碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2023】7月後期の書評から 

2023年10月22日 | 書評した本たち

紅葉が進む、庭のもみじ

 

 

【新刊書評2023】

週刊新潮に寄稿した

2023年7月後期の書評から

 

 

コロナ・ブックス編集部:編『詩人 吉原幸子~愛について』

平凡社 2420円

昨年が生誕90年&没後20年の節目だった吉原幸子。東大仏文科を卒業後、劇団四季の女優を経て詩人となった。本書は彼女の軌跡を作品と解説で辿る構成の一冊だ。詩集『昼顔』収録の代表作「共犯」も読むことができる。「重大な個人的経験」にかかわる作品だ。また吉原は自身の詩が「人生へのラブレター」から「遺書のようなもの」へと変化してきたと言う。それを確かめるのもスリリングだ。(2023.06.23発行)

 

藤田直央『徹底検証 沖縄密約~新文書から浮かぶ実像』

朝日新聞出版 1650円

沖縄返還から約半世紀。その合意が為された際、米国の核兵器を沖縄に持ち込む「密約」があったことは広く知られている。朝日新聞編集委員の著者が見つけたのは、密約に関する新たな文書だ。それは当時佐藤栄作首相の密使を務めた、国際政治学者・若泉敬によるもので、「若泉文書」と呼ばれる。中でも核密約に至る工程を記した「シナリオ」の存在に驚かされる。(2023.06.25発行)

 

財津和夫『じじいは蜜の味』

中央公論新社 1650円

1970年代半ばに『青春の影』『サボテンの花』などを歌っていた著者は現在75歳。癌治療を経験した後もマイペースで音楽活動を続けている。新聞に寄稿したエッセイが一冊になった。バンド結成からデビュー、そしてヒットメーカーへという「チューリップ」を巡る回想もさることながら、「年寄りは弱者だが惨めではない」と言い切る、中期高齢者としての“生活と意見”がすこぶる刺激的だ。(2023.06.25発行)

 

嵯峨景子『氷室冴子とその時代 増補版』

河出書房新社 2640円

氷室冴子は1980~90年代にかけて活躍した作家だ。少女小説『なんて素敵にジャパネスク』シリーズで「コバルト文庫」の看板作となった。2008年に51歳で亡くなった氷室だが、これまで正当な評価を受けてきたとはいえない。本書はいわば復権を目指す本格評伝だ。作品の分析はもちろん、少女小説家としての葛藤や一般小説への挑戦など、資料調査と取材を足場に作家の内面に迫っている。(2023.06.30発行)

 

二階堂 尚

『欲望という名の音楽~狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ

草思社 2640円

著者は言う。戦争、売春、ドラッグ、酒、犯罪、人種差別などを人間の〈業〉とするなら、ジャズとは業の結晶であり、その歴史は業の歴史であると。本書はジャズの軌跡を辿ることで掘り下げる、日米の20世紀裏面史だ。狂騒の1920年代。モダンジャズとフランク・シナトラ。占領期、表裏の関係だったジャズと国策売春。そしてクレージーキャッツと美空ひばり。“ジャズより他に神はなし”だ。(2023.07.05発行)

 

佐藤 圭『佐藤圭写真集 秘密の絶景in北海道』

講談社ビーシー 2640円

ダイナミックにして繊細。それは著者が撮る写真と北海道の風景の両方に当てはまる言葉だ。著者の故郷、留萌の海の壮絶な夕景。秋の大雪山が披露する色彩マジック。サロベツ原野から見た利尻富士の威容。さらにオオワシやエゾシマリスなど動物たちの生きる姿にも見入ってしまう。いずれも、そこに行きさえすれば見られる風景ではない。写真家の眼と感性が生み出した、もう一つの北海道だ。(2023.07.11発行)

 


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