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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない

2018-11-04 18:02:56 | 読んだ本
町山智浩 2012年 文春文庫版
町山さんのアメリカに関する本、前に読んだ『底抜け合衆国』の時代的にはつづきに位置するんだろうか。
2008年単行本刊行、初出は2006年から2008年に「週刊現代」に連載した『アメリカで味噌汁』というコラムだそうで。
再選しちゃったブッシュの2期目の後半だけど、やっぱブッシュはダメダメだなあって話が当然いっぱい。
それよか怖いのは、そのブッシュを当選させちゃった勢力で、聖書の言葉を字義通りに信じる福音派の人々と、暴走する右派メディアと、利権のために大統領を利用する企業とか取り巻き。
ブッシュの支持基盤のキリスト教保守ってのは、「連邦法による中絶の全面禁止、ゲイの結婚禁止、進化論教育の禁止を求めて激しい政治活動を続けている(p.51)」ような勢力で、ブッシュは絶対禁欲教育っていう効果がない運動に2007年から2億ドルの国家予算を投じるって言ったくらい配慮してるそうな。
かくして、
>(略)ニュースを知らない人たち、外国に興味のない人たちによって大統領が決定され、その大統領が無茶な戦争を起こし、デタラメな政策で経済メルトダウンを起こして日本や世界を巻き込んでいる(p.16)
ような世界になってしまったと、やだねえ。
でも、本書で特に興味もったのは、政治よりも経済のほうというのが、一読したとこでの感想。
>年金を破綻させたブッシュ大統領は「オーナーシップ・ソサエティ(資産家による社会)」なる言葉を掲げ、老後は年金ではなく投資によって自分で支えろと唱えた。(p.121)
なんてのを読むと、遠い国の話とは思えない。
なんでそういうことになったかっていうと、
>'80年代のレーガン政権は自力更生を謳って貧困層への福祉をカットし、逆に企業や資本家に免税を行なった。企業は大規模なリストラを行い、生産基盤を賃金の安い外国に移した。(略)
>そして、ブッシュ政権は、事故などで働けなくなった国民の「安全網」である社会保障制度を税金で負担するのではなく株式で運用させようと言い出した。
>最低賃金を低いまま抑え、保険や保障や福祉の面倒をみない政策は、貧困層に中流化する生活的余裕を与えず、階級を固定化する。(略)(p.113-114)
というような流れらしい、サービス業とかで外国人労働者を導入しないとやってけないってとこまで、日本は追随してく一方だなあと思わされる。
>金持ちの生活しか知らない二世、三世議員ばかりじゃ、戦争や福祉について庶民の苦しみを理解した政策を期待しても無理か。あ、日本もね。(p.81)
ってことか、なんだろね、それが資本主義の歴史的必然だとしたら、ちと悲しいね。
それにしても読んでて感じるのは、著者のもつ絶妙なスタンスみたいなもの、それが酷い話なのに読んでて楽しい大きな要因と思える。
実際にアメリカで生活してて書いてんだけど、身に迫る問題として憤慨して警鐘を鳴らすってんでもなく、かといって日本人だから最後は関係ないやって遠くから冷めた目で批評するってんでもない。
「この国、どうするのかね?」「そういう問題かよ!」「それって現実じゃん!」「軍事費を使うと外国が儲かるって、何それ?」みたいなツッコミ入れる文体もそうだけど、なんか不思議な間隔のある感覚。
と思ってたら、文庫巻末解説で小田嶋隆さんというひとが、うまく説明してくれてた。
>町山智浩がアメリカのあれこれを取り上げる時の手腕の見事さは、その文章の展開のスリリングさに現れている。細部に焦点をあてて、ひたすらに重箱の隅を突いているかと思うと、次の瞬間、巨象のような国家を、一刀両断にしている。こういう無謀なことは、普通の書き手にはできない。
>要するに、距離感が自在なのだ。
>細部に拘泥するわけでもなく、かといって結論にひきずられるわけでもない。こういう書き方は、実は、既存の書き手には原則として不可能な書き方だ。
って、まさに、そう。名手ですね。
コメント
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