゲームをRNGが保障する」と喧伝(けんでん)するが、実際には「調節」が行われていると打ち明けた。

勝ち負けがコントロールされているなら、オンカジはもはやギャンブルですらない。それが人間を破滅させているのだ。

注目すべきテーマを設定し、その取材過程も含めて伝えていくのが「調査報道」なら、この番組は王道とも言える一本だ。

国境の壁を越えた大胆な潜入取材も効果的だった。見る側は通常では垣間見ることもできない世界に触れ、スマホの向こう側の実態を知ることができたのだ。

番組は取材の継続を宣言している。大きな関心を持って次の報告を待ちたい。

(毎日新聞 2024.07.13夕刊)

 


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