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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第425号 開発行為に係る同意・協議について

2008年09月05日 | 個人に関する情報
諮問第506号

答申


1 審査会の結論
 「開発行為に係る同意・協議について」の一部開示決定のうち、同意申請書に記載されている受任者担当者氏名については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当である。

2 審査請求の内容
(1) 審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った「(仮称)○○マンション新築工事に伴う開発事業に関する文書一式(決裁文書を含む。)予定地文京区○○○-○-○」の開示請求に対し、東京都下水道局長が平成19年12 月18日付けで行った一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。

(2) 審査請求の理由
 審査請求人が審査請求書及び意見書で主張している審査請求の主な理由は、次のとおりである。

ア 東京都下水道局長は本件文書のうち図面の一部を条例第7条第4号に該当するとして非開示とした。しかしながら、黒塗りにした部分が適切であったか、再度、調査してほしい。黒塗りにするのは犯罪の予防に必要不可欠な部分に限定されるべきである。他の図面と整合の取れていない図面があり、提供公園の位置に建物が記載されるというように、誤って記載された建物の部分は、犯罪の予防という理由で黒塗りにすることはできないはずである。

イ 本件文書は開発事業に関するものであり、本来ならば、土地の造成計画がわかる詳細な図面や、本件敷地に係る排水計画の詳細を示す書面が含まれているべきである。また、本件開発事業にあたり、事業者は前面道路の管理者である文京区との事前協議を行っているはずである。汚水ますや取付管等の下水道施設の撤去、新設が可能かどうかは、区とどのように事前協議をしたかによるため、その協議の内容がわかる文書が含まれているべきである。さらに、本件開発事業の施工者に関する文書も含まれておらず、開発事業への同意に際して必要と考えられるこれらの情報が、開示された文書には含まれていない。

ウ 上記のように、開示された文書には、開発事業への同意に必要と考えられる情報が含まれておらず、しかも誤りのあるものであった。都下水道局は、事業者に同意書を交付する前に申請書を精査すべきであった。事業者に誤りの訂正を求めず、開発事業に同意しているのは非常に問題である。今後のためにも、本件文書の作成、取得に関する経緯につき、調査願いたい。

エ 本件文書に記載された担当者のうち、設計者に関する情報は、文京区中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整及び開発事業の周知に関する条例の規定による標識や説明会資料に記載され、公にされている。これは、条例第7条第2号ただし書イに該当する。

オ 都下水道局長は、審査会への諮問の直前に処分変更を行い、審査請求人に通知した。しかしながら、なぜ変更されたか、どのように変更されたか、通知書だけではわからないものであった。通知書に変更理由が明記されているべきであると審査請求人は考える。

3 審査請求に対する実施機関の説明要旨
 実施機関が理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1) 担当者名、居住者名、作業責任者名(測量士)及び測量士番号
 氏名は、特定の個人を識別することができる情報であり条例7条2号に該当し、また同条ただし書のいずれにも該当しないため非開示とした。また、測量士番号は、個人に付与される番号で、特定の個人を識別することのできる情報であり、条例7条2号に該当し、また同条ただし書のいずれにも該当しないため非開示とした。

(2) 申請者の印影
 申請者の印影は、偽造等により財産等が脅かされるおそれがあるなど犯罪を誘発するおそれがあり、条例7条4号に該当するため非開示とした。

(3) 建物内の構造
 図面等には建物内の詳細な間取り等が記載されている。これを公にすることにより、当該建築物への進入経路が明らかになり、盗難、不法侵入等犯罪を誘発するおそれがあり、条例7条4号に該当するため非開示とした。

(4) 審査請求人のその余の主張について
 都市計画法第32条に規定する「公共施設の管理者の同意」とは下水道施設を管理する立場から、当該建築物からの排水(雨水及び汚水)量及び排水位置について、下水道施設と整合性を確認し、影響がないかを確認したうえで同意するものである。申請者が提出する同意申請に必要な書類については、下水道施設への影響を判断するのに十分な情報があれば足りるもので、土地の造成計画のわかる詳細な図面及び工事施工者のわかる文書は、同意に際して必要ではない。このためこのような文書は当局には存在しない。
 土地の造成に関する文書については申請者と区が協議すべきもので、当局が判断すべきものではない。また、汚水ますは当局施設のため、設置及び撤去に関して区との協議の必要はない。

