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情報公開・個人情報保護審査会 平成17年度(独情)答申第41号 都労委命令取消訴訟控訴審判決後の対応

2005年10月19日 | 個人に関する情報
諮問庁 : 国民生活金融公庫
諮問日 : 平成17年 5月10日 (平成17年(独情)諮問第34号)
答申日 : 平成17年10月19日 (平成17年度(独情)答申第41号)
事件名 : 「都労委命令取消訴訟控訴審判決後の対応」の不開示決定に関する件

答 申 書


第1  審査会の結論
 「都労委命令取消訴訟控訴審判決後の対応」(以下「本件対象文書」という。)の開示請求につき,不開示とした決定については,決裁鑑に記載された職員の印影(ただし,課長相当職より下位の者に限る。)及び内容文中の項目2(3)の部分を除き,開示すべきである。

第2  異議申立人の主張の要旨
1  異議申立ての趣旨
 本件異議申立ては,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「独立行政法人等情報公開法」又は「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,国民生活金融公庫が平成17年3月7日付け国公情公第45号により行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求めるというものである。

2  異議申立ての理由
(略)


第3  諮問庁の説明の要旨
(略)


第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

①  平成17年5月10日  本件諮問の受理
②  同日  国民生活金融公庫から理由説明書を収受
③  同年6月6日  異議申立人から意見書を収受
④  同月13日  本件対象文書の見分及び審議
⑤  同年7月25日  委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分,国民生活金融公庫の職員(国民生活金融公庫人事部次長ほか)からの口頭説明の聴取及び審議
⑥  同年8月29日  審議
⑦  同年9月7日  国民生活金融公庫から補充理由説明書を収受
⑧  同月20日  異議申立人から追加意見書を収受
⑨  同月26日  審議
⑩  同年10月17日  審議

第5  審査会の判断の理由

1  本件対象文書について
(1)  昭和61年9月13日,国民生活金融公庫の19名の職員が,昇給・昇格差別の是正を求めて東京都地方労働委員会に不当労働行為の救済申立てを行い,平成7年5月19日に19名全員について救済命令が出された。これを受けて,同公庫は,平成7年5月23日に当該救済命令の取消しを求め東京地方裁判所に提訴し,平成12年2月2日,19名のうち16名について救済命令を取り消す旨の判決が言い渡された。
 当該判決を受け,国民生活金融公庫と東京都地方労働委員会の双方が東京高等裁判所に控訴した結果,平成16年11月17日,東京高等裁判所は,同公庫の敗訴部分を取り消し,19名全員について救済命令を取り消す旨の判決を言い渡した。
 その後,本件については,平成16年11月29日付で補助参加人が最高裁判所に上告申立てを行い,現在係争中となっている。

(2)  本件対象文書は,上記の平成16年11月17日の東京高等裁判所の判決を踏まえて,国民生活金融公庫において今後の訴訟上の対応方針を確認した文書であり,当審査会において本件対象文書を見分したところ,同文書は決裁鑑及び内容文とで構成され,うち内容文には,今後の訴訟に対する対応方針として,おおむね①一般的考え方,②対処方針及び③参考情報という三種類の情報が記載されていることが認められる。
 国民生活金融公庫においては,本件対象文書に記載されている情報について,すべてが法5条4号ニに該当するとして不開示としているので,以下,不開示情報該当性を検討する。

2  不開示情報該当性について

(1)  決裁鑑について
 決裁鑑には,件名,起案日,決裁に関与した国民生活金融公庫の職員の氏名(印影)などが記載されており,これらについては,争訟に係る事務に関する情報ではあるものの,同公庫における訴訟上の対応方針を具体的に指し示すものではなく,仮にこれを何人に対して開示したとしても同公庫の訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれがあるものとは認められず,法5条4号ニに該当するものとは認められない。
 次に,法5条1号該当性について検討すると,国民生活金融公庫の職員の氏名(印影)は,個々の職員個人に関する情報であって,法5条1号に規定する特定の個人を識別することができる情報であることは明らかである。しかし,同公庫の職員については,独立行政法人国立印刷局が発行している職員録において課長相当職以上の職員の氏名が記載されていることから,本決裁鑑に記載されている氏名(印影)についても,課長相当職以上の職員の氏名(印影)については,同号ただし書イの「慣行として公にされている情報」に当たると認められる。
 以上のことから,本決裁鑑については,国民生活金融公庫の職員の氏名(印影)のうち,課長相当職より下位の者については不開示とすべきであるが,その余の記載部分は不開示情報に該当せず,開示すべきである。

(2)  内容文について
 本内容文には,今後の訴訟に対する対応方針として,おおむね①一般的考え方(項目1,2(1)及び(2)の部分),②対処方針(項目2(3)の部分)及び③参考情報という三種類の情報が記載されている。

