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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

名古屋市情報公開審査会 第80号答申 食品に関する調査資料

2009年09月17日 | 行政文書該当性/文書の特定/理由付記
第80号 答 申


第1 審査会の結論
名古屋市長(以下「実施機関」という。)が本件異議申立ての対象となる行政文書が存在しないことを理由として行った非公開決定は、これを取り消し、名古屋市北区北保健所(以下「北保健所」という。)の担当職員のメモが記載された、愛知県の行った流通経路に関する調査結果報告書を特定の上、生カキの販売業者及びその取引先である業者(以下「本件販売業者等」という。)の名称、住所及び連絡先を除く部分を公開すべきである。

第2 異議申立てに至る経過
1 平成18年5月29日、異議申立人は、名古屋市情報公開条例(平成12年名古屋市条例第65号。以下「条例」という。)に基づき、実施機関に対し、平成○年○月に名古屋市北区○○で発生した食中毒(平成○年○月○日付け営業の禁止処分に係るもの。以下同じ。)について名古屋市が行った各食品に関する調査資料の公開請求を行った。

2 同年6月12日、実施機関は、上記の公開請求に対して、請求の対象となる行政文書が存在しないことを理由に非公開決定(以下「本件処分」という。)を行い、その旨を異議申立人に通知した。

3 同年7月24日、異議申立人は、本件処分を不服として、実施機関に対して異議申立てを行った。

第3 異議申立人の主張
1 異議申立ての趣旨
本件処分を取り消す、との決定を求めるものである。

2 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書、反論意見書及び口頭による意見の陳述で主張している異議申立ての理由は、おおむね次のとおりである。

(1) 北保健所は、平成○年○月○日に異議申立人の店舗に立入調査した時、カキフライを調査資料として、また、同月23日朝、生カキの入れ物の段ボール箱を検体として持っていっている。
名古屋市内で起きた食中毒事件であり、段ボール箱及びカキフライを北保健所が名古屋市健康福祉局衛生研究所に調査依頼していると断言しており、調査資料が存在するはずである。

(2) 食中毒発生詳報には、「愛知県、三重県、名古屋市に於ける調査の結果、本件以外に苦情等は発生等していない。」とあるが、愛知県及び三重県についてはそれぞれ関連調査資料が出ており、名古屋市についてはどのような調査資料があるのか、文書を求めたものである。

(3) 実施機関は、弁明意見書において、調査結果については、苦情のない旨などをメモし、そのメモを基に食中毒発生詳報を作成したとしているが、これは異議申立人が請求する文書である。

(4) カキフライについて、このカキは事件当日、客に提供した殻付きカキと同じものであり、また、段ボール箱についても殻付きカキの殻に食中毒起因菌が付いていると想定して検査しており、当該調査資料に該当するものであり、現に食中毒検体成績表には食中毒起因菌としてノロウイルスの検査を行っている。

第4 実施機関の弁明
実施機関の弁明は、おおむね次のとおりである。

異議申立人が請求している行政文書については、平成○年○月○日付け○北保生第○号で行政文書一部公開決定した食中毒発生詳報にある「愛知県、三重県、名古屋市に於ける調査の結果、本件以外に苦情等は発生等していない。」の部分の「名古屋市に於ける調査資料」について公開を求めることが趣旨であるとの申出があった。
名古屋市における調査としては、愛知県の行った流通経路に関する調査資料を基に、販売先における苦情の有無などの調査を行った。調査結果については、苦情のない旨などをメモし、そのメモを基に食中毒発生詳報を作成した。今回請求のあった調査資料については、調査時に作成したメモしかなく、当該メモは、個人の保管にとどまっており、実施機関の職員が組織的に用いるものではないことから、行政文書に該当しない。
本件異議申立てにおいて、異議申立人が申し立てているカキフライは、客に提供したものではなく、また、段ボール箱は、営業者が当日客に提供した生カキの入っていたものである。これらは、食中毒の原因調査の一環として検査を行ったものであり、異議申立人から請求のあった、名古屋市が行った本件以外に苦情等が発生していないことを示す調査資料には該当しない。
以上の理由により、当該請求に係る文書は、不存在である。

第5 審査会の判断
1 争点
本件異議申立ての対象となる行政文書の有無が争点となっている。

2 本件異議申立ての対象となる行政文書について
(1) 異議申立人が請求している行政文書は、平成○年○月に名古屋市北区○○で発生した食中毒について名古屋市が行った各食品に関する調査資料である。異議申立人によれば、平成○年○月○日付け○北保生第○号で行政文書一部公開決定した食中毒発生詳報にある「愛知県、三重県、名古屋市に於ける調査の結果、本件以外に苦情等は発生等していない。」の部分の「名古屋市に於ける調査資料」について公開を求めることが趣旨であるとされている。

(2) 当審査会の調査によると、食中毒に関する調査に関し、次の事実が認められる。

ア 平成○年○月○日、○○○○○○○○○○○○○○○は、利用客がおう吐、下痢を主症状とする食中毒様の症状を呈しているとの旨を、北保健所に連絡した。この申出に基づき、北保健所の食品衛生監視員が異議申立人の店舗の立入調査を実施した。

イ 同月23日、○○○○○○○○○○○○に対し、名古屋市北区北保健所長は、営業の禁止処分を行った。

ウ 同日、北保健所は、カキフライ及び生カキの入れ物の段ボール箱を検体として、異議申立人から提供を受け、食中毒起因菌について調査を実施した。

エ 同日、北保健所の依頼を受けて、名古屋市健康福祉局健康部食品衛生課(以下「食品衛生課」という。)は、愛知県及び三重県に対し食中毒関連調査を依頼した。

オ 同月24日、愛知県及び三重県から、各県の行った流通経路に関する調査結果の報告が食品衛生課に対して行われ、食品衛生課から北保健所へ報告された。

カ 北保健所の職員は、愛知県の行った流通経路に関する調査結果報告書(以下「本件報告書」という。)に、その後の調査の結果、苦情がなかったことをメモした。

(3) 異議申立人が請求している行政文書は、食中毒について名古屋市が行った各食品に関する調査資料であり、その趣旨は、食中毒発生詳報における「愛知県、三重県、名古屋市に於ける調査の結果、本件以外に苦情等は発生等していない。」の部分の「名古屋市に於ける調査資料」の公開を求めるものである。そして、実施機関は、北保健所の職員が調査した苦情の有無に関するメモが記載された本件報告書はあるが、これは担当職員のメモであり、行政文書には該当しないと主張している。
したがって、担当職員のメモが記載された本件報告書が条例第2 条第2 号に規定する行政文書に該当するか否かを判断する。

ア 行政文書とは、条例上、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているものと定義されている。

イ 担当職員のメモが記載された本件報告書は、実施機関の職員によって職務上作成し、又は取得された文書か否かについて判断する。

(ア) 担当職員のメモが記載された本件報告書は、愛知県から送付された調査結果報告書に、北保健所の食品衛生事務を担当する職員が、販売先である業者に対して行った苦情の有無に関する調査内容を記載したものである。
記載内容である回答は、未成熟な内容の情報ではなく、照会に対する回答そのものであり、また、食中毒発生詳報の記述の基礎ともなっているものである。

(イ) したがって、担当職員のメモが記載された本件報告書は、実施機関が取得した文書に、担当職員が新たな情報を付加したものであることから、実施機関の職員が職務上作成した文書であると認められる。

ウ 次に、担当職員のメモが記載された本件報告書は、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているものか否かについて判断する。

(ア) 担当職員のメモが記載された本件報告書は、食中毒発生詳報における原因食品の調査の記載のために利用されていることから、単なる個人的なメモにとどまらず、職務上、組織的に用いるものとして作成されたものであると認められる。

(イ) なお、担当職員のメモが記載された本件報告書は、担当職員が個人的に管理しているとしても、実施機関において、特定の場所に保管されていることが了知されており、組織において利用可能な状況にあることから、実施機関が管理しているものであると認められる。

(ウ) したがって、担当職員のメモが記載された本件報告書は、実施機関の職員が組織的に用いるものとして、実施機関が管理しているものであると認められる。

エ 以上のことから、担当職員のメモが記載された本件報告書が本件異議申立ての対象となる行政文書に該当する。

3 次に、担当職員のメモが記載された本件報告書を公開すべきか否かについて判断する。

(1) 担当職員のメモが記載された本件報告書には、生カキの流通過程に関する情報が記載されており、本件販売業者等の名称、住所及び連絡先のほか、仕入量、仕入日及び販売量並びに調査年月日並びに苦情の有無に関する情報が記載されている。

(2) 本件報告書は、異議申立人が平成18年5 月12日付けで行った別の情報公開請求の対象文書として一部公開されており、その際、実施機関は、法人等の名称、住所及び連絡先は、公にすることにより、当該法人等に明らかに不利益を与えると認められるものであるため、条例第7条第1項第2号に該当し、非公開としている。
したがって、本件においても、メモの有無の相違はあるものの、対象文書が同一であることから、本件販売業者等の名称、住所及び連絡先が条例第7条第1項第2号に該当するか否かをまず判断する。

ア 本号は、法人等の事業活動の自由は原則として保障されなければならないとする趣旨から、公開することによって、当該法人等にとって不利益になることが明らかな事業活動上の情報については、非公開とすることを定めたものである。

イ 本件販売業者等の名称、住所及び連絡先は、法人等の商号、所在地等に関する情報であるので、法人等に関する情報であることは明らかである。

ウ 次に、本件販売業者等の名称、住所及び連絡先を公開すると、本件販売業者等に明らかに不利益を与えるか否かについて判断する。
担当職員のメモが記載された本件報告書に記載されている本件販売業者等の名称、住所及び連絡先は、生カキの仕入及び販売に係る流通業者及びその取引先である業者に関する情報である。ある業者がどのような業者と取引を行っているかは、当該販売業者等の販売上のノウハウに関する情報であり、これを公開すると、当該販売業者等の通常有する競争上の利益が損なわれると認められ、当該販売業者等に明らかに不利益であると認められる。
また、調査対象となった本件販売業者等は、食中毒の発生に関連して調査の対象とされたものであり、本件販売業者等の名称を公開すると、食中毒起因菌に汚染されたカキを供給したのではないかとの疑いを招き、本件販売業者等の社会的評価を損なうと認められ、本件販売業者等に明らかに不利益であると認められる。

(3) 次に、担当職員のメモが記載された本件報告書には、仕入量、仕入日及び販売量並びに調査年月日並びに苦情の有無に関する情報が記載されていることから、条例第7 条第1 項第2 号に該当するか否かを判断する。

ア 仕入量、仕入日及び販売量は、本件販売業者等の取引に関する情報であり、調査年月日並びに苦情の有無に関する情報は、法人等に対する調査に関するものであることから、法人等に関する情報であることは明らかである。

イ 仕入量、仕入日及び販売量は、本件販売業者等の行った取引に関する取引数量及び取引日であるが、取引条件の詳細について記載しているものではないことから、これらを公開しても、本件販売業者等に明らかに不利益を与えるとは認められない。

ウ また、調査年月日は、愛知県又は北保健所の担当職員が行った調査の実施日であり、苦情の有無に関する情報は、北保健所の担当職員が聴取した内容であるが、調査年月日及び苦情の有無に関する情報は、本件販売業者等のノウハウ若しくは内部管理に関する情報又は社会的評価を損なうものではないことから、これらを公開しても、本件販売業者等に明らかに不利益を与えるとは認められない。

エ なお、仕入量、仕入日及び販売量並びに調査年月日並びに苦情の有無に関する情報は、その内容から、法人に関する情報以外の非公開情報を定める条例第7条第1項第1号及び第3号から第7号までのいずれにも該当しない。

(4) 以上のことから、本件販売業者等の名称、住所及び連絡先は、条例第7条第1項第2号に該当するが、仕入量、仕入日及び販売量並びに調査年月日並びに苦情の有無に関する情報は、条例第7 条第1 項各号に該当しないと認められる。

4 上記のことから、「第1 審査会の結論」のように判断する。

第6 審査会の処理経過
年 月 日処 理 経 過
平成18年7月27日諮問書の受理
8月1日実施機関に弁明意見書を提出するよう通知
9月8日実施機関の弁明意見書を受理
9月15日異議申立人に弁明意見書の写しを送付
併せて、弁明意見書に対する反論があるときは反論意見書を、口頭での意見陳述を希望する場合は意見陳述申出書を提出するよう通知
10月10日異議申立人の反論意見書及び意見陳述申出書を受理
11月17日
(第72回審査会)
調査審議
異議申立人の意見を聴取
平成19年1月16日
(第74回審査会)
調査審議
実施機関の意見を聴取
3月15日
(第76回審査会)
調査審議
平成21年9月8日
(第105回審査会)
調査審議
9月17日答申


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