碓井広義ブログ

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「新プロジェクトX~挑戦者たち~」 番組「復活」の難しさ 

2024年06月24日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評

 

 

番組「復活」の難しさ

 

NHKの「プロジェクトX~挑戦者たち~」がスタートしたのは2000年3月。2005年12月に終了するまで200本近くが放送された。

中には録画機器のVHS開発を描いた「窓際族が世界規格を作った」や、黒部渓谷に膨大な資材を運び上げた「厳冬 黒四ダムに挑む」など、今も記憶に残る作品がある。

当時、あの番組が人気を得たのは、実に分かりやすい成功物語だったからだ。取り組むべき困難な仕事があり、当事者たちは努力を重ねて見事に達成していく。

しかし、そこには「分かりやすさ」と「感動」を優先することの危うさもあった。一つはプロジェクトの「リーダー」に重点を置いていたことだ。

傑出したリーダーの存在は、成功物語にとって有効かもしれない。だが、多くの人間が携わった取り組みが、一人のヒーローの功績に矮小化される恐れもある。

また安易な分かりやすさは単純化につながる。ストーリーを複雑にする情報を排除したことで、内容の矛盾や事実誤認を指摘された例も少なくなかったのだ。

今年4月、「新プロジェクトX~挑戦者たち~」が始まった。約20年ぶりの復活である。

これまでに東京スカイツリーの建設、カメラ付き携帯電話や電気自動車の開発、三陸鉄道の復旧などが取り上げられてきた。

そして今月16日に放送されたのが、「世界最速へ技術者たちの頭脳戦~スーパーコンピューター『京(けい)』~」だ。

かつては世界を席巻しながら、2000年代に風前のともし火となった国産スパコン。国の産業の競争力にかかわる国家プロジェクトとして開発されたのが「京」だった。

主な舞台は富士通。コンピューターの演算や制御の中心であるCPUや、そのCPUをつなぐインターコネクトの設計者たちが登場する。

中でも「6次元のインターコネクト」というアイデアを実現するエンジニアの挑戦は見応えがあった。

番組は一人のリーダーに集中することなく、また単純な感動物語にもなっていない。

ただ残念だったのは、総開発費1120億円の「国家プロジェクト」が、一企業の開発秘話に見えたことだ。共同開発における国との関係性、その課題や問題点も明かして欲しかった。

(しんぶん赤旗「波動」2024.06.20)

 


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