碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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『人間ドキュメント・夏目雅子物語』と伊集院静さんのこと

2010年09月08日 | テレビ・ラジオ・メディア

発売中の「週刊現代」(9月18日号)で、作家の伊集院静さんが夏目雅子について書いている。

「感涙スクープ8ページ あれから25年 伊集院静氏が初めて書く」とあり、タイトルは「妻・夏目雅子と暮らした日々」。

本文中で伊集院さん自身が書いているように、伊集院さんはこれまで夏目雅子に関する文章をほとんど書いてこなかった。だから「スクープ」なのだ。

雅子との出会いから結婚。雅子の闘病と死。そして残された後の自分こと等々、伊集院さんの側から初めて語る内容である。

読了して、最初に感じたのは、「ああ、夏目雅子が亡くなって、もう25年が経つんだなあ」ということだった。

同時に、17年前の、あるシーンを思い出した。

17年前、1993年の秋、私たちは日比谷の帝国ホテルのロビーで伊集院さんを待っていた。

私たちというのは、プロデューサーの私と、演出の加藤義人(現在、テレビマンユニオン社長)。

2人は、その年の12月にフジテレビで放送する予定の『人間ドキュメント・夏目雅子物語』に関して、伊集院さんの許諾を得ようとしていたのだ。

『夏目雅子物語』は、私たちにとって“同時代のヒロイン”だった夏目雅子の生涯を、ドラマとドキュメンタリーを融合させながら描こうという企画だった。

約束の時間となり、ふと周囲を見回すと、通路の奥の方から伊集院さんが歩いてくるのが見えた。

写真などで見るより背が高く、ノーネクタイのワイシャツにジャケットというラフなスタイルが、またカッコよかった。

ソファに移動した後、伊集院さんは、私たちの「今、なぜ夏目雅子をドキュメンタリードラマの形で描きたいか」という思いを、じっと聞いてくださった。

聞き終って、しばし沈黙。

もしかしたら断られるかな、と不安になった直後、伊集院さんが「わかりました。お任せします」と言った。

こちらは、内心安堵したが、伊集院さんは「ただし、条件があります」と続けた。

また、一瞬沈黙。こちらは緊張。

そして、「私のことを、カッコよく描かないでください」。

え?

「ドラマとはいえ、当時の私を颯爽とした人物にしないでください。実際にはそうじゃないし、照れくさいので」と、伊集院さんは少し笑いながら言う。

その様子が、また文句なくカッコよかった(笑)。やはり、あの夏目雅子が惚れた男だと思った。

後日、『夏目雅子物語』の制作に取り掛かったが、画面に登場する伊集院さんは、ほとんどが後ろ姿だ。台詞も最小限にした。

しかし、そんなふうに描いても、夏目雅子が命がけで惚れた伊集院静は、ドラマの中でもやはりカッコよかったのだった。



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