情報公開制度について考える

情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

東京都情報公開審査会 答申第402号 学校法人○○の文京区○○の校舎新築工事について東京都下水道局…

2008年03月03日 | 確認検査員の氏名/建築士の氏名
諮問第484号
答申


1 審査会の結論
 「学校法人○○の文京区○○の校舎新築工事について、東京都下水道局が受けた文書一式(印影は除く)」の一部開示決定について、別表に掲げる部分については開示すべきであるが、その他の部分については非開示が妥当であり、さらに、「協議書」及び「公共下水道一時使用届」を対象公文書と特定し、改めて開示又は非開示の判断をすべきである。

2 審査請求の内容
(1)審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った「学校法人○○の文京区○○の校舎新築工事について東京都下水道局が受けた文書一式(印影は除く)」の開示請求に対し、東京都下水道局長が平成19年7月5日付けで行った一部開示決定について、その取消しを求めるというものである。

(2)審査請求の理由
 審査請求人が、審査請求書及び意見書で主張している審査請求の主な理由は、次のように要約される。

ア 条例前文では、条例における解釈及び運用の基本原則として、「新たな時代に向けて地方分権が進展する中で、公正で透明な都政の推進と都民による都政への参加の促進により、開かれた都政を実現し、日本国憲法が保障する地方自治を確立していくことが求められている。情報公開制度は、このような開かれた都政を推進していく上でなくてはならない仕組みとして発展してきたものである。東京都は、都民の『知る権利』が情報公開の制度化に大きな役割を果たしてきたことを十分に認識し、都民がその知ろうとする東京都の保有する情報を得られるよう、情報の公開を一層進めていかなければならない。このような考え方に立って、この条例を制定する。」と定めている。情報公開を原則として認め、行政の透明性を確保することにより適正な権力の執行を担保することが、条例の趣旨であると考えられる。

イ 東京都下水道局長は本件文書に記載された建築士の氏名を非開示とした。しかしながら、建築士の情報は、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」に該当し条例7条2号に該当しない、若しくは、以下に示すように、条例7条2号ただし書イ(法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報)に該当するから、開示されるべきである。

(ア)社会資本整備審議会建築分科会の中間報告(平成18年2月24日)において、「建築士及び建築士事務所、指定確認検査機関に関する情報開示制度の充実、強化」として「建築士事務所の開設者に対し、毎年一回一定の時期に所属するすべての建築士の氏名、業務実績等の書類の提出を義務付けるとともに、都道府県知事はこれを一般の閲覧に供するようにすべきである。」と提言されている。

(イ)平成19年6月20日施行の建築士法では「第24条の5 建築士事務所の開設者は、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる書類を、当該建築士事務所に備え置き、設計等を委託しようとする者の求めに応じ、閲覧させなければならない。1 当該建築士事務所の業務の実績を記載した書類、2 当該建築士事務所に属する建築士の氏名及び業務の実績を記載した書類、3 設計等の業務に関し生じた損害を賠償するために必要な金額を担保するための保険契約の締結その他の措置を講じている場合にあっては、その内容を記載した書類、4 その他建築士事務所の業務及び財務に関する書類で国土交通省令で定めるもの」と規定している。

(ウ)最高裁判所平成10年(行ヒ)第54号「公文書非公開決定処分取消請求事件」平成15年11月11日判決では、「個人に関する情報」の解釈として、
 (a)法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者に準ずる地位にある者以外の従業員の職務の遂行に関する情報は、その者の権限に基づく当該法人等のための契約の締結等に関する情報を除き、「個人に関する情報」に当たる。
 (b)法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者若しくはこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報又はその他の者が権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報その他の法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報は、「個人に関する情報」に当たらない。
 (c)国及び地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、「個人に関する情報」に当たらない。
 と判示している。
 また、第12期神奈川県情報公開運営審議会報告書(平成19年3月20日)でも、法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報は、個人情報でないとの判断を示している。
 三重県情報公開審査会答申第271号(平成19年5月11日)では、法人等の代表者が職務として行う行為など当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、三重県情報公開条例7条2号(個人に関する情報)に該当せず、三重県情報公開条例7条3号(法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報)の該当性を検討すべきであり、「このことは上記のように試験機関内部で責任ある立場にある者が、その試験に関し試験機関を代表して当該試験機関の職務として行う行為に関する情報についても、同様であると考えられる。」として、フェロシルトの土質試験の試験結果報告書に試験者又は整理担当者として記載された者の氏名を開示すべきであると判断している。
 上の事例と同様に考えると、東京都下水道局に排水に関する事前協議を申請した者の情報、また、設計図面等を作成した建築士の情報は、「建築士事務所の代表者若しくはこれに準ずる地位にある者が当該建築士事務所の職務として行う行為に関する情報」又は「権限に基づいて当該建築士事務所のために行う契約の締結等に関する情報」と考えられる。条例7条2号ではなく、条例7条3号の該当性を検討すべきである。