(5) 処分変更について
 本件一部開示決定後、開示した文書のうち、誤って記載された建物の部分など、図面の一部で非開示に該当しない部分が判明したため、平成20年1月28日付けで一部開示決定の変更を行った。

4 審査会の判断
(1) 審議の経過
 審査会は、本件審査請求について、以下のように判断した。
年月日審議過程
平成20年 1月30日諮問
平成20年 2月19日実施機関から理由説明書収受
平成20年 2月28日審議(第87回第二部会)
平成20年 4月14日審査請求人から意見書収受
平成20年 4月22日審議(第88回第二部会)
平成20年 5月22日審議(第89回第二部会)
平成20年 6月24日審議(第90回第二部会)
平成20年 7月25日審議(第91回第二部会)


(2) 審査会の判断
 審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
 都市計画法(昭和43年法第100号)32条1項は、開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者と協議し、その同意を得なければならないと定め、都市計画法施行令(昭和44年政令第158号)1条の2で、公共の用に供する施設の一つとして、下水道施設があげられている。実施機関では、同意を求める旨の申請に対し、流量等を確認の上、特段の支障が生じない限り同意している。
 本件審査請求に係る対象公文書は、「開発行為に係る同意・協議について(回答)文京区○○○丁目○番」(以下「本件対象公文書」という。)であり、起案文(鑑)、申請者あて同意書、許可申請に伴う調査について(照会)と、申請者が実施機関あてに正式に提出した同意申請書、委任状、及び現況平面図、建築計画概要書、排水計画図、下水道台帳図の写しなどの添付書類から構成されている。このうち、実施機関は同意申請書に記載されている申請者担当者氏名、受任者担当者氏名、現況平面図の居住者氏名、作業責任者氏名及び測量士番号について条例7条2号該当を理由として、同意申請書及び委任状の印影、建物内の構造について条例7条4号該当を理由として、一部開示決定を行った。
 その後、本件審査請求を受け、添付された図面の一部について非開示には該当しない部分のあることが判明したことから、当初の非開示決定を変更した上で新たに開示決定を行い、平成20年1月28日付け一部開示決定通知書をもって審査請求人に通知した。
 審査請求人は、審査請求書において、処分変更後の非開示部分について、更に開示するよう主張しているので、審査会は、この非開示決定の妥当性について判断する。

イ 条例7条2号該当性について
 条例7条2号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を侵害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。

(ア)これを本件対象公文書について見ると、本件対象公文書のうち同意申請書に記載されている申請者担当者氏名、受任者担当者氏名、添付書類のうち現況平面図に記載されている居住者氏名、作業責任者氏名及び測量士番号は、いずれも個人に関する情報で特定の個人を識別することができるものであることから、条例7条2号本文に該当するものと認められる。また、申請者担当者氏名及び居住者氏名は、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものとはいえないことから、条例7条2号ただし書イには該当しないものと認められる。また、その性質上、同号ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。

(イ)作業責任者氏名及び測量士番号について、測量法(昭和24年法律第188号)49条1項は、測量士になろうとする場合、国土地理院の長に対して測量士名簿に登録の申請をしなければならない旨定めているものの、同条2項では、当該名簿を国土地理院に備えることとするのみで、これを一般の閲覧に供する旨の規定は見当たらない。また、同法55条1項は、測量業を営もうとする者は、測量業者としての登録を受けなければならないとし、同法55条の12で、公衆の閲覧に供さなければならない書類として登録簿その他の書類をあげている。そして、同法55条の3第6号は、登録申請書に添付する書類として、法55条の13に規定する要件(その営業所ごとに測量士を一人以上置いていること)を備えていることを誓約する書面をあげているが、当該書面は、最低1名の測量士について記載があればよく、当該営業所に属するすべての測量士に関する情報が記載されているとは限らないことを踏まえると、これをもって、測量士に係る情報が法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているものとはいえないことから、条例7条2号ただし書イには該当しないものと認められる。また、その性質上、同号ただし書ロ及びハのいずれにも該当しない。

(ウ)同意申請書に記載されている受任者担当者氏名について、審査請求人は、意見書において、当該文書に記載された担当者のうち、設計者に係る部分は、文京区中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整及び開発事業の周知に関する条例(昭和53年文京区条例第36号)に基づく標識や、説明会資料に掲載されるなど、既に公にされている旨主張する。これについて、審査会が実施機関に確認を求めたところ、現地に掲示されている「開発事業計画のお知らせ」の欄外部分に、連絡先として、本件同意申請書の受任者の欄に記載された担当者氏名が掲示されている、とのことであった。このことから、受任者担当者氏名は、慣行として公にされている情報であり、条例7条2号ただし書イに該当するものと認められ、開示すべきである。

ウ 条例7条4号該当性について
 条例7条4号は、「公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を非開示情報として規定している。

(ア) これを本件対象公文書について見ると、実施機関は、本件対象公文書のうち、各階平面図12葉の一部について、条例7条4号該当を理由に非開示としている。
 審査請求人は、条例7条4号に該当するとして非開示とする部分は、犯罪の予防に必要不可欠な部分に限定されるべきであり、誤って記載された建物の部分は犯罪の予防という理由で非開示にはできないはずである旨主張する。
 これに対し、実施機関は、審査請求人から指摘を受けて、図面の非開示部分の精査を行い、屋上庭園の部分などの開示できる部分を開示し、平成20年1月28日付け一部開示決定通知書により審査請求人に通知したところである。
 審査会が、各階平面図12葉について見分したところ、建物の出入口や非常階段の位置、各部屋の間取りや具体的な用途の詳細に係る部分が引き続き非開示となっていることが確認された。これらの情報を開示することとなると、当該建築物の内部の状況等を把握することが可能となり、これに伴い、将来、当該建築物が建築されたときに、住居侵入などの犯罪に使用される可能性が否定できず、犯罪の予防に支障が生じるおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報であることから、条例7条4号に該当するものと認められる。

(イ)同意申請書及び委任状に押印された申請者の印影について、当該印影を開示することとなると、偽造などの犯罪に使用される可能性が否定できず、押印者の権利利益の不当な侵害を招くおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報であることから、条例7条4号に該当するものと認められる。

エ 審査請求人の主張について
 審査請求人は、審査請求書及び意見書において、本件対象公文書には、1) 土地の造成計画がわかる詳細な図面、2) 排水計画の詳細を示す図面、3)区との事前協議の内容がわかる文書、4)本件開発事業の施工者がわかる文書が含まれておらず、本件対象公文書が開示請求に係わるすべての文書であるかどうか審査してほしい旨主張する。
 これについて審査会が実施機関に説明を求めたところ、1)及び4)については、公共施設の管理者は、下水道施設を管理する立場から、当該建築物からの排水量及び排水位置について下水道施設との整合性を確認し、影響の有無を確認した上で同意するものであり、当該土地の造成計画に関する詳細な図面及び本件開発事業の施工者がわかる文書は、同意に際して必要としないものであることから取得していない、2)については、本件対象公文書のうち、排水計画書、排水計画図及び公共下水道台帳施設平面図が該当し、既に開示している、3)については、当該開発行為に係る協議・同意は、下水道施設と建築物との整合性や影響の有無を確認するものであり、申請者と文京区の事前協議については同意とは関係がないことから取得していない、なお、汚水ますや取付管等は当局の施設であるため、その設置及び撤去には区との協議を要しない、とのことである。
 本件対象公文書の内容や、都市計画法32条1項に基づく公共施設管理者と申請者との協議・同意の趣旨、目的を踏まえて判断すると、本件対象公文書の特定に関する実施機関の説明には不自然なところが見当たらず、相当の合理性があるものと認められることから、本件対象公文書の特定は、妥当なものであると認められる。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員)
 瀬田悌三郎、中村晶子、乳井昌史、山田洋

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