「初九、郊(こう)に需(ま)つ。恒を用ふるに利し。咎无し。」
初九は未だ身分も低く、要職にはついていない。険難からは遠ざかっている立場である。そういう者は平常心を忘れずにいることである。そうすれば、何の咎めはないだろう。孔子の解説によれば、「難を犯して行かざるなり。」とある。わざわざ、険難の中に入っていこうとしないことだ。
「九二、沙(すな)に需つ。小しく言有り。終に吉。」
九二は武士の立場で中を得た陽爻である。険難(水)には少し近いが、じっと需つべきである。少し非難されることはあっても、事なきを得るだろう。「沙(すな)に需つ。」とは河の砂地という意味だが、現場にいるという意味である。
「九三、泥に需つ。寇の至るを致す。」
九三は「泥に需つ。」険難(水)の間近にいる。位置は危険な位で陽爻であるので、つい行動に出てしまう。そこで、「寇の至るを致す。」禍を招くことになった。自ら招いたものである。
「六四、血に需つ。穴より出づ。」
六四は危険な位であるが、陰爻としての位置にある。「血に需つ。穴より出づ。」それ故に険難の最中にはあるが、幸運にも危険から脱出出来た。初九に応じているし、九五とは比している。そのお陰でもある。
「九五、酒食(しゅし)に需つ。貞にして吉。」
この卦の主爻である。卦辞に「需は孚有り。光に亨る。貞にして吉。大川を渉るに利し。」とあったが、この九五のことである。険難の中にあるが、陽爻として位正しく、中を得ている。「酒食(しゅし)に需つ。」険難の中にいるにしては、意外な言葉ではあるが、この九五は周りの仲間を信じて、心を落ち着かせ、ゆったりと需つことにしたのである。そこで、酒を飲み、食べ物を食べながら、毅然としている。それが「貞にして吉。」となる。
「上六、穴に入(い)る。速(まね)かざるの客三人来る有り。之を敬すれば終に吉。」
上六は坎(水)の卦の上爻。「穴に入(い)る。」穴は艱難のこと。穴の中に陥っている。「速(まね)かざるの客三人来る有り。」そこに、上六を救い出そうと、3人の客がやって来る。3人の客とは、初九、九二、九三のことである。特に、九三は陽爻どうしで正応ではないが応じている。その3人の客を敬するならば、救われるだろう。「之を敬すれば終に吉。」である。上六は穴の中に窮まっていた。易には、「窮まれば則ち変ず。変ずれば則ち通ず。」(繋辞伝)
全体を通して、この「水天需」が教えることは、待つことの大切さ。時期を待つことが出来ず、軽挙妄動して失敗しないようにすることである。
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