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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

キライなことば勢揃い

2024-04-03 18:56:29 | 読んだ本
高島俊男 2004年 文春文庫版
「お言葉ですが…(5)」ということで、前に読んだ『広辞苑の神話』につづくもの、先月に古本買い求めて、わりとすぐ読んだんだが、前作読んでからだいぶ間隔あいたのは、私が多少飽きたからってのはあるかもしれない。
初出は「週刊文春」の1999年から2000年ころで、単行本は2001年だという、シリーズも5冊めになると、巻末あとがきに「読者の皆様のお手紙がたより」なんて言って、本文中に56人からの手紙を引用したなんて振りかえってあるんで、わからんことあったら読者が教えてくれっかもしれないって姿勢がやや感じられる。
タイトルの「キライなことば勢揃い」ってのは、誰でも嫌いな言葉はあるだろって話題で、「体調をくずす」とか「慎重」とか「ふれあい」とかが気色悪いとやっつけたとこで、読者からもキライなことばを募りますよと企画にしちゃったら多く寄せられたという。
数の多かったのは、「させていただきます」とか「じゃないですか」とか「あげる」とか「いやす」とか「な」だというんだけど、「あげる」への考察がいいねえ。
>「あげる」を変なふうに使う人、これはもうハッキリ、ことばに対する感覚がにぶい人ですね。
>〈こどもの勉強をみてやる〉
>これはだれのこどもと言わなくても自分のこどもにきまっている。(略)
>〈こどもの勉強をみてあげる〉
>これはよその子である。(略)
>「やる」と「あげる」とのちがいは、上下関係ではなく距離のちがいである。だから、「おふくろにみやげを買って帰ってやる」(略)のごとく、ちかければ親でも「やる」である。「あげる」では他人になってしまう。
>日本語に主格や所有格がたいてい不要なのは、動詞のちがいで区別がつくからである。「申しておりました」と言えば主語は身内、「おっしゃっていました」なら他人だ。「やる」「あげる」の関係も同じ。このちがいがわからない人というのは、ほとんど日本人とも思えぬ。(p.72-73)
ということ。
いま引用してても思ったんだけど、ひらがなでの表記が多いな、前に読んだもののなかでも、いわゆる正しい漢字を使えなんて言うつもりはない、大和言葉はかなで書いたほうがいい、みたいなこと主張してたと思うけど、本書のなかでも文字とその読みについてとりあげてるとこがあって、おもしろい。
新聞の見出しに「何処に」って字がある例をあげて、これは「ドコに」と「イヅコに」とどちらが正しいでしょうか、と出題しといて、どちらでもOKなんだという。
>こういうばあい、「これが正しいよみ」と一つにきめつけて他を排除する態度は、それこそがまちがいである。日本語の書きことばには、そういうユウヅウムゲなところがあるのですね。文字が意味をあらわしているからよみは複数あってもいいのだ。
>「いやそれじゃ困る」というのは、幼児的、あるいは文部省的発想である。(略)
>戦後某文庫のたぐいが、戦前の文章に勝手に手をくわえて出す。その際むやみにふりがなをつける。あれは実によろしくない。第一に、よみを一つに限定して読者に強要する押しつけがましさ。第二に、どんなばあいも正しいよみが一つだけあると頭から思いこんでいる愚かさ。二重に不快である。(p.170-171)
っていうんで、唯一の正解をあてないとテストで丸がもらえないって性分で育ってきちゃった私なんかは目からウロコである。
難しい言葉つかって難しく書きゃあいいってもんぢゃないって話もあって、なんでも、とある地方で講演会を催すときは講演者には専門用語など使って難しく話せと、そこの教育委員会の人は頼むんだそうで、そうしないと聴衆が感心しない、
>わかりやすい話だと、
>「きょうの人は、ありゃあ大した人じゃないなあ。あんな人しか来てくれんかったんか」
>と落胆し、先生はばかにされ、教育委員会は人物招致能力をうたがわれる。(略)
>誇張はあるのかもしれないが、このお役人の話はいなかもの根性をよく言いあてている。(略)
>本を書く人や講演をする人にも、むずかしいのが高級だと思っている人種は多い。(略)
>日本人がいなかものなのである。かつては支那に対して。明治以後はヨーロッパに対して。
>先方が日本をいなかあつかいするわけではない。先方は日本の存在すら知らない。
>日本人が勝手に、漢字や英語をあがめ、それを多少解してわけのわからぬことを言う日本人を尊敬し、自分たちにもわかることを言う者を「あの人は程度が低い」と軽視してきたのである。(略)(p.36-37)
というように、歴史的背景というか日本のしょうもない一面を解説してくれるのは参考になる。難しいってのはホメ言葉にゃならないよと。
コンテンツは以下のとおり。
うるまの市
 玉川上水万助橋
 「もらう」と「ひろう」
 うるまの市
 去年の一番
 ミイラの話
 河盛好蔵先生
 手紙時代の終り
 オムニバス
キライなことば勢揃い
 ふれあい図書館
 キライなことば勢揃い
 みんな仲良くあたたかく
 電話を入れる
 「電話を入れる」ふたたび
 「実家」の移動
 ラーメンちょうだい
 コクタイ談
「よし」「だめ」の怨念
 学童疎開
 幼い学童疎開
 文学部がはやらない
 どこで切れるの「文学部」
 何代目?
 日本人の英語信仰
 「よし」「だめ」の怨念
 「よし」「だめ」誕生秘話
何処のさとのならひぞや
 何処のさとのならひぞや
 消えたジッポン
 玄米四合
 交戰已に四歳
 虫めづる姫君
 まだまだあった「まぜこぜ語」
 「使う方」ではわからない
 ごらん、かんたん、だいじょうぶ
「白」はぬきみか cold か
 符号は意味をハッキリと
 ピンからキリまで
 白兵戦はお家芸?
 「白」はぬきみか cold か
 「白兵」その後
 丁のいろいろ
 内心ジクジ
人生テレコテレコ
 カンコツダッタイ
 書きたまったのだあれ?
 誤訳自殺事件
 つなぐ、つなげる
 人生テレコテレコ
 なぜカズオなの?
 結構ずくめ金ずくめ
 今昔ホームレス
コメント
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