“ブルドッグと猪狩り”だった
日本製商業アニメの第一号
『にっぽんアニメ創生記』
渡辺泰、松本夏樹、フレデリック・S・リッテン、中川譲
集英社 2860円
愛読している雑誌の一つに『芸術新潮』がある。過去、一番驚いたのは2017年9月号の表紙だ。テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する、エヴァ初号機だったのだ。「芸新がアニメを特集する時代なんだなあ」と嬉しく思ったことを覚えている。
特に批評家30人が選んだ「日本アニメ ベスト10」が興味深かった。ちなみにトップ3は、『新世紀エヴァンゲリオン』『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』だ。
そもそも、なぜこの特集が組まれたのか。それは国産アニメの劇場公開から100年の節目だったからだ。では、1917年に誕生した「日本製商業アニメーション映画」の第1号とは何なのか。また創ったのは誰で、どんな内容だったのか。本書はそうした問いに答えるべく、国産アニメの「起源」を探っている。
その作品のタイトルは『凸坊新畫帖(でこぼうしんがちょう) 芋助猪狩(いもすけししがり)の巻』で、制作者は下川凹天(「へこてん」もしくは「おうてん」)。
ただしフィルムの断片もスチール写真も残っていない。原作と思われる6コマ漫画では、主人公である芋川椋三が、ブルドッグを連れて猪狩りに行く。椋三は獲物をシシ鍋にして食べ、ケガをした犬には骨1本を与える。当然、犬は椋三に愛想をつかして、といった内容だ。
本書には3人の執筆者の論考が独立して並んでいる。アニメーション研究家の渡辺は、前述の下川をはじめとする3人のパイオニアの軌跡をたどる。
映像文化史研究家の松本は、現存する最古のアニメフィルム『なまくら刀』の発見とその意味について考察。そして近・現代史研究家のリッテンは日本のアニメ創生期を細かく分析し、下川たちの取り組みに対して冷静な評価を与えていく。全体として、日本のアニメの起源を複眼的に捉える構成となった。
物事の「始まり」を検証することで、「現在」の認識や、「これから」の展望がより豊かなものになるはずだ。本書の価値もそこにある。
(週刊新潮 2020年4月2日号)