ア  このうち①及び③については,ごく一般的な内容であってこれを秘匿すべき特段の事由も見当たらず,仮にこれを何人に対して開示したとしても,国民生活金融公庫の訴訟当事者としての地位を不当に害するおそれがあるものとは認められず,法5条4号ニに該当するものとは認められない。
 なお,この中には,相手方が上告した場合に弁護業務を依頼する予定となっている弁護士の氏名も記載されており,これは法5条2号本文に規定する法人又は事業を営む個人の当該事業に関する情報に該当するが,国民生活金融公庫の説明によると,当該弁護士は,本件開示請求に対して自らの氏名を開示しても差し支えない旨の意向を表明していることから,当該弁護士の氏名は法5条2号イに該当するものとは認められない。

イ  次に,上記②については,国民生活金融公庫が説明するように,平易な言葉で記載されていることから,一見すると,訴訟の一方当事者として当然の方針(内容)が記載されているようにも見え,ここから,国民生活金融公庫の今後の訴訟に対する秘匿すべき方針又は戦略など,訴訟当事者として当然に有する相手方に秘匿すべき争訟対応上の企図の存在を読み取ることは,一般的には困難であると思われるところである。
 しかしながら,国民生活金融公庫では,同公庫と本件訴訟の相手方(補助参加人側)との間には長年にわたる法廷内外でのやや特殊な争訟経緯が存し,同公庫としても,当該部分については,これまでの相手方(補助参加人側)との長年にわたる争訟経緯を踏まえて同公庫としての対処方針を明確な意思をもって示したものであり,したがって,このことを踏まえれば,当該部分には,訴訟の相手方であれば,同公庫が訴訟当事者として当然に有する相手方に秘匿すべき争訟対応上の企図を読み取ることが可能な内容が記載されている旨の説明をしているところである。
 また,仮に当該部分を開示した場合には,()現在,最高裁判所に係属中の訴訟事件について,相手方(補助参加人側)は,国民生活金融公庫の訴訟対応上の企図を了知した上で訴訟上の対応を考慮することができることから,今後の上告審の手続において,同公庫の立場が不利になることは明らかである,()相手方(補助参加人側)から当該方針に対して干渉等を受けることになり,その結果として,同公庫は,対処方針の変更を余儀なくされるおそれがある旨の説明もしているところである。
 ところで,法5条4号ニは,「契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」がある情報を不開示情報として保護しているところ,この規定は,契約,交渉又は争訟のように相手方が存在する事務事業を念頭に置き,その上で,当該相手方との相対の関係において独立行政法人等が不当に不利益を被らないようにするために情報を保護する趣旨であると解されるから,文書に記載されている内容が,争訟等とは関係を有しない一般第三者にとっては特段の価値ないし意義を認めないものであったとしても,争訟等の相手方がそこから一定の価値ないし意義を見出すことが可能であり,そして,その結果として独立行政法人等が当該争訟等において不当に不利益を被るなどの事情が存することが認められる場合には,やはり,当該文書の記載内容は同号の不開示情報に該当し,保護されなければならないものである。
 このことをも踏まえて判断すると,上記のとおり,②の部分についても,一見すると,訴訟の一方当事者として当然の方針(内容)が記載されているようにも見えるところであるが,本件については,国民生活金融公庫と訴訟の相手方(補助参加人側)との間の長年にわたる法廷内外でのやや特殊な争訟経緯が存し,それを踏まえれば,②の部分に,訴訟の相手方(補助参加人側)であれば,国民生活金融公庫が訴訟当事者として当然に有する相手方に秘匿すべき争訟対応上の企図を読み取ることが可能な内容が記載されているとする諮問庁の説明については,あながちこれを否定することはできない。
 そして,その結果として,少なくとも()本件訴訟は現在最高裁判所に係属中であるから,当該部分を開示することによって,訴訟の相手方は同公庫の争訟対応上の企図を踏まえた上での対応を採ることが可能になり,同公庫は相手方との対等な立場で訴訟を遂行することが困難となる,()法廷外での交渉時においても,同公庫の企図を了知した相手方から,自己に有利な内容や条件を獲得しようとして強い要請ないしは干渉が加えられるといった事態が生ずることに一定の蓋然性が認められることから,これは,「争訟に係る事務に関し,国民生活金融公庫の当事者としての地位を不当に害するおそれ」,ないしは「交渉に係る事務に関し,国民生活金融公庫の当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるものと言え,当該②の部分は法5条4号ニに該当し,不開示とすることが相当である。

ウ  以上のことから,上記②に該当する部分(内容文中の項目2(3)部分)については,法5条4号ニに該当し不開示とすべきであるが,その余の記載部分については開示すべきである。

3  異議申立人の主張について
 異議申立人は,種々の主張をするが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

4  本件決定の妥当性
 以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条4号ニに該当するとして不開示とした決定については,決裁鑑に記載された国民生活金融公庫の職員の印影(ただし,課長相当職より下位の者に限る。)については法5条1号に該当し,また,内容文中の項目2(3)の部分は法5条4号ニに該当すると認められるので不開示としたことは妥当であるが,その余の部分については法5条1号及び4号ニのいずれにも該当しないと認められるので,開示すべきであると判断した。

 (第1部会)

 委員 上村直子,委員 稲葉 馨,委員 新美育文


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