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エターナル・サンシャイン
2004
ミシェル・ゴンドリー


素晴らしいです。
大好きです。この映画。
私がこの映画について話す様は、迷惑なほどにアガっているはずなのでご注意を。


テーマが良い。
過去の記憶を消す商売があるという、ややSFなお話なのですが、そのモチーフとテーマのミックスの仕方が絶妙です。
「トータル・リコール」の様に「記憶操作」がメインテーマなのではなく、あくまでも、ロマンチックなところに落とす。
お伽噺の様なストーリーです。
「何度記憶を失ったとしても、僕とあなたは恋に落ちる運命だったのだ」というハッキリ言ってクサイテーマもドロドロベタベタせずに魅せてくれます。


ちょっと思い出したんですが、村上春樹の作品で「4月のある朝に100%の女の子に出会うことについて」(「カンガルー日和」収録)という短編小説があるのですが、そちらで語られているお話とも近いかもしれません。
この小説の場合は、こう。
【ある朝会った観も知らぬ女の子が自分にとって100パーセントだと気づくのだけれど、どう声をかけて良いか分からない。どうしてその女の子が100パーセントなのかも分からない。しかし、これはきっとこういうことだと思う。
『彼女と僕は以前は本当に100パーセントの恋人同士だったけれども、とある理由で離ればなれになり、そして病気のため記憶を失ってしまった。しばらくお互いの時間を過ごす。そして何年か後の偶然の再会。そのかすかな記憶がよみがえるけれど、それを信じ切れない二人はそのまま通り過ぎてしった』
あの時、僕は、こう声をかけるべきだった。今では分かる。】
というのが小説のお話。
まぁ、「どこかでお会いしたことありますよね?」をもう少しロマンチックにした口説き文句のお手本みたいなお話です。
スミマセン、話しがズレました。


本作の場合は記憶を消されたとしてもそのかすかな記憶をたどり、再び彼らは恋に落ちるというもの。
あんまり説明が上手くないので、これは本作を是非ともご覧下さい。

脚本は「アダプテーション」や「マルコビッチの穴」なんかのチャーリ・カウフマンです。バツグンです。

ラストシーンを語るのは反則かと思うのですが、許してください。
「待てよ!」という方は本作をご覧の上で下記をお読みいただけましたら幸いです。


本作は私が常々感じている、多分あなたも感じている、記憶というモノの仕組みについて、とても愛らしく描かれています。
記憶の仕組みというのは、それが過去の想い出であれば有るほど輝きを増し、それが捏造であったとしても、現在の自分にとっては暖かいその瞬間。
たとえその時におぞましいことを口走ったとしても、それすら愛らしく感じる。それが記憶。言い換えれば想い出。
ある種のPTSDを除けば、想い出というのはおしなべて愛すべきモノとして残っています。
「あれはきっと、トチ狂った自分が言った言葉。本心ではそんなこと思っていなかった」という自分にしかできない都合の良い解釈をしてしまうのが想い出。
そんな、想い出を美化し続けることで人は生きていくことができる、それがとんでもない間違いを生むとしても、それはその先もずっと続く人生を生きていく上で必要な能力である、ということを描いた映画です。


もう一つだけ、この映画でもの凄く感動してしまったというか、えぐられたシーン。
失恋して彼女についての記憶を記憶消去業者業者に消されている最中の出来事。
彼女の記憶を途中で消されたくないと思った男は、彼女の記憶を業者が消去できない「彼女の記憶が無い部分」に隠そうと試みます。※この辺の行は映画を観ないと多分意味不明ですね。
その「彼女の記憶が無い部分」というのが、彼女と出会う遙か前の子どもの頃の些細な記憶なのです。
コレにやられました。至極当然のことなのですが。
「彼女の記憶がない部分というのは彼女と出会う遙か以前しか無い」んですね。いやぁ、これは相当なロマンチストじゃないと思いつきませんよ。
「他の女の子が好きだった時」とか「別れちまえばもう終わり」とか「その前に好きだったあの女の子」というのじゃ無いんです。自分の人生に於いて異性を意識する以前の記憶じゃないと貴女は存在しないということなんですね。少しでも恋だ愛だが発生したら必ず貴女に結びついてしまうということなのです。
クサイ言い方ですが、運命の人というのはやはりそう言う人であって欲しい、そうであるべきだというロマンチック大学センチメンタル学科の必修項目です。
永遠に輝き続けているんです。これがそのままタイトルになったんですね。そのふたりの関係ということではなく、彼らのそれぞれの記憶として輝き続ける。
素晴らしいです。




監督は、主にPV(ミュージック・ビデオ)の監督、ミシェル・ゴンドリーです。その筋では超有名な方ですね。
映画は本作で2作目とのこと。
ちょっとまえに、Directors LabelというディレクターごとにPVをあつめたシリーズの第一弾でご存じの方もいるのでは。あとはスパイク・ジョーンズやクリス・カニングハムという監督のシリーズもあります。
あのシリーズ、買っておけばよかった。
PVの監督が撮ったので好きだったのは 「ディナー・ラッシュ」でしょうか。アレはオサレ映像でした。PV監督の作品は基本的にカットが上手いですね。思いこみでしょうか。


本日、ミシェル・ゴンドリー監督の最新作「恋愛睡眠のすすめ」を観てきました。そちらの感想はまた後日。良い映画でした。
ミシェル・ゴンドリー監督、素晴らしい感覚を持った方です。

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