(エ)学校法人○○の校舎新築工事の排水計画は、建築計画と一体となるものである。特に、多数の生徒が利用し、地下にも居室を持つような学校施設では、排水のための大規模な設備の設計を伴う。排水のための設計図面等の作成は、建築士法3条1項1号の規定による一級建築士の業務の一環と考えるべきである。
 東京都下水道局との排水に関する事前協議の申請書は、建築士法21条の規定により、一級建築士が建築主を代理して作成したものと考えられる。東京都下水道局の保有する施設は、都民の生活に深く関わっているものであり、建築物との接続において、欠陥のない、安全性が確保された設計を行うことが求められている。排水設備を設計した建築士の役割は大きいと考えられる。特に、近時、建築士事務所が発注者に無断で下請け事務所に設計させた問題なども起きており、設計図面がどの建築士によって作成されたかを明らかにすることは、公益上必要であると考える。
 なお、設計監督業(報酬の収得を目的とし他人の依頼を受けて、土木又は建築に関する設計、工事監理、その他設計等に関連する業務を行う事業)は、地方税法72条の2第9項16号で第三種事業とされている。

(オ)建築基準法93条の2では、特定行政庁は「建築計画概要書」及び「建築基準法令による処分の概要書」の閲覧の請求があった場合には閲覧させなければならないと規定している。
 閲覧を請求できる者は限定されていない。誰でも特定行政庁に請求すれば、建築主、設計者、施工者、建築敷地の地名地番、建築計画の概要等の情報を得ることができる制度として運用されている。
 建築計画概要書は、建築基準法施行規則11条の4の規定により、別記第三号様式によるものとされ、建築計画に関わったすべての建築士の氏名と資格登録番号を記載することが義務付けられている。資格登録番号は、資格を証明するために、公にされているものと考えられる。

(カ)建築士法23条の9の規定により、建築士事務所の設計等の業務に関する報告書を閲覧することができる。この報告書には、建築士法23条の6第2号と建築士法施行規則20条の3第1項1号の規定により、建築士事務所に所属する建築士の氏名と資格登録番号が記載されている。

(キ)文京区中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整及び開発事業の周知に関する条例では、建築計画と開発事業の事前公開を義務付けている。建築主は、「建築計画のお知らせ」の標識に、建築主、設計者、施工者、連絡先担当者、建築計画の概要等の情報を記載して、工事の予定地に設置しなければならない。また、文京区長に提出された標識設置届は、文京区役所の行政情報センターの書架に置かれ、誰でも自由に見ることができ、行政情報センターのセルフサービスの複写機で写しを取ることができる。東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例の規定により東京都知事に提出された標識設置届も、東京都庁の都民情報ルームの書架に置かれ、誰でも自由に見ることができ、都民情報ルームのセルフサービスの複写機で写しを取ることができる。この建築計画の事前公開の制度は、東京都や文京区に限ったものではなく、全国的に実施されているものである。背景には、参議院が昭和51年11月1日に「地方公共団体が条例又は指導要綱等で定める建築計画の事前公開、事前協議等については当該地方公共団体の自主性に十分配慮すること」との附帯決議をしたことがある。

ウ 本件文書の平成19年7月5日付一部開示決定の通知書に、排水に関する事前協議の申請者と設計図面等を作成した建築士の氏名を非開示とした旨の記載がされていない。それにもかかわらず、東京都下水道局長がこれらの情報を黒塗りにして開示を実施したことに、そもそも誤りがある。

エ 本件文書が、本件一部開示決定で開示されたものがすべてであるかどうか、再度、審査会から東京都下水道局長にお確かめいただきたい。
 審査請求人が東京都下水道局に口頭で尋ねたところ、他には文書が存在しないとの返答があったが、本件新築工事現場には東京都下水道局の標章の掲示があり、平成19年3月5日に協議が行われたことが記載されている。この協議のための文書(または、標章交付のための文書)について、東京都下水道局にお確かめいただきたい。

3 審査請求に対する実施機関の説明要旨
 実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。

(1)条例7条2号該当性について
 「排水における事前協議書」における連絡先の申請者及び作成者、並びに「排水に関する事前協議内容」における連絡先担当者欄に記載された氏名は、特定の個人を識別することのできる情報であり条例7条2号(個人情報)に該当するため、非開示とした。
 なお、本件対象公文書の作成及び提出は、建築士によることを義務付けているものではない。従って、「申請者」欄及び「作成者」欄には、実際の事務担当者の氏名を記載することとしている。

(2)条例7条4号該当性について
 建物内の構造は、公にすることにより進入経路が明らかになる等、犯罪の予防に支障をきたす恐れがあり、条例7条4号(犯罪の予防・捜査等情報)に該当するため、非開示とした。

4 審査会の判断
(1)審議の経過
 審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。

年月日審議経過
平成19年 7月27日諮問
平成19年 9月20日実施機関から理由説明書収受
平成19年10月22日実施機関から説明聴取(第83回第二部会)
平成19年10月24日審査請求人から意見書収受
平成19年11月21日審議(第84回第二部会)
平成19年12月21日審議(第85回第二部会)
平成20年 1月29日審議(第86回第二部会)


(2)審査会の判断
 審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。

ア 本件対象公文書について
 実施機関は、本件開示請求に対し、平成18年12月26日収受の「大量排水協議書」(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定した上で、一部開示決定を行った。
 実施機関では、新たに建築又は増改築する建築物から大量の排水が生じる場合は、建築主に対し、建築確認申請の前に、実施機関との間で排水方式等について協議することを求めている。本件対象公文書は、学校法人○○が、文京区○○に建築物(以下「本件建築物」という。)を新築するに当たり、排水方式等に関して協議を行う際に、実施機関に届け出た協議書である。
 本件対象公文書は、「排水に関する事前協議書」、「排水に関する事前協議内容」及び添付図面からなる。実施機関は当初、添付図面に記載された建物内の詳細な構造を、条例7条4号に該当するとして非開示としていたが、その後、排水に関する事前協議書に記載された「連絡先の申請者氏名」及び「連絡先の作成者氏名」並びに排水に関する事前協議内容に記載された「担当者氏名」を、条例7条2号に該当するとして非開示とすることとし、平成19年7月31日付けで、改めて一部開示決定を行った。したがって、実施機関は、本件一部開示決定において、「連絡先の申請者氏名」、「連絡先の作成者氏名」及び「担当者氏名」を条例7条2号に該当するとして、また、添付図面に記載された本件建築物の詳細な構造を条例7条4号に該当するとして非開示としたものと認められる。

イ 審査会の審査事項について
 審査請求人から提出された審査請求書及び意見書を審査会が見分したところ、審査請求人が異議を申し立てているのは、実施機関が条例7条2号に該当するとして非開示とした部分の妥当性及び対象公文書の特定についてであることが認められる。したがって、審査会では、本件対象公文書における条例7条2号該当性及び対象公文書の特定の適否について判断する。

ウ 条例7条2号該当性について
 条例7条2号本文は、「個人に関する情報で特定の個人を識別することのできるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非開示情報として規定しており、同号ただし書において、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要と認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報については、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定している。
 本件対象公文書に記載された「連絡先の申請者氏名」、「連絡先の作成者氏名」及び「担当者氏名」は、特定の個人を識別することのできる情報であり、条例7条2号本文に該当する。
 実施機関は、「連絡先の申請者氏名」及び「連絡先の作成者氏名」は、下水道設備に関する事務担当者の氏名であり、その性質上、公にされているものとは認められない旨主張する。
 しかしながら、本件対象公文書を審査会が見分したところ、「連絡先の申請者氏名」及び「連絡先の作成者氏名」は、添付図面の作成者欄に記載されている氏名と同一人の氏名であり、かつ、添付図面の作成者欄は既に開示されていることが認められた。添付図面の作成者欄について実施機関に確認したところ、当該欄には、本件建築物の設備全般に関しての責任者の氏名が記載されているとのことである。
 審査会が調査したところ、建築設備全般に係る責任者は、通常、建築基準法(昭和25年法律第201号)6条1項の定めにより建築確認申請時に特定行政庁に提出される建築計画概要書(建築基準法施行規則別記第三号様式)の、「建築設備に関し意見を聴いた者」欄に記載される。そして、同法93条の2は、「特定行政庁は、確認その他の建築基準法令の規定による処分並びに12条1項及び3項の規定による報告に関する書類のうち、当該処分若しくは報告に係る建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして国土交通省令で定めるものについては、国土交通省令で定めるところにより、閲覧の請求があった場合には、これを閲覧させなければならない。」と規定しており、建築基準法施行規則11条の4によれば、建築基準法93条の2にいう国土交通省令で定める書類には、建築計画概要書が含まれている。建築計画概要書が一般の閲覧に供されている以上、建築設備の責任者の氏名は、法令等の規定により既に公にされている情報と認められる。
 したがって、建築設備全般に係る責任者として記載されていると認められる本件対象公文書の「連絡先の申請者氏名」及び「連絡先の作成者氏名」は、条例7条2号ただし書イに該当するため、開示されるべきである。
 一方で、「担当者氏名」について実施機関に確認したところ、当該氏名は本件対象公文書の届出者である建築主の従業員の氏名であるとのことであった。したがって、その内容及び性質に照らせば条例7条2号ただし書のいずれにも該当しないため、「担当者氏名」について非開示とした実施機関の決定は妥当である。

エ 本件対象公文書の特定について
 本件開示請求書によると、開示請求の内容は「学校法人○○の文京区○○の校舎新築工事について東京都下水道局が受けた文書一式(印影は除く)」と記載され、本件開示請求の趣旨は本件建築物の新築工事に関して実施機関が保有する全ての文書の開示を求めるものと解される。
 審査請求人は、本件建築物の建設工事現場には、実施機関の名が記載され、かつ、本件対象公文書とは異なる日付の記載された標章が掲示されており、この標章の根拠となった公文書その他の対象公文書として特定すべき公文書が他にも存在するはずである、と主張している。
 これについて、審査会から実施機関に確認したところ、本件建築物の新築工事に際して、実施機関は本件対象公文書以外にも、「協議書」及び「公共下水道一時使用届」の2件の文書を保有していることが判明した。
 協議書は、工事施工中の下水管破損事故等を防ぐために、管路施設に影響が想定される工事を対象として、工事施工前に、当該工事の施工者と公共下水道の管理者である実施機関との間で、協議を行った際に提出された公文書である。また、公共下水道一時使用届は、工事施工中に生じる排水及び湧水を公共下水道に排出するために、工事施工者が実施機関に公共下水道の使用を届け出たものである。なお、審査請求人の主張する工事現場に掲示された標章は、工事施工者が協議書及び公共下水道一時使用届を提出した際に、実施機関が工事施工者に対して交付したものであるとのことである。
 以上からすれば、協議書及び公共下水道一時使用届は、本件建築物の新築工事に関係して、実施機関が受け取った文書と解され、本件開示請求の趣旨からすれば、対象公文書として含めるのが適当である。したがって、実施機関は、協議書及び公共下水道一時使用届を対象公文書として特定した上で、改めて開示又は非開示の決定を行うべきである。

 よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。

(答申に関与した委員の氏名)
 瀬田 悌三郎、中村 晶子、中村 輝子、山田 洋

別表
開示すべき部分
本件対象公文書名開示すべき部分
平成18年12月26日収受「大量排水協議書」・「排水に関する事前協議書」のうち、「連絡先」の「大量排水協議書の申請者」及び「大量排水協議書の作成者」に記載された氏名

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