
「火水未済」の各爻は、前半は混乱した時で要注意、後半は安定に向かう。
「初六、其の尾を濡らす。吝。」
初六は、身分の低い陽位にいる陰爻。能力才能はない。全体に未完成の時なので、軽挙妄動は慎まねばならない。なのに、進んで行こうとしたが、失敗した。残念だ。ここは、この卦の卦辞「未済(びせい)は亨る。小狐汔(ほとん)ど済(わた)らんとし、其の尾を濡らす。利しき攸无し。」の示す通りになっている。
「九二、其の輪を曳く。貞にして吉。」
九二は、中徳を備えた陰位にいる陽爻。軽挙妄動を戒めている。周囲が進もうとする車の車輪を、「未だ早い」とブレーキをかけている。正しい考えを貫けば吉である。この爻は、「水火既済」の初九と同様である。
「六三、未だ済(わた)らず。征くは凶。大川を渉るに利し。」
六三は、中徳を備えていない陽位にいる陰爻。軽挙妄動の爻である。「未だ済(わた)らず。征くは凶。」むやみに進んではいけない時であるので、進まずにいる。進むのは凶である。「大川を渉るに利し」冒険しても良いというのだが、「征くは凶」の後にこれはないと思われる。間違いだとの説もあるが、間違いでないとすると、考えられるのは、六三には上九に正しく応じている。九二にも九四にも正しく比している。そこで、その賢人たちを信頼して、進むならば、大川を渡るような大仕事をやることも可能かもしれない。
「九四、貞にして吉。悔亡ぶ。震して用って鬼方を伐つ。三年にして大國に賞有り。」
九四は、中徳を備えていない陰位にいる陽爻。能力才能ある大臣、六五の信任も得ている。未完成の時であるが、後半になり世は治まろうとしている。そこで、九四は、懸案の夷狄を伐つことになった。それが、「震して用って鬼方を伐つ」である。三年要したが、征伐に成功し、「三年にして大國に賞有り」大きな領地を賞与として賜った。この卦は、前の「水火既済」の続きになっており、比較すると理解できる。因みに「水火既済」の九三は、「九三、高宗(こうそう)、鬼方(きほう)を伐つ。三年にして之に克つ。小人は用ふる勿れ。」であった。この時は安定時の終わりであったが、今回の征伐は、安定が始まるのである。
「六五、貞にして吉。悔无し。君子の光なり。孚有り、吉。」
六五は、中徳を備えた陽位にいる陰爻。天子の位である。未完成の時が再び完成に向かう。爻辞としては最大の誉め言葉になっている。「君子の光なり」君子の徳が光輝いて天下に行きわたるのである。これ以上の吉はないだろう。
「上九、酒を飲むに孚有り。咎无し。其の首(こうべ)を濡らせば、孚有れども是を失ふ。」
上九は、中徳を備えていない陰位にいる陽爻。引退した天子である。世の中は治まり平穏である。昔を振り返って、酒を飲んでいる。もちろん咎はないが、あまり気をゆるめ、飲み過ぎには注意しなさいよ。「其の首(こうべ)を濡らせば、孚有れども是を失ふ」狐が羽目をはずしてずぶぬれになった様になったら、みっともないですよ。これで。六十四卦の解説は終りです。長い旅へのお付き合いありがとうございました。