碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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『ハート・ロッカー』は苦味の効いた佳作

2010年03月20日 | 映画・ビデオ・映像

映画『ハート・ロッカー』を観た。

アカデミー賞を6部門も受賞したことで、キャスリン・ビグロー監督の名前も知れ渡った。

米軍爆発物処理班の活動を通じて、イラク戦争を描いた作品だ。

舞台はバグダッドとその郊外。

まず、作品全体の臨場感、リアル感に感心する。

もちろん映画であり、創作物なのだが、緊迫の“現場”に居合わせているような気分なのだ。

ほんのわずかな手先の狂いで、自分も爆死してしまうかもしれない過酷な任務。

普通の神経では、それこそ「やってられない」作業を遂行する兵士たち。

爆発物は、それこそ無数にあるが、彼らの命は一つきりだ。

その狂気と紙一重みたいなヒリヒリする日常を、カメラは追い続ける。

中でも、ジェレミー・レナー演ずるジェームズ2等軍曹の、死を恐れていないかのような、無謀とも傲慢とも見える仕事ぶりは圧巻。

映画冒頭に出てくる言葉、「戦場は麻薬である」を思い出した。

また、映画評論家・鷲巣義明さんの「単なるアクションでも、ドラマでもない」という言い方も、いろんな意味で正しい。

単なるアクション映画にも、単なるドラマにも出来ないのが、イラク戦争の実体なのかもしれない。

そして、この作品に、アカデミー賞の作品賞も監督賞も渡さずにはいられないのが、現在のアメリカにとってのイラク戦争なのだろう。

観終わって、独特の“苦味”が残った。

この苦味もまた映画が与えてくれる貴重な体験なのだ。

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