ドラマ「セクシー田中さん」プロデューサー
もっと調整必要だったのでは
昨年の秋クールに放送されたドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ系)。派遣社員の朱里(生見愛瑠)は、会社の同僚、田中京子(木南晴夏)の秘密を知る。仕事は完璧で、見た目は地味で暗いが、セクシーなベリーダンサーという別の顔を持っていた。
田中が言う。「ベリーダンスに正解はない。自分で考えて、自分で探すしかない。私は自分の足を地にしっかりつけて生きたかった。だから、ベリーダンスなんです」。それは彼女が自分を解放する魔法だったのだ。
朱里は誰からも好かれるが、特定の誰かに「本当に好かれた」という実感がない。また不安定な派遣の仕事を続ける中で、リスク回避ばかりを意識してきた。他人にどう思われようと気にしない田中さんと出会ったことで、朱里は徐々に変わっていく。
このドラマは2人の女性の成長物語として秀逸だった。ところが、原作者の漫画家・芦原妃名子さんは脚本の内容に違和感を覚え、最後の2話の脚本を自ら書いていたと明らかにした。そして経緯をSNSで説明した後、亡くなってしまう。
これに対し、日本テレビは番組サイトで「映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております」と説明。
出版元の小学館は「編集者一同」名義で、「個人に責任を負わせるのではなく、組織として今回の検証を引き続き行って参ります」とコメントを発表した。
ドラマの根幹は「どんな人物が何をするのか」にある。小説や漫画など原作があるものは、創造の核となる部分を原作から借りていることになる。特に漫画原作はビジュアルのイメージが既に完成している場合が多い。
難しいのは、原作をそのまま脚本化すればいいドラマになる、とは限らないところだ。制作サイドは通常、さまざまな要素を考慮し、ドラマ的なアレンジを加える。
芦原さんは日本テレビに対し、ドラマ化の条件として「漫画に忠実」であることを提示し了承を得ていたというが、思うように進まなかったようだ。
いずれにせよ、原作者である漫画家が脚本を執筆する事態になったことは極めて異例だ。やはり、ドラマの責任者であるプロデューサーが、原作者と脚本家の間に立ってもっと丁寧に調整する作業が必要だったのではないか。日本テレビの正確な経緯の公表を待ちたい。
(毎日新聞 2024.02.17 夕刊)