碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【書評した本】 『にっぽんアニメ創生記』

2020年04月06日 | 書評した本たち

 

“ブルドッグと猪狩り”だった

日本製商業アニメの第一号

 

『にっぽんアニメ創生記』

 渡辺泰、松本夏樹、フレデリック・S・リッテン、中川譲

集英社 2860円

 愛読している雑誌の一つに『芸術新潮』がある。過去、一番驚いたのは20179月号の表紙だ。テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する、エヴァ初号機だったのだ。「芸新がアニメを特集する時代なんだなあ」と嬉しく思ったことを覚えている。

特に批評家30人が選んだ「日本アニメ ベスト10」が興味深かった。ちなみにトップ3は、『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』だ。

 そもそも、なぜこの特集が組まれたのか。それは国産アニメの劇場公開から100年の節目だったからだ。では、1917年に誕生した「日本製商業アニメーション映画」の第1号とは何なのか。また創ったのは誰で、どんな内容だったのか。本書はそうした問いに答えるべく、国産アニメの「起源」を探っている。

その作品のタイトルは『凸坊新畫帖(でこぼうしんがちょう) 芋助猪狩(いもすけししがり)の巻』で、制作者は下川凹天(「へこてん」もしくは「おうてん」)。

ただしフィルムの断片もスチール写真も残っていない。原作と思われる6コマ漫画では、主人公である芋川椋三が、ブルドッグを連れて猪狩りに行く。椋三は獲物をシシ鍋にして食べ、ケガをした犬には骨1本を与える。当然、犬は椋三に愛想をつかして、といった内容だ。

本書には3人の執筆者の論考が独立して並んでいる。アニメーション研究家の渡辺は、前述の下川をはじめとする3人のパイオニアの軌跡をたどる。

映像文化史研究家の松本は、現存する最古のアニメフィルム『なまくら刀』の発見とその意味について考察。そして近・現代史研究家のリッテンは日本のアニメ創生期を細かく分析し、下川たちの取り組みに対して冷静な評価を与えていく。全体として、日本のアニメの起源を複眼的に捉える構成となった。

物事の「始まり」を検証することで、「現在」の認識や、「これから」の展望がより豊かなものになるはずだ。本書の価値もそこにある。

 週刊新潮 2020年4月2日号


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