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映画【パラノイドパーク(Paranoid Park)】

2008-04-28 23:42:16 | 映画
 
 
パラノイドパーク(Paranoid Park)
2008
ガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)


とある偶然から人を殺してしまったスケボー好きの少年。
その前後の人生の数ページを映画にした作品です。

平凡な少年の心情を描いた作品と言う枠では「エレファント」に近いんですが、手法が全然違います。
前半では、その事件が起こる前後の「普通の少年」である主人公アレックスの普通の生活を描くものの、徐々に事件の輪郭が劇中ではっきりしてくることによってアレックスの罪の意識によって起こる行動の心情が見て取れるようになる。
「エレファント」で無関心の罪悪を描き、本作では観客にその罪悪を感じさせます。
序盤では普通の生活を送っているであろうアレックスの生活をBGMも駆使して創り出し、後に彼の行動の一つ一つの理由を見せつける。
時間軸を入れ子にしたフラグメンテーション(部分断片化)させたストーリーテリングに、ただの謎かけではなくこういった効果があるとは。むしろ、こちらが王道なのかもしれません。
ただフラグメンテーションさせただけではなく、その入れ子にした部分の意味を自在にコントロールしてしまう演出が素晴らしい。


観客が勝手に解釈していた彼への気持ちが、後に事実を見せつけられることによって傍観者の勝手な思いこみであるということに気付きます。
ある種のサスペンスでよく使われる手法を、心情に気付かないことの恐ろしさを知らしめるために使ったサント監督、素晴らしいアイデアです。

そして「誰も僕のことなんてわかってくれない」症候群を一歩抜けて、「分かって貰いたい反面、誰にも言うことのできない秘密を持ってしまった自分」という複雑と言う言葉ですらチープになってしまう想いを素晴らしく描いています。

タイトルでもあるパラノイドとはノイローゼとか妄想癖とかの意味で、そのかつて「パラノイア」だと言われていたことが、既に「思いこみ」という軽いモノと同列になってしまっています。ちなみに、英語圏では日本語で言う偏執狂とか妄想狂とかのそこまで病的な意味で使われる言葉ではないそうです。
とはいえ、無関心というのも「多分、放っておいても大丈夫」という思いこみ(パラノイド)の蔓延ではないでしょうか。
主人公アレックスのノイローゼじみた行動とともに、回りの無関心もそう描いている気がします。
ただの深読みかもしれませんが、勝手にそう解釈しています。

彼のこの後の生活はどうなってしまうのか。決して今まで通りではないでしょう。
そう続くように映画は終わります。


もちろん、気持ちよく見終われる映画ではありませんが、素晴らしい作品です。

映画【君とボクの虹色の世界(ME AND YOU AND EVERYONE WE KNOW)】

2008-04-24 23:57:31 | 映画
 
 
君とボクの虹色の世界(ME AND YOU AND EVERYONE WE KNOW)
2005
ミランダ・ジュライ(Miranda July)


タイトルからするとベタベタなラブコメの様ですが、意外とそうでもありません。
主人公の女性の回りで起きる、様々な恋模様(もしくは恋のようなもの)をかわいらしく描いています。
しかも、その恋模様が全て悩み故の産物だったりして、そのシチュエーションが面白い。
この作品は好きです。

ちょっとありそうもない話だったりしますが、無いようであったらちょっと楽しそうな、そんな世界。しかも半径5kmの世界。
自分の回りの世界がこんなだったら面白いだろうなぁ、という空想して撮られた原題のお伽噺のような映画です。映像が凄くポップ。良い意味でキュート。女の子っぽいグロテスクなトゲのあるリアリティ。
女の子目線の「恋愛睡眠のすすめ」といった趣。敢えてこの2作品を比較して想うことは、やはり男子の方がメルヘンで妄想癖でパラノイド。女子はリアリストで、世から自分の好きなモノを選び出すセンスが素晴らしいのだと想います。クリエイティブにも性癖の違いが見られます。



本作でカンヌのカメラドール(新人監督賞)を受賞したミランダ・ジュライ監督。本作の主演でもあります。日本だったらコンバース履いてライブハウスとかに居そうな感じですね。
音楽やら小説やらと多才だそうで。
もの凄く独特な世界観を持っていそうな面白そうな方です。小説も読んでみよう。

映画【ぼくを葬る(LE TEMPS QUI RESTE)】

2008-04-23 23:44:41 | 映画
 
 
ぼくを葬る(LE TEMPS QUI RESTE)
2005
フランソワ・オゾン(Francois Ozon)


私、その気は無いんですが、こういう描き方をされると美しいものかもしれないと思ってしまう。
映画とは恐るべきモノです。
ちなみに、タイトルは「葬る」と書いて「おくる」と読みます。
日本語にタイトルを直訳すると「残された時間」
直球ですね。この日本語タイトルはアリではないかと。

本作は31歳にして余命3ヶ月を言い渡された売れっ子フォトグラファー(ゲイ)のお話。
主人公の人生の最後の5ページくらいを描いた作品。
それ以前もそれ以後もないお話。
彼が生きていたその瞬間だけを描いた作品です。
死ぬことを受け入れた彼の、自分を浄化するかのような恐ろしいほどのプライベートな日々を客観しています。

パーソナリティを逐一説明することなく、登場人物との関わり方だけで彼のアイデンティティを描く手法は秀逸です。
台詞で語られていることと相反するであろう主人公の想い。
それを結ぶ、異常なまでに美しいラストシーン。これは必見です。
映像であるからこそできる表現。
これが映画ですよ。

火サスの様に全ての言葉で想い語ろうとするクソ映画は「映画」である必要がないですね。
というか、言語化できないのがその人そのものだと思うのです。
たまたま
文芸にしても、音楽にしても、明文化されたものに答えはなく、その行間を想像する自分のなかにしか答えはないのです。
その答えは万人に共通ではないはず。
そう思うと、同じものを観たり、読んだり、聞いたりして同じ感想を持つのは奇跡的なことでは。
映画の見解が違うからと言って侃々諤々と揉めることもありますが、それは楽しい揉め方です。

映画【バグズ・ライフ(A BUG'S LIFE)】

2008-04-22 23:50:25 | 映画
 
 
バグズ・ライフ(A BUG'S LIFE)
1998
ジョン・ラセター(John Lasseter)


名門ピクサーの初期作品。
恥ずかしながら初見ですが、やはりピクサーは進化しています。
CGIのことではなく、ストーリーテリングの方面で。

ラスト、というか展開がちょっと子供っぽ過ぎたかもしれません。
恐らく子供向けとして制作されてるんですから当然なんですけど。
ある種の「諦めたらそこで試合終了ですよ」らしき人生訓を盛り込み過ぎちゃって、ちょっと説教クサイ。もちろん、間違ってはないんですが。

映画として、レミーの様な無茶な突き抜け方が薄いです。
思いつき一発勝負で、それをとにかく面白くするためにどんなモノでも使ってみせるという感じじゃない。
教育っぽい。
けど、このカタルシスは嫌いじゃない。

バッタも悪いヤツじゃないんだけどなぁ。

映画【ジャッカス・ザ・ムービー(JACKASS: THE MOVIE)】

2008-04-21 22:51:09 | 映画
 
 
ジャッカス・ザ・ムービー(JACKASS: THE MOVIE)
2004
ジェフ・トレメイン(Jeff Tremaine)


まぁ、映画じゃないんですけどね。
こういうのを観ると、映画というのもは映画館で上映されるモノは全て「映画」になってしまうのかという定義の話になってしまいがちです。
が、幸いにも映画館で鑑賞しなかったので良し。


思いつく限りのバカなことをしようという作品の趣旨は今更解説するまでもありません。
しかし、ココまでやられちゃうと、清々しいを超えて気持ち悪い。
所々で。
ウンコしてる親父を殴る件はただのキチガイ息子にしか見えない。
大筋で嫌いじゃないんですけど、コレばかりを見続けるのは無理だな。
たまに15分くらい観るMTVの時の方が好きでした。

どんなに最初面白くても、度を超すと全てが批判の対象となってしまうモノです。
民主主義しかり、資本主義しかり。
何れ彼等がネタにしているフリークスと同じことになってしまうのでは。
というか、既に彼等がフリークス。

公開決定!【Hot Fuzz】

2008-04-17 22:33:44 | 侃々諤々
 
 
HOT FUZZ
2007
エドガー・ライト(Edgar Wright)


かねてより公開が望まれていたエドガー・ライト監督の「HOT FUZZ」が遂に7月に日本でも劇場公開されます!

名作「ショーン・オブ・ザ・デッド」が日本未公開という憂き目にあい、そうはさせるものかと映画「Hot fuzz」劇場公開を求める会
有志の署名活動の結果、公開がGAGAにより実現。
ありがとうGAGA!
やるじゃないかGAGA!
公開までGAGAが潰れないように、「ライラの冒険」のチケットだけ買いましょう。


日本公開決定を受けて、エドガー・ライト監督よりのメッセージがアップされています。

「ホット・ファズ」のエドガー・ライト監督から日本のファンにメッセージ(日本語字幕付き)

(撮影は町山智浩氏、署名サイトの管理人様より依頼を受けて作成しました。)

Hot Fuzz Trailer (日本語訳付き)

(以前制作した勝手に和訳したバージョンです)


ホント、何でもやってみるもんですね。
署名は公開決定時で2300人とそれほどでもなかったにしても、一人一人の想いの強さ(と、面倒な業界筋の圧力)の賜です。

観たいモノはなんとしても観たい!
これは観客の気持ちでもあり、この映画を撮ったエドガー・ライト監督の想いでもあるでしょう。
まだ観てないんですが、観てない前から楽しめる映画を撮ってくれてありがとう!


参考リンク
今のところ2007年ベストワン映画『ホット・ファズ』!
映画「Hot fuzz」劇場公開を求める会

映画【海を見る(REGARDE LA MER)】

2008-04-16 23:41:49 | 映画
 
 
海を見る
1996
フランソワ・オゾン(Francois Ozon)


先日、10年ぶりくらいにお会いした映画監督と、立ち飲みでひたすら映画談義だったんですが、その監督への「今、ぽっと浮かぶ作品は?」で出てきた作品です。
フランソワ・オゾン監督を尊敬するとのこと。
で、鑑賞。

「60分くらいのサスペンスだからサクッと観られるよ」とのことだったんですが、サスペンスだと聞いていなかったらそれすらもラストまで気付かなかったかも。
確かに、サスペンスです。
しかし、そこに圧倒的な答えが出るまで「ん?サスペンスなの?」という展開。
気付けば、全てはラストに向いていたという当たり前の感想。

本作は、サスペンス映画の本質です。
人がいきなり死ななくても、暴力が無くても、ピストルが出てこなくても、その人の悪意を描くことでサスペンスになりうる。
翻って、その悪意を描きさえしなければただの描写だけの羅列になってしまう。
分かりやすい謎かけはただチープな伏線にしか成り得ず、その謎かけに鑑賞者は気付かなければその作品を楽しめない。

映像で表現するということはこういうことなんですね。
多分、本作の脚本を読んでも映像で描かれていることは殆ど書かれていないでしょう。
突然のラストが来て驚く、というどんでん返し作品として書かれているわけではないでしょうし、そういうことではなくオゾン監督の頭の中にあるイメージは文字ではなく、映像(時間)の中でしか表現できないことなのかもしれません。

「伏線をどれだけ上手いこと回収するか合戦」に辟易している方は是非。
これは「面白い」とはちょっと別なんですが作品としてはもの凄く強烈です。
イヤ、これをして映画を「面白い」と言うんだろうなぁ。


「何度も観てるけど、その度に発見がある」というのは私に勧めてくれた監督の言。
あと3回は観よう。

映画【Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)】

2008-04-14 23:12:31 | 映画
 
 
Mr.インクレディブル(THE INCREDIBLES)
2004
ブラッド・バード(Brad Bird)


「面白い!」としか言いようがありません。
あー、もうどうしてなんでしょうか。

バタ臭いキャラが苦手で観てなかったんですが、これは面白い。
ピクサーマジック炸裂です。
もう、CGIだからとか全然関係ありません。
内容といえば、最近のアメリカ映画の懐古主義の固まりみたいな作品ですが、面白ければ関係なし。
下手な説教もなければ、


ここまでの大当たりの連続でピクサーは大丈夫なんでしょうか。
ピクサーの企画会議はどうなっているんでしょうか。
「次、ネズミが料理作るやつ、どう?」なんつってプロットを100回くらい書き直して、脚本を500回くらい書き直して、とかやってるんでしょうか。
で、そこに誰が最終決定を下すのか。
やっぱりスティーブ・ジョブスなんでしょうか。
だとしたら、私の趣味は、ほぼスティーブ・ジョブスによって独占されています。
これは怖い。

かつて、Appleの仕事で、社内では「絶対にロゴに手を加えるな」と言われていたにもかかわらず勝手にロゴを動かしてUS本社の試写に臨んだことがあったのですが、意外にも気に入られて採用されたことがあります。
あのとき、どこかでジョブス氏は観てくれたのでしょうか。
未だに気になります。

映画【ヘルハウス(THE LEGEND OF HELL HOUSE)】

2008-04-13 23:03:28 | 映画
 
 
ヘルハウス(THE LEGEND OF HELL HOUSE)
1973
ジョン・ハフ(John Haugh)


全然怖くない、わけじゃありません。

ゾンビみたいなのも、地球外の様なクリーチャーも、突然のビックリもありませんが、キャメラのアングルとSEと照明と美術の力だけでホラーを作り上げた本作。
ある意味「リング」以降の日本ホラーと手法としては同じ。
バタ臭い黒沢清といったところ。

圧倒的にビックリするシーンが無い、というのがそれだけでネタバレになってしまうという恐るべきホラー映画。
でも、そうとわかっていながらドキドキしてしまう演出。
コレがホラーですよ。
中途半端な造形の化け物が出てきたって笑うだけです。
演出の力だけでゾクゾクさせてくれる本作は、やはり名作です。
ホラーは下手にロジカルじゃない方が好き。

もちろん、何も解決しない結末も見所です。

映画【テープ(TAPE)】

2008-04-12 01:13:53 | 映画
 
 
テープ(TAPE)
2001
リチャード・リンクレイター(Richard Linklater)


ハリウッドの実験映像作家リチャード・リンクレイター監督の完全な自主制作らしき手法の作品です。
内容はサスペンスのような、他愛のない友達同士の会話のような。
87分という映画の尺と劇中の時間進行が全く同じという設定。

ハンディカムの映像の中でどれだけ脚本の力を試すことが出来るか、というものの様な気がします。
けれど、それ以前に映画を撮りすぎてしまっているが為のハンディカムの映像への慣れの無さが気になります。
確かに、民生の小型ハンディカムであればボディの小ささ故の自由度は高く、画角は自由自在に動かせるんですが、全部見覚えがある映像なんですよ。
この辺、ぜんぶやりました。
この辺は大学生くらいの頃に自主制作で実験しまくった方なら誰でも知ってる映像なのです。
そして、この映画を観るであろうターゲットもそこらへん。
もしかしたらそういった自主映像作家を勇気づける作品であったのかもしれません。

私がかつて使っていたTRV-900と同じハンディカムで大傑作を撮ってしまったラース・フォントリアーという人もいるんだよなぁ。

とはいうものの、短尺ということもありサクッと観るにはちょうど良い作品。
飽きずに一気に観られます。
結末が面白いかどうかは別の話で。