渡辺武著 わかりやすい漢方薬
第二章 漢方薬はどう診断するか
5 肝腎の解毒と利尿作用
五臓六腑には該当薬がある
このお釈迦さまの像は国宝で、背中から五臓六腑の袋が出てきたからといって、中を開いて見るわけにはいきません。
そこでその袋の中味を、人文科学研究所の依頼で私が調べることになったのです。
中味を調べてみると、肝臓の中には肝臓の薬、腎臓の中には腎臓の薬が入っていました。
すでにその当時、肝腎の思想―一番大事で腐ったら困るという考え方があったのです。
心臓には水晶が入っていると書いてあり、これはレントゲンですぐわかりますが、薬は植物性で、レントゲンが透き通ってわかりません。
結局、膀胱鏡を使って袋の糸と糸のスキ間から中を鏡に写して調査したわけです。
その結果、腎臓には〝ビャクダン〟といわれる膀胱の尿や蛋白質の腐敗発酵を防ぐ薬、肝臓には〝ジンコウ〟という肝臓の機能や解毒を助ける薬が入っていました。
腸は悪くなると白色便になるので細長い白いヒモ、肺も白
、
肝臓が炎症を起すと青筋が立ってきて、眼が青くなるので青
、
胃は黄色
といった、漢方薬の薬味の分類による色にしてありました。
この分類は理屈ではありません。
科学的に非常に精密な植物科学、生物科学といった方がいいかもしれないほど、すぐれた分類です。
いわば自然の論理にぴったりしているのです。
病気を色でいろいろ分類して該当薬を決める、千年前にこうした符号で示していたわけです。
薬性と薬味で胃や腸がどこにあるかは、その当時からわかっていたわけですから、それから千年経って現代の漢方薬では、胃が悪ければ、胃だけの薬では素人芸、胃から腸が弱ってくるし、腎臓まで関係した処方が的確に決まっているのです。
漢方薬は薬味、薬性だけでなく、五臓六腑の相関関係で処方を構成します。
親だけではなく、親が悪かったら子や孫の、場合によったらおじちゃんの力も借りるという相関関係が処方のコツなのです。
ところが、今までの胃の薬というのは、胃なら胃だけ、腸の悪い人は腸だけという薬を飲んできました。
動物性の肉類を食べて炎症を起しやすくなり、カッカするのを抑えていたのです。
これが中和ということですが、あまり薬を飲み続けると、循環するものが逆循環を起してきます。
早い話、甘いものばかり食べていると小便が出なくなります。
甘いものは結局は炭酸ガスと水になるものです。
そうすると腸で停滞が起こってきます。
塩を食べたら水は出せますが、心臓を痛めつけます、そこで、心臓の薬は苦い薬ですから酸苦甘辛鹹の五角形の循環を逆循環させ、塩分と心臓の薬を与えて小便を出します。
そうすると心臓も痛めなくてちゃんと中和するわけです。
これを食べ物でお話すると、一番わかりがよいでしょう。
食べ物の味覚は薬のもとなのです。
すっぱすぎたらどうするか、甘みを入れれば中和します。
辛すぎたらどうするか、すっぱいもので緩和します。
甘すぎたら塩をちょっと入れればいい。これが薬味という処方の基本になるのです。